350 / 375
第15章・共謀する聖人
◆ 27・死亡 ◆
しおりを挟むにじり寄るミランダから、目を逸らした一瞬。
それは瞬きにも満たない瞬間。
チクリと胸が痛む。
視線を下ろせば、黒い針が前から伸びていた。先を辿れば、アレックスの背に到達。
その針は彼ごと私を、刺し貫いていた。
うそ……っ
死ぬの……、私?
ここまで来た。
一段上とやらも経験し、魔王とも契約し、必要とされる城まで手に入れる――前なのだ。今までの人生が走馬灯となって浮かぶ。
あぁ……、どうしてよ……! どうして……。ここまで……来た、の……に……。
「ぅ……っ……っ」
涙が零れた。
悲しくてじゃない。悔しくて、だ。
「……だい」
前から声がした。顔を上げ視線を向ければ振り向いた彼の――ルーファの顔。
「……じょうぶ……、もんだ、い……ない、よっ」
ふわりとほほ笑む秀麗な顔に、カエルの顔が被った。
こんな状態で笑えるなど、正気とも思えない。それでも、彼の笑みはプリンス・オブ・コンクエストらしく完璧な笑みだ。
安心させ、信頼に足ると思わせてくれる。
たとえ、次々にパラパラと、まるでパズルのピースのように皮膚がはがれ、零れ落ちていようとも。幸いなのは、その剥がれ落ちた裏側も、残った方にも肉がなく、白い靄でしかないことだ。
あれっ、くす……。
外側が砂のように地面に散らばって、残った白い霧すらも、ひと風でかき消えた。
残ったのはミランダと私。
彼女は悠然と一歩踏み出し、私の真ん前に立つ。
「お嬢様、とても気分がいいです。あなたが次に起きた時、今回の記憶はないでしょう」
彼女は未だ散る破片を手に微笑む。
そこで気付いた。
破片は私の服の色だ。どうやら私も『同じ』状態らしい。だが、頭と感情が噛み合わない。アレックスが大丈夫だと言ったからか、私の心は先ほどよりも落ち着いていた。
「お嬢様、彼らが言うにはですね。どうやらあなたがココに到達したのは三回目らしいです。記憶を残すには魔王と聖女が同じ領域に達していなければならないようですよ?」
言外に『どうします?』と笑うメイド。
今、彼女に言うべきことは罵倒ではない。判明したことも多い。記憶を失っていたパターンも理解した。それならば、次にすべきことは協力者への――。
きおく、失うなら……。
「……し、え……て……」
かろうじて言葉になる。
正しく伝わったかは分からない。
教えてほしい。
次回こそ正しく選べるように、教えて欲しい。これが徒労で終わらぬように。
彼女は心底嬉しそうに私を見降ろしていたが、やがて手をつきだす。私の顔にめり込んだようなソレをグルグルと振り回し、一言。
「ご苦労様です」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
獣人公爵様に溺愛されすぎて死にそうです!〜乙女ゲーム攻略ダイアリー〜
神那 凛
恋愛
気づくと異世界乙女ゲームの世界!
メインキャラじゃない私はイケメン公爵様とイチャ甘ライフを送っていたら、なぜかヒロインに格上げされたみたい。
静かに暮らしたいだけなのに、物語がどんどん進んでいくから前世のゲームの知識をフル活用して攻略キャラをクリアしていく。
けれどそれぞれのキャラは設定とは全く違う性格で……
異世界溺愛逆ハーレムラブストーリーです。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
悪役令嬢は最強を志す! 〜前世の記憶を思い出したので、とりあえず最強目指して冒険者になろうと思います!〜
フウ
ファンタジー
ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢5歳。 先日、第一王子セドリックの婚約者として初めての顔合わせでセドリックの顔を見た瞬間、前世の記憶を思い出しました。
どうやら私は恋愛要素に本格的な……というより鬼畜すぎる難易度の戦闘要素もプラスしたRPGな乙女ゲームの悪役令嬢らしい。
「断罪? 婚約破棄? 国外追放? そして冤罪で殺される? 上等じゃない!」
超絶高スペックな悪役令嬢を舐めるなよっ! 殺される運命というのであれば、最強になってその運命をねじ伏せてやるわ!!
「というわけでお父様! 私、手始めにまず冒険者になります!!」
これは、前世の記憶を思い出したちょっとずれていてポンコツな天然お転婆令嬢が家族の力、自身の力を用いて最強を目指して運命をねじ伏せる物語!!
※ この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。
上記サイトでは先行投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる