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第13章・悪役闘争

◆ 10・迫る死(後) ◆

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 部屋の前で立ち止まる。
 中から微かに人の――鼻歌のような、独特の調子っぱずれな歌が聞こえてくる。


 女????
 モニークはさっき別れたし……、歌姫の歌がコレなわけもないよね?


 今まで何度も死に瀕してきた私には分かる。
 これは開けてはダメなやつだ。
 くるりと戸に背を向ければ、中から明確に伝える意思を持った声。

「入り!」


 マジで誰よ……。


「はよ!」

 逡巡するも、再度の苛立ちを交えた「はよ!」に押されて戸を開く。
 目の入ったのは赤い女だ。
 まだ燭台に火も入っていない部屋は明るい。そんな普通よりは少しグレードの高い客間に、全くそぐわない女が仁王立ちで立っている。
 青く逆巻く髪に、赤い瞳。褐色のグラマラスな肌に炎が衣服のように絡みついていた。
 むしろ彼女の炎のおかげで、ベッドも机も照らされ、彼女自身が動く燭台状態だ。


 炎の魔王!?
 そうか、この変わったイントネーションは……そうだわ、前に聞いてた炎の魔王のものじゃないの!


「よう来たね!」


 いや、そっちがな?!
 なんで炎の魔王がいるのよっ。ってか、人界に現れるとか自由にできるの?! なに、どうして? 意味わからないよっ!!


 ともあれ、返事をする。

「炎の、魔王様ですよね? えーっと……呼び出しとか、してない気がするんですけど……案外、普通に地上に出れちゃったりするんですね……」

 いささか声がげんなりするのは否めない。
 魔王が地上に降臨しているのだ。
 夢だと思いたい。むしろ今すぐお帰り願いたい。

「今日はな、ウチの旦那があんたにお願いがあってなぁ、来たんよ。あ、ウチの旦那わかる?」


 知るわけないし、興味もないし、会いたくもないわ。


「あ、物忘れ激しい子ぉの為にもう一回教えとこうなぁ? ウチ心読めまっせ!」


 ……美人で、最高の炎の女神様の旦那とか絶対勝ち組よね。うらやましいわ!


「ありがとぉ、ほな旦那呼ぶで!」
「どんな方か先に聞いても良いですか?」

 魔王の旦那というのだから、ある程度の情報は欲しい。
 機嫌を損ねて即死だけは避けたい所だ。

「水の魔王やで?」
「え?」


 待って?


「ほな、歯ぁ食いしばり!」
「え?」


 待って待って?!?!


 炎の魔王の拳が私の胸元にめり込む。


 痛く、な……ったい!!!!


 めり込んだ拳が燃え上がる。一瞬後にやってくる衝撃は知らない苦しみだ。あえぐように口を開くも、同時に彼女の手が私の口を塞いだ。

「耐え」

 傲然と告げる魔王。
 まるで腹が――内臓が、かき回される感覚だ。
 痛みと気持ち悪さに涙があふれる。

「大丈夫や、……たぶん」


 たぶん??


「気合入れて耐え。……死にたなかったらな」

 炎の魔王は半笑いで不穏な事を言った。
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