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第15章・共謀する聖人

◆ 28・三人のシャーロット(前) ◆

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 手触りで分かる。
 腹立たしいほどに慣れ親しんだベッドのシーツ。珍しいことに鳥の鳴き声も、鐘の音もない穏やかな目覚め。
 私はゆっくりと目を開いた。
 想像通りの天井だ。

「……またなのね」

 耳元で声がする。これまた聞き慣れた声。むしろ体感、私の声だ。自分で声を出したかと思うほどに感覚も何もかもが自分のものとして感じられた。

「起きなさいよ、私」

 今度は反対から声が聞こえる。
 またも全く同じ感覚を受けて、慌てて飛び起きた。

 左右を見る。

 白い夜着と黒い夜着の私が寝ていた。彼女たちの片方は気だるげに、片方は憤然と身を起こした。

「我がことながら、イヤになるわね。で? 今度はどこまで行ったのよ? ってか、誰に殺られてココに舞い戻ったわけ?」

 黒い方がイライラと聞く。
 白い方は頭を抱えてブツブツと呻く。

「あぁ、やっぱりそうなのよ、やっぱりそうだったのよっ。所詮、私は浅知恵なのよ。何度も何度もココに戻るしかないんだわ、頭が悪いのね、きっとそう、そうなのよ」

 自分がキレて嘆いている姿を外から見る羽目になるとは思いもしなかった。
 そこでふと、単純な興味から自分の寝着を見下ろす。
 灰色だ。


 嫌な色ね……。


「まずは自己紹介ね、私は黒に到達したの。察してもらえると思うけど、あっちは白に到達したのよ」

 白い方を指さす黒。

「じゃあ、私は灰色ってこと?」
「そうね、でもちょっと白が多いわ。ミスをたくさんしたんじゃない? 全く、何回やれば正解に辿り着けるのよっ」

「あの、黒い私……教えてちょうだい? ここは何なの?」
「ここは『時の狭間』よ。私たちは死ぬとココに一度くるの。そうしてまた一から始まる。私たちは一定の域に達した。今後はココで見送る瞬間だけ別物として存在する」
「待って、ちょっと……意味が分からないんだけど!」

 黒は溜息をつく。

「そのうち分かるわよ、まだあと百年以上の余裕があるんだし」


 冗談じゃないっ、そんなにリスタートしてられないわよ!


 白が鬱屈した顔で私を見た、

「私たちはまた一つの集合体として、器に収まるのよ……それって、結局……。結局、私たちがある程度の正解を知っていても何の意味もないってことなのよ……。成功を、ただ待つだけ」
「それはそうね」

 黒も同意する。

「私たちの意識を残す方法はないの? 最初から知ってる状態でもう一度、最初からスタートする道よ!」

 彼女たちは顔を見合わせる。

「それができればとっくにやってるわね」

 黒が吐き捨てる。
 確かに天使のおっさんも記憶を失わせるしかなかったと言っていた。


 でも……本当にそうなんだろうか?


 黒い私と白い私。そうして灰色の――もしかしたら、この灰色こそが父の望んだ道かもしれない。怪しい父の考えに乗るのは不満だが、意味はあるはずだ。

「黒、白! 今までの人生を教えあって、違いを見つけましょ」

 宣言すれば、黒が不満げに「なんで新入りのあんたが決めるのよ」と、顔を顰めた。
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