上 下
344 / 375
第15章・共謀する聖人

◆ 21・悪魔もどきの天使(前) ◆

しおりを挟む
 想像通り、風が止んだ先にはミランダの姿。
 いつも通りのメイド姿で、ポカンと口を開けている。

「は?」

 彼女は私とアレックス、烏を順繰り見る。


 うんうん、驚くよね。


「ミランダ、久しぶりね」

 私は口火を切った。

「約束を守ったわ、私」
「……は?」
「ほら、一段上に引き上げてあげるって話したじゃない?」

 彼女を悪魔に堕とした私は約束のもとに、同盟関係を築いてきた。 まさに今、実現したわよ! あんたを天使に引き上げてやったわ!」

 彼女は意味が分からないらしく、しばし言葉を失っていた。

「は?」
「ミランダったら、ためて言うのがソレなの? あんた、ココに来てから疑問符しか言ってないじゃない」
「……お嬢様……、つまり、どういうことですか?」

 手を結んでなければ命の危機すら感じるところだが――。

「私、神っぽいのよね」

 我ながら馬鹿な言い分だ。他の人間が同じセリフを口にしていたなら、私も頭がイカレたと思う所だ。
 しかし、神妙な顔をしてアレックスが追加の言葉を吐く。

「信じられないのも無理はないけど、本当なんだよ。チャーリーは気が触れたわけじゃなくて、ボクも……あ、ボクはカエル王子こと第一王子の……」
「アレクサンダー様ですね。それは分かります。初めてその顔は見ましたが、狂ったお嬢様と動向を共にする人物など第一王子かライラ嬢くらいなものでしょうから」

 思ったより落ち着いた口調で応じるミランダ。そこはかとなく失礼なのは、彼女だけではない。

「そっか、良かった。それなら、君も分かると思うけど、ボクは意味のない嘘はつかないよ」
「ですね……。あなたがいなければ、お嬢様をぶち殺して、さっさと復讐完了してました」


 おいっ! あんた、私との契約は……。


「それで、私は悪魔未満なわけですが、天使ってなんですか?」

 柔軟な思考で、彼女は首を傾げる。

「立場的には私のゲボ……部下ってことよ。ただ、一段上にあがったのは間違いないわね!」

 この場にいるのだ。悪魔もどきでも、天使として認証されたとみていいだろう。

「ミランダ、何か自分の中での変化はないの? 力がアップしたとか、使えなかった技が使えるようになったみたいなそういう特典は?」
「特段感じません」
「何か使ってみようとしてよ。実は自分が気付いてないだけでー、とかかもしれないじゃないっ」
「……天使って、具体的に何をするんですか?」


 それは、気になるわね?


 私はミランダの直視を受けて、視線を烏に移す。

「イノチのセンテイ、タマシイのジョウカ、ジッコウせよ!」


 なるほど、良く分からないが天使はヤバイらしい。


 烏はミランダの上を旋回する。
 勢いよく、何度も何度も――見つめているうちに、羽が降ってきた。
 何枚もが、何十枚もに変わっていく。

「冷たい……」

 ミランダが不快げに呟く。降ってくる羽に触れると、まるで雪のように冷たかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

悪役令嬢ですが最強ですよ??

鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。 で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。 だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw 主人公最強系の話です。 苦手な方はバックで!

処理中です...