310 / 375
第14章・灰は撒かれた
◆ 19・問われる罪(後) ◆
しおりを挟む袋に詰められた時点でそれなりに暴れた私を、彼らは更に何かに入れた。
布ごしに当たる感触から硬く狭い空間であることが分かったし、自分の立てる音や声がこもって響いたため、核心した――運ばれている。
マズい……。
着々と『長老会』とやらの場に引き出されているのだ。
乱暴さはないものの、規則正しく届く揺れがそれを物語っている。
すでに声の限り叫び疲れている私は、硬い床面に座り込んでいる。
「ツボかな……。窒息は勘弁してよね……」
導き手は祈れと言った。
それが本当に救いだとするなら、祈ってもいい。だが対象が分からない。
私は悪役に割り振られた人間よ? 祈る相手が神や天使なわけないよね? って事は魔王? エイベルに? それとも契約中の炎の魔王の方?
まさか堕天使本人フローラに?
どれも正解で、どれも間違いな気がする。
元々、信心はない私だ。片っ端からチャレンジするしかない。
「おっさん天使、どうか助けてくださいっ。あなたの悪役がヤバいですっ! もしくは手すきの天使でもいいので、誰か! 献金は弾みますーー……っ!」
手を組み、必死に祈っては見たが手応えは皆無だ。それどころか、己の愚かさに穴に入りたい気分にさえなっている。
やっぱ持つべき者は弟で魔王よね?
「エイベルーーっ!!!! お願い……っ」
私は壁面を叩き、必死に叫ぶ。
天使に対するよりは遥かに必死に祈った気がした。
◆◇◆
「つきました」
女の声に目を開ける。
光が眩しくて、目を瞬かせる。我ながら図太い精神だとは思うが、騒ぎ疲れて眠ってしまっていたらしい。
「外……?」
光降る森の中だ。
瑞々しいグリーンが目に痛いほど輝いて見える。
「後ろです」
声のままに振り返れば、見たくもない白装束四人組――と、その後ろには白亜の塔がある。気温の高さから見ても、一応同じ地域だろう。
太陽も高い。
あれから時間もそれほど経過してなさそうだ。
「……もう着いたとか言わないよね? 長老会」
「議場に案内します。自分の足で歩くか、引き立てられるか、選んでください」
ひきた……っって、いつの間にー!!
首と手に、戸板つきの枷がはめられている。
「ちょ、……っ、これ! ほぼ決定してんじゃないの?! 処分!!!!」
「どちらにしますか?」
私の動揺に少しも反応せず、女は問う。
もちろん、ひきたてられるなど御免だ。
となれば、自分で歩くしかない。
「歩くわよ……自分で」
白装束の手を借りて立ち上がる。
結局、祈ってみたが誰も助けてくれない事が分かっただけで、この有様だ。祈り方が悪いというなら、正しいやり方を広めておいてほしいと切に願う。
「ここ、どこよ……。遠距離魔法陣でも使ったの?」
女は答えないまま、前を歩きだす。
さも早く行けとばかりに、後ろから白装束に背を押される。
今は機を窺うしか……。
仕方なく、私も塔に向かって歩きはじめた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
死亡エンドしかない悪役令息に転生してしまったみたいだが、全力で死亡フラグを回避する!
柚希乃愁
ファンタジー
『Blessing Blossom』という大人向けの恋愛シミュレーションRPGゲームがあった。
いわゆるエロゲ―だ。
その中に登場する公爵家長男レオナルド=クルームハイト。
あるときゲーム内のキャラクターであるはずの彼は、今の自分ではないもう一つの記憶を思い出す。
それはこの世界とは別の世界のもの。
その記憶の中で、彼は今自分がいるのがゲームの世界だということを知る。
しかもレオナルドは、ヒロインのどのルートに進んでも最後は死亡してしまう悪役令息で……。
ゲーム本編開始までにはまだ時間がある。
レオナルドは記憶を頼りに死亡回避のために動き出す。
自分にできることをしよう、と。
そんなレオナルドの行動は少なからず周囲に影響を与えていく。
自身の死亡回避、そして悠々自適なスローライフという目標に向かって順調に進んでいるかに見えたレオナルドだが、ある事件が起きる。
それはゲームにはなかったもので……。
ゲームと今レオナルドが生きている現実で展開が違っているのだ。
この事件をきっかけにレオナルドの考え方は変わっていくこととなる。
果たしてレオナルドは死亡エンドを回避できるのか―――。
*念のためのセルフレイティングです。
10/10 男性向けHOTランキング3位!
10/11 男性向けHOTランキング2位!
10/13 男性向けHOTランキング1位!
皆様お読みくださりありがとうございますm(__)m
11/4 第一章完結
11/7 第二章開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる