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第14章・灰は撒かれた

◆ 27・明示できるモノ ◆

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「時間をちょうだい!」

 頭を砂にすりつけ叫ぶ。

「はい?」
「お城の、掃除の時間……っ、お願いします!」
「姉様、それは……期限を延ばせ、という事でしょうか?」
「ですね!!!!」

 妹に土下座。
 可笑しなテンションの懇願。
 恥も外聞もない台詞と態度だが、プライドなど捨て去っていい。生き延びたいのだ。この場にいるメンバーは、所詮、私を殺そうとする敵A、狂った殺人狂な敵B、いつか私を殺しかねない潜在敵な弟に、『元』婚約者。
 虚勢を張って、立場を守って見せてる意味はない。
 フローレンスの反応を待つ私に、ヘクターの笑い声が耳を打つ。

「ハハッ! 面白いなぁ? お姉さんって、ホント逸材だよっ。そんな愉快な理由で殺されずに済むなんて、考えたの? あり得ると思うの?」


 ですよねぇ……。でも希望を抱くのは自由でしょうが!


 砂を見つめたまま、顔はあげない。
 じっとフローレンスの言葉を待つ。

「お掃除……、ですか」

 彼女は迷うような呟きを漏らす。

「んー、それをOKするって事はお姉さんの未来にもOKサインを出すって事だよ? だって殺すかどうかは掃除の質で決まるわけじゃないし。殺しちゃえばそこで終了でやり直しになるから、またここに至った時に掃除するわけでせば無意味すぎない?」
「そう、ですね……。姉様、わたしは姉様の命を今、狩ろうとしています」

 顔をあげる。

「ですから、お掃除はまたの……次回に、持ち越してくださいますか?」

 これは私にも分かる。
 交渉の余地はない。

「私の現状は、そんなに評価に足らないの? フローレンス、魔王をよく見て? こんなに成長したのよ? 城だって手に入れてるし、あと少しの時があれば魔王はもっと強くなるわ。あんたが今、私を殺そうとしているのは本当にルートからズレているからなの?」

 不思議そうな彼女の前で、私は立ち上がり、膝などについた砂を払い落とす。
 毅然として人差し指を突きつけた。

「本当は、魔王の成長が怖くて勝てるうちに摘み取りたいんじゃないの?!」
「何を仰るんですか、姉様」

 驚いた顔の彼女はどこから見ても、そんな事は考えていなかったのだと分かる。
 だが、そこには目を瞑る。

「あんたはあんたが勝てる軸を選び取ってるんじゃないの? それは……生命として当然の事ね……。あんたが卑怯なわけじゃない。きっと……無意識、かも。でも、どうして違うと言えるのか、公明正大に聖女を名乗るなら、証拠を見せてくれる?」
「……証拠、ですか?」

 明らかに戸惑った妹に頷く。

「ええ。私は動かないわ、この軸が『絶対に違う』というなら首を狩りなさいよ。根拠を提示できるならね」

 膝を揃え、砂に座る。
 先ほどの土下座とは違い、背を逸らしまっすぐに前に向く。
 もちろん、不安しかない。だが、ここまで言われて即、斧がふるえる人間はいないだろう。
 やがて――。

「……わかりました」 

 フローレンスが頷いた。

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