8 / 29
6 ぬすむ☆
しおりを挟む
敵から盗んだスキルを自分のものとして使用できる――そう説明した俺に、ダーナが目を剥いてのけぞった。
「なっ……そ、そのようなことが可能なのか!?」
「できるんだからしょうがない」
俺は肩をすくめた。
参考までに、パーティ追放からこれまでに使用した俺の手持ちスキルを列挙してみよう。
細かく説明するが、興味のない人はざっくりわかってくれれば十分だ。
今後使っていくうちに、使用頻度の高いものは自然に頭に残るだろうからな。
盗賊の頭を仕留めた赤い棘は、南の砂漠地帯に棲む魔物・バルーンサボテンの使う「ダンシングニードル」。
見ての通り、赤い棘を飛ばすだけのわかりやすいスキルだ。
棘は微細に振動していて、対象に突き刺さると、そこから対象の身体の奥へと潜り込む。
棘の貫通力はDEXに依存するらしく、俺が使うとバルーンサボテンとは桁違いの貫通力を発揮する。
だが、対象を貫通するにはまず対象に刺さる必要がある。甲羅や鱗、鎧など、対象の硬い部分にぶつかると、そもそも棘が刺さらない。急所を狙いすまして放つのがコツである。
なお、このスキルはMPを消費しない。
もともと、バルーンサボテンが身体に生えてる赤い棘を飛ばすという体裁のスキルだからだろう。
……えっ、なぜ身体に棘の生えてない俺がこのスキルを使えるのかって?
それは、煌めきの神にでも聞いてくれ。
裸でさまよっても凍えずに済んだのは、「凍死耐性」のおかげだ。
寒い地方に出現するフリージングスライムから入手した。
このスキルは、凍死だけは防いでくれるものの、寒さそのものがなくなるわけじゃない。
だが、しもやけや凍傷を防いでくれるので、寒い地域では重宝する。
「凍死耐性」は常時効果が発揮されるタイプのスキルだから、いちいち使用する必要がないのもありがたい。
ただし、「凍死耐性」は自分一人にしか効果がない。
俺一人が寒さに耐えられたところで、一緒にいるパーティメンバーが凍えてしまっては意味がない。
魔法使いや賢者が使う暖気の魔法は、パーティ全体に有効だ。
結局、寒い地域では暖気魔法を使うことになる。
それなら、「凍死耐性」があってもなくても変わらない。
一応、俺個人への「凍結」の状態異常を防ぐのと、MPの消費がないのが利点ではあるんだけどな。
暴れる盗賊の動きを止めたのは「青メデューサの瞳」 。状態異常である「停止」を引き起こすスキルだ。
睨んだ相手を石化させるという魔物メデューサ。その眷属である青メデューサから盗んだスキルだ。
だが、「青メデューサの瞳」はボスモンスターには効かないことがほとんどだ。
また、俺よりINTが高い相手だと、成功率が低い上に、一秒も持たずに効果が切れる。
その一秒が命を救うこともないではないが、常用するには微妙なスキルだ。
このスキルは魔法扱いではないようで、MPを消費しない。
魔法使いの使う「ポーズ」や僧侶の「ラプス」が詠唱時間とMPの両方を必要とすることを思えば、このスキルはかなりのぶっ壊れだ。
俺よりINTの低い相手、たとえば破滅の塔にいたキュクロプスのような魔物相手には有効だ。
高熱を発してうなされるダーナにかけたのは「虚無の波紋」。
「青メデューサの瞳」をかけた盗賊の停止を解除したのもこのスキルだ。INTの低い盗賊では、いつになったら停止が切れるかわからなかったからな。
前にも説明した通り、この「虚無の波紋」は、周囲にいる敵味方すべてのバフ・デバフ・状態異常・戦闘不能を強制解除するスキルである。
ダークフェニックスとの戦いで苦労して盗んだ。
パーティに有利な効果も区別なく消し飛ばしてしまうため、単独行動中でもないと使う機会がなかなかない。
ただ、これだけの効果にもかかわらず、MPの消費はゼロである。
かなりのぶっ壊れスキルだろう。
ダークフェニックスは、このスキルで取り巻きの小さな分身体を際限なく蘇生して「暁の星」を苦しめた。
取り巻きの分身体もこのスキルを所有していて、本体が倒されると即座に蘇生させてきたものだ。
(あの時はどうやって勝ったんだっけ?)
そうだ。
俺がダークフェニックス本体から「虚無の波紋」を盗んだことで、本体が分身体を蘇生できなくなったんだった。
その結果、分身体を倒してから本体を倒すというボス戦のセオリー通りに事が運んだ。
ルシアスは「思ったより楽だったな」などと言ってたが、本体が「虚無の波紋」を盗まれてなかったら、もっと苦戦してただろう。
砦の城壁を透視したのは、「ウォールトランスペアレント」のスキルだ。
このスキルを持ってたのはエリートデュラハン。
頭がないのにどうやって索敵してるのかと思ったら、壁を透視するスキルを持ってたってわけだ。
それ以降、ダンジョンを探索する時には、壁の向こうにエリートデュラハンがいないかチェックするのが習慣になった。
エリートデュラハンによる不意打ちは、勇者パーティを瓦解に追い込むことも多いらしい。こんなスキルを持ってるなら納得だ。
砦の城壁に登った時に使ったのは「捕食蔓」。
ジャングルの食人植物の魔物から盗み取った。
強い魔物ではなかったが、このスキルは有用だ。
攻撃力はないが、自在に収縮できる光の蔓を使って、城壁や崖を登ったり、高いところに引っ掛けて深い谷を渡ったりできる。
(まあ、俺だけなんだけどな……)
斥候役であるシーフが地形を無視して動けるメリットは大きい。
もしこのスキルがなかったら、崖を登るには特殊な器具と技術が必要だ。
もちろん、そういう技術も覚えてはいるが、ダンジョン内にロープや崖登り用器具を持ち込むのは大変すぎる。マジックポーチの容量にだって制限はあるからな。
このスキルも、魔物が使うことを前提にしているせいか、MPを消費しない。
他のスキルでもそうだが、強い魔物が強いスキルを持っているとは限らない。
強い魔物は高いステータスそのものが厄介なことが多く、スキル自体は案外基本的なものだったりする。
もちろん、強い魔物が強いスキルを持ってることもある。
砦の盗賊を全滅させた「コールドブレス」は、フロストドラゴンから盗んだ強力なスキルだ。
フロストドラゴンが使う本家本元の「コールドブレス」は、サードリックの吹雪魔法を鼻で笑うような威力だった。
が、INTが高くない俺の「コールドブレス」では、あの程度がせいぜいだ。
サードリックの吹雪より発動が早い利点はあるが、威力の面ではいくらか落ちる。
発動してからダメージや「凍結」が発生するまでにタイムラグがあるのも厄介だ。そのあいだに効果範囲内から逃げられることもある。
ただし、このスキルもMPの消費はゼロである。
魔法ではなく、フロストドラゴンの吐くブレスだから……だろう。
なぜそれが、ドラゴンでもない俺に使えるのか?
わからん。なんもわからん。
とにかく、使えるものは使えるのだ。
俺の説明を聞き終え、ダーナが言った。
「では、私と戦った時に使ったスキルは、キラータランチュラの『粘着網』と、グリーンジャイアントなどの持つ『憤激』か」
「よくわかったな」
塔の屋上を飛び回って奇襲と離脱を繰り返すダーナには手を焼いた。
ダーナの翼を封じたのが「粘着網」。トリモチのようにべたべたした網を投げかけ身動きを封じるスキルだ。
ルシアスを追い詰めたダーナを退けるのには、「憤激」のスキルを使った。
割と多くの魔物が持っているスキルで、HPが一定値を下回った時に、次の一撃に限って、STRとDEXを爆発的に引き上げる。
俺の体感では、STR、DEXともに2.5倍くらいになってるはずだ。
魔物が使う場合には、ステータスの上昇と引き換えに「錯乱」の状態異常に陥るが、俺は「錯乱耐性」のスキルも持っている。
結果、俺は「憤激」をデメリットなしで使うことができた。
とはいえ、使うためにはHPを一定値以下にする必要があるので、回復役のいる勇者パーティでは出番が空くない。
ダーナと戦った時には、ルシアスが追い詰められたのを見てから自分に「ワンディジット」――対象のHPを一桁にするというスキルを使ってHPを減らし、「憤激」の使用条件を満たしたのだ。
この「ワンディジット」は強そうに見えるかもしれないが、すべてのパラメータが自分以下の相手にしか効果がない。
「自分以下」は「自分と同じ」を含むので、自分自身には効果がある。
自分自身のHPを一桁にできたところで、こんな場合にしか使いようがないのだが。
「とまあ、そんなわけで、いろんなことができるっちゃできる。
ただ、本来の魔物のスキルに比べると、威力が低くなりがちだな。
ルシアスの言うように、純粋な火力ならルシアス、エイダ、サードリックには劣るんだ」
「それだけ多種多様なスキルが使えるのなら、十分に補いがつくと思うがな」
「旅が進むにつれて、中途半端なスキルの出番は減っていく。
俺がいくつも持ってる状態異常攻撃はボスモンスターには効かない。レベルが高いモンスターにも効きにくい。
俺のINTが低いのがまたネックでな。どうも状態異常の成功率はINTの差で決まってることが多いみたいだ」
「昏睡強盗」や「脳震盪」、「痺れ鞭」はDEX依存だから使えなくもない。
実際、破滅の塔でも使っていた。
ただ、これらのスキルは後衛である俺が攻撃を相手にヒットさせる必要がある。
ダーナ戦で活躍した「粘着網」ならパラメータは関係ないが、網より大きい相手には意味がない。
「それでも、索敵や補助のスキルは有効であろう」
「それはそうなんだけどな。なまじあのパーティは強いから、索敵して敵を避ける必要があまりないんだ。
補助スキルも、前向いて戦ってる最中には恩恵が感じ取りにくいんだろう。
まさか、まったくわかってもらえてないとは思ってなかったけどな……」
同じ後衛であるシルヴィアは、よく俺のスキルのことを聞いてきた。
瘴気を打ち消す「瘴気結界」のスキルはパーティ単位で有効だから、シルヴィアが魔法で神聖結界を張る労力を減らしてやれる。
最年少のシルヴィアは、戦闘中取り乱すことも多かったから、慣れるまではってことで、俺が「瘴気結界」を張っていた。
他にも全員の負担軽減のために、こまめにスキルを切り替えていたのだが……
「そりゃ、性格に難のある奴ばっかのパーティだとは思ってたさ。
でも、魔王を倒すためには必要な我慢だと思ってた。
実力のある奴の性格が悪いなんて、むしろよくあることだろう。そう思ってな。
ったく、俺もつくづく見る目がないぜ……」
「キリク……」
ため息をつく俺に、ダーナは返事に困ったようだ。
「さあ、もういいぜ。種明かしは終わりだ」
俺はそう言うと、砦の床にどっかりと座り込む。
「ひと思いにやってくれ」
襟を開き、首筋を晒して言う俺に、ダーナが小さく息を呑んだ。
「なっ……そ、そのようなことが可能なのか!?」
「できるんだからしょうがない」
俺は肩をすくめた。
参考までに、パーティ追放からこれまでに使用した俺の手持ちスキルを列挙してみよう。
細かく説明するが、興味のない人はざっくりわかってくれれば十分だ。
今後使っていくうちに、使用頻度の高いものは自然に頭に残るだろうからな。
盗賊の頭を仕留めた赤い棘は、南の砂漠地帯に棲む魔物・バルーンサボテンの使う「ダンシングニードル」。
見ての通り、赤い棘を飛ばすだけのわかりやすいスキルだ。
棘は微細に振動していて、対象に突き刺さると、そこから対象の身体の奥へと潜り込む。
棘の貫通力はDEXに依存するらしく、俺が使うとバルーンサボテンとは桁違いの貫通力を発揮する。
だが、対象を貫通するにはまず対象に刺さる必要がある。甲羅や鱗、鎧など、対象の硬い部分にぶつかると、そもそも棘が刺さらない。急所を狙いすまして放つのがコツである。
なお、このスキルはMPを消費しない。
もともと、バルーンサボテンが身体に生えてる赤い棘を飛ばすという体裁のスキルだからだろう。
……えっ、なぜ身体に棘の生えてない俺がこのスキルを使えるのかって?
それは、煌めきの神にでも聞いてくれ。
裸でさまよっても凍えずに済んだのは、「凍死耐性」のおかげだ。
寒い地方に出現するフリージングスライムから入手した。
このスキルは、凍死だけは防いでくれるものの、寒さそのものがなくなるわけじゃない。
だが、しもやけや凍傷を防いでくれるので、寒い地域では重宝する。
「凍死耐性」は常時効果が発揮されるタイプのスキルだから、いちいち使用する必要がないのもありがたい。
ただし、「凍死耐性」は自分一人にしか効果がない。
俺一人が寒さに耐えられたところで、一緒にいるパーティメンバーが凍えてしまっては意味がない。
魔法使いや賢者が使う暖気の魔法は、パーティ全体に有効だ。
結局、寒い地域では暖気魔法を使うことになる。
それなら、「凍死耐性」があってもなくても変わらない。
一応、俺個人への「凍結」の状態異常を防ぐのと、MPの消費がないのが利点ではあるんだけどな。
暴れる盗賊の動きを止めたのは「青メデューサの瞳」 。状態異常である「停止」を引き起こすスキルだ。
睨んだ相手を石化させるという魔物メデューサ。その眷属である青メデューサから盗んだスキルだ。
だが、「青メデューサの瞳」はボスモンスターには効かないことがほとんどだ。
また、俺よりINTが高い相手だと、成功率が低い上に、一秒も持たずに効果が切れる。
その一秒が命を救うこともないではないが、常用するには微妙なスキルだ。
このスキルは魔法扱いではないようで、MPを消費しない。
魔法使いの使う「ポーズ」や僧侶の「ラプス」が詠唱時間とMPの両方を必要とすることを思えば、このスキルはかなりのぶっ壊れだ。
俺よりINTの低い相手、たとえば破滅の塔にいたキュクロプスのような魔物相手には有効だ。
高熱を発してうなされるダーナにかけたのは「虚無の波紋」。
「青メデューサの瞳」をかけた盗賊の停止を解除したのもこのスキルだ。INTの低い盗賊では、いつになったら停止が切れるかわからなかったからな。
前にも説明した通り、この「虚無の波紋」は、周囲にいる敵味方すべてのバフ・デバフ・状態異常・戦闘不能を強制解除するスキルである。
ダークフェニックスとの戦いで苦労して盗んだ。
パーティに有利な効果も区別なく消し飛ばしてしまうため、単独行動中でもないと使う機会がなかなかない。
ただ、これだけの効果にもかかわらず、MPの消費はゼロである。
かなりのぶっ壊れスキルだろう。
ダークフェニックスは、このスキルで取り巻きの小さな分身体を際限なく蘇生して「暁の星」を苦しめた。
取り巻きの分身体もこのスキルを所有していて、本体が倒されると即座に蘇生させてきたものだ。
(あの時はどうやって勝ったんだっけ?)
そうだ。
俺がダークフェニックス本体から「虚無の波紋」を盗んだことで、本体が分身体を蘇生できなくなったんだった。
その結果、分身体を倒してから本体を倒すというボス戦のセオリー通りに事が運んだ。
ルシアスは「思ったより楽だったな」などと言ってたが、本体が「虚無の波紋」を盗まれてなかったら、もっと苦戦してただろう。
砦の城壁を透視したのは、「ウォールトランスペアレント」のスキルだ。
このスキルを持ってたのはエリートデュラハン。
頭がないのにどうやって索敵してるのかと思ったら、壁を透視するスキルを持ってたってわけだ。
それ以降、ダンジョンを探索する時には、壁の向こうにエリートデュラハンがいないかチェックするのが習慣になった。
エリートデュラハンによる不意打ちは、勇者パーティを瓦解に追い込むことも多いらしい。こんなスキルを持ってるなら納得だ。
砦の城壁に登った時に使ったのは「捕食蔓」。
ジャングルの食人植物の魔物から盗み取った。
強い魔物ではなかったが、このスキルは有用だ。
攻撃力はないが、自在に収縮できる光の蔓を使って、城壁や崖を登ったり、高いところに引っ掛けて深い谷を渡ったりできる。
(まあ、俺だけなんだけどな……)
斥候役であるシーフが地形を無視して動けるメリットは大きい。
もしこのスキルがなかったら、崖を登るには特殊な器具と技術が必要だ。
もちろん、そういう技術も覚えてはいるが、ダンジョン内にロープや崖登り用器具を持ち込むのは大変すぎる。マジックポーチの容量にだって制限はあるからな。
このスキルも、魔物が使うことを前提にしているせいか、MPを消費しない。
他のスキルでもそうだが、強い魔物が強いスキルを持っているとは限らない。
強い魔物は高いステータスそのものが厄介なことが多く、スキル自体は案外基本的なものだったりする。
もちろん、強い魔物が強いスキルを持ってることもある。
砦の盗賊を全滅させた「コールドブレス」は、フロストドラゴンから盗んだ強力なスキルだ。
フロストドラゴンが使う本家本元の「コールドブレス」は、サードリックの吹雪魔法を鼻で笑うような威力だった。
が、INTが高くない俺の「コールドブレス」では、あの程度がせいぜいだ。
サードリックの吹雪より発動が早い利点はあるが、威力の面ではいくらか落ちる。
発動してからダメージや「凍結」が発生するまでにタイムラグがあるのも厄介だ。そのあいだに効果範囲内から逃げられることもある。
ただし、このスキルもMPの消費はゼロである。
魔法ではなく、フロストドラゴンの吐くブレスだから……だろう。
なぜそれが、ドラゴンでもない俺に使えるのか?
わからん。なんもわからん。
とにかく、使えるものは使えるのだ。
俺の説明を聞き終え、ダーナが言った。
「では、私と戦った時に使ったスキルは、キラータランチュラの『粘着網』と、グリーンジャイアントなどの持つ『憤激』か」
「よくわかったな」
塔の屋上を飛び回って奇襲と離脱を繰り返すダーナには手を焼いた。
ダーナの翼を封じたのが「粘着網」。トリモチのようにべたべたした網を投げかけ身動きを封じるスキルだ。
ルシアスを追い詰めたダーナを退けるのには、「憤激」のスキルを使った。
割と多くの魔物が持っているスキルで、HPが一定値を下回った時に、次の一撃に限って、STRとDEXを爆発的に引き上げる。
俺の体感では、STR、DEXともに2.5倍くらいになってるはずだ。
魔物が使う場合には、ステータスの上昇と引き換えに「錯乱」の状態異常に陥るが、俺は「錯乱耐性」のスキルも持っている。
結果、俺は「憤激」をデメリットなしで使うことができた。
とはいえ、使うためにはHPを一定値以下にする必要があるので、回復役のいる勇者パーティでは出番が空くない。
ダーナと戦った時には、ルシアスが追い詰められたのを見てから自分に「ワンディジット」――対象のHPを一桁にするというスキルを使ってHPを減らし、「憤激」の使用条件を満たしたのだ。
この「ワンディジット」は強そうに見えるかもしれないが、すべてのパラメータが自分以下の相手にしか効果がない。
「自分以下」は「自分と同じ」を含むので、自分自身には効果がある。
自分自身のHPを一桁にできたところで、こんな場合にしか使いようがないのだが。
「とまあ、そんなわけで、いろんなことができるっちゃできる。
ただ、本来の魔物のスキルに比べると、威力が低くなりがちだな。
ルシアスの言うように、純粋な火力ならルシアス、エイダ、サードリックには劣るんだ」
「それだけ多種多様なスキルが使えるのなら、十分に補いがつくと思うがな」
「旅が進むにつれて、中途半端なスキルの出番は減っていく。
俺がいくつも持ってる状態異常攻撃はボスモンスターには効かない。レベルが高いモンスターにも効きにくい。
俺のINTが低いのがまたネックでな。どうも状態異常の成功率はINTの差で決まってることが多いみたいだ」
「昏睡強盗」や「脳震盪」、「痺れ鞭」はDEX依存だから使えなくもない。
実際、破滅の塔でも使っていた。
ただ、これらのスキルは後衛である俺が攻撃を相手にヒットさせる必要がある。
ダーナ戦で活躍した「粘着網」ならパラメータは関係ないが、網より大きい相手には意味がない。
「それでも、索敵や補助のスキルは有効であろう」
「それはそうなんだけどな。なまじあのパーティは強いから、索敵して敵を避ける必要があまりないんだ。
補助スキルも、前向いて戦ってる最中には恩恵が感じ取りにくいんだろう。
まさか、まったくわかってもらえてないとは思ってなかったけどな……」
同じ後衛であるシルヴィアは、よく俺のスキルのことを聞いてきた。
瘴気を打ち消す「瘴気結界」のスキルはパーティ単位で有効だから、シルヴィアが魔法で神聖結界を張る労力を減らしてやれる。
最年少のシルヴィアは、戦闘中取り乱すことも多かったから、慣れるまではってことで、俺が「瘴気結界」を張っていた。
他にも全員の負担軽減のために、こまめにスキルを切り替えていたのだが……
「そりゃ、性格に難のある奴ばっかのパーティだとは思ってたさ。
でも、魔王を倒すためには必要な我慢だと思ってた。
実力のある奴の性格が悪いなんて、むしろよくあることだろう。そう思ってな。
ったく、俺もつくづく見る目がないぜ……」
「キリク……」
ため息をつく俺に、ダーナは返事に困ったようだ。
「さあ、もういいぜ。種明かしは終わりだ」
俺はそう言うと、砦の床にどっかりと座り込む。
「ひと思いにやってくれ」
襟を開き、首筋を晒して言う俺に、ダーナが小さく息を呑んだ。
0
お気に入りに追加
1,180
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる