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第14章・灰は撒かれた

◆ 19・問われる罪(後) ◆

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 袋に詰められた時点でそれなりに暴れた私を、彼らは更に何かに入れた。
 布ごしに当たる感触から硬く狭い空間であることが分かったし、自分の立てる音や声がこもって響いたため、核心した――運ばれている。


 マズい……。


 着々と『長老会』とやらの場に引き出されているのだ。
 乱暴さはないものの、規則正しく届く揺れがそれを物語っている。
 すでに声の限り叫び疲れている私は、硬い床面に座り込んでいる。

「ツボかな……。窒息は勘弁してよね……」

 導き手は祈れと言った。
 それが本当に救いだとするなら、祈ってもいい。だが対象が分からない。


 私は悪役に割り振られた人間よ? 祈る相手が神や天使なわけないよね? って事は魔王? エイベルに? それとも契約中の炎の魔王の方?
 まさか堕天使本人フローラに?


 どれも正解で、どれも間違いな気がする。
 元々、信心はない私だ。片っ端からチャレンジするしかない。

「おっさん天使、どうか助けてくださいっ。あなたの悪役がヤバいですっ! もしくは手すきの天使でもいいので、誰か! 献金は弾みますーー……っ!」

 手を組み、必死に祈っては見たが手応えは皆無だ。それどころか、己の愚かさに穴に入りたい気分にさえなっている。


 やっぱ持つべき者は弟で魔王よね?


「エイベルーーっ!!!! お願い……っ」

 私は壁面を叩き、必死に叫ぶ。
 天使に対するよりは遥かに必死に祈った気がした。


◆◇◆


「つきました」

 女の声に目を開ける。
 光が眩しくて、目を瞬かせる。我ながら図太い精神だとは思うが、騒ぎ疲れて眠ってしまっていたらしい。

「外……?」

 光降る森の中だ。
 瑞々しいグリーンが目に痛いほど輝いて見える。

「後ろです」

 声のままに振り返れば、見たくもない白装束四人組――と、その後ろには白亜の塔がある。気温の高さから見ても、一応同じ地域だろう。
 太陽も高い。
 あれから時間もそれほど経過してなさそうだ。

「……もう着いたとか言わないよね? 長老会」
「議場に案内します。自分の足で歩くか、引き立てられるか、選んでください」


 ひきた……っって、いつの間にー!!


 首と手に、戸板つきの枷がはめられている。

「ちょ、……っ、これ! ほぼ決定してんじゃないの?! 処分!!!!」
「どちらにしますか?」

 私の動揺に少しも反応せず、女は問う。
 もちろん、ひきたてられるなど御免だ。
 となれば、自分で歩くしかない。

「歩くわよ……自分で」

 白装束の手を借りて立ち上がる。
 結局、祈ってみたが誰も助けてくれない事が分かっただけで、この有様だ。祈り方が悪いというなら、正しいやり方を広めておいてほしいと切に願う。

「ここ、どこよ……。遠距離魔法陣でも使ったの?」

 女は答えないまま、前を歩きだす。
 さも早く行けとばかりに、後ろから白装束に背を押される。


 今は機を窺うしか……。


 仕方なく、私も塔に向かって歩きはじめた。

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