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第13章・悪役闘争

◆ 17・闇討ち(中) ◆

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 明るい陽射しの中でなければ、見間違いと思う所だ。
 彼女は、ゆらりと地面に降り立った。

「隠れても無駄です」

 白いローブが、風にはためく。
 中には丈の短い白いワンピースとサンダルだ。彼女愛用の手斧は握られていないが、あの余裕のありそうなローブに隠されていてもおかしくない。


 ヤバい……顔隠してないの、ある意味ヤバすぎない?! 確実に殺す気よね?!


 彼女は、まっすぐこちらに歩いてくる。その様はまるで幽鬼のようだ。


 タチの悪い夢みたい……。
 でも、向こうが姿を隠さないなら、こっちだって立場を! 姉としての立場で対面できるはずっ。


「フロー……! フローレンス!」

 隠れたまま声を張り上げる。

「無事だったのね、心配したのよ?! あ、ちなみに私はあなたの姉のシャーロットよ!」

 同じ事をしている人がいれば、きっと私も白い目で見たろう。
 だが、人生何度もやり直した挙句、妹に油を頭から被せられたのだ。距離感は大事にしたいし、私が姉である事も明言しておきたい。
 理想は攻撃対象の5人だが――。

「……おねぇさま……」

 かろうじて、フローレンスの小さな声が届く。

「そう! そうよっ、私よ! フロー、何か行き違いがあったみたいね? いいのよ、洗えば落ちるし、全然気にしてませんとも!! そんな事よりあなたが無事出あった事の重要よ、よく戻ってきてくたわ」

 終盤には慈愛を込めた。
 命が掛かっているのだ、愛の出し惜しみなどしない。

「お姉様……ではないです」
「は?」
「お姉様に限って、そんな、……そんな優しさ持ってるはずがありません! 誰ですか、あなたは!」


 何よ、それ……。
 言い方があんまりすぎない?


「フロー、不思議に思うのもムリないわ、今までの私ってちょっとあなたに冷たかったかもしれないし……でも、あなたが捕まったりして、その、私も色々と考えたというか……、そう、やっぱり何だかんだ言っても妹なのよ!」

 少しは可愛いと思ってるし、自分の命に関わらない限りは幸せであってほしいとさえ思える。

「ヘクターが助けたって聞いたわ! ヘクターの事は好きじゃないけど、そこだけは感謝してやっていいくらいで、それくらいには私も……!」

 彼女はおもむろに背に手をやる。
 嫌な予感が的中だ。背から取り出したものは手斧などという可愛らしいものではない。突起がいくつもついた大きな斧だ。


 あれ、お母様のヤツじゃない!!!!


「消します」
「ちょ……っ!」

 踏み込む足の下の地面が軋む。
 瞬き二つの間に詰められる距離。
 眼前に迫るフロー。

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