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第12章・秘密は舞台

◆ 17・ヨルク家とヨーク家(前) ◆

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 朝陽に煌めく雫。
 キラキラとした乳白色の雨が、降った。

 肉汁だ。
 臓物だ。

 その中央、どろりとした粘体が絡んだ拳は天高く突き上げられている。
 彼はピチャリと音を立てて、足元の肉片を跨ぎ、濡れ鼠のまま、私のへと歩いてくる。

「お姉様」

 目の前で立ち止まった弟の瞳には金環。
 私と同じ程の目線が、徐々に下がっていく。今、言うべき事があるはずだと思いながらも、何も浮かばない。ただ、両手を広げた。

「お帰りなさい、エイベル。よくやりました」

 エイベルは一つ瞬く。
 金環が消え、彼は目を閉じた。

「うん。ただいま、オネーサマ」


◆◇◆


 ぬるいスープを見つめる。
 ともすれば、先ほど見た気持ちの悪い内臓にも見えてきそうなドロリと濁った根菜スープだ。運ばれてきた時は熱さを象徴するように湯気が立っていた。

 ここはオアシスの町の南端――被害が少なった地域だ。
 現在炊き出しのようなものが行われていて、家が壊れた人々が流れ込んでいる。中には泣き崩れている者もいるが、人間自体はアレックスの結界で守られたのだから全員無事のはずだ。


 まぁ、どこまでの範囲の人に結界が行き渡ったかは……分からないけど。


 それでもこの町は終焉に向かっているのだと分かっている。カメが死んだのだから、徐々に荒廃していくのだ。
 隣ではガツガツとエイベルが食事の音を立てている。対面に座した二人は私と同じ気持ちなのか、スプーンは動かない。
 横合いに座っているカエル姿のルーファと、イケメン姿のアレックスも黙り込んでいる。
 暗い雰囲気を打ち破るように、モニークが口を開いた。

「チャーリーさんは、どうなさるおつもり? 私たちの任務はあなたを親戚のヨルク家まで送る事でしたが、この状態です」
「そう……ねぇ、えーっと、ヨルク家には夜到着って連絡してたんだっけ?」
「ですね」


 でもカメをこの地に連れて来たのはヨーク家で、それを管理してたのが分家のヨルク家だったって事なら、今って……私の訪問ヤバくない? タイミング良く守護神カメの死亡とか……絶対怪しませるでしょ。


「行くしかないだろう。それが俺達の任務だ。それに顔を出さなければ勘繰られる」
「顔を出してもでしょう……」

 先輩にモニークが呆れ声をあげる。

「で、でもさ? 私って本家の娘なのに生贄にされかけたんだよ? それって彼ら的にも問題にならないの?」

 周囲を警戒し、小声で指摘する。
 ますますモニークがうんざりした表情を見せる。

「それこそ、ヨルク家が関知してなかったとは思えませんよ。むしろ、彼らの指示、と考えた方が妥当でしょう。その事を我々が悟ったと気づかれない為にも、予定通り顔を出しましょうという流れですよね、これ」

 先輩が頷く。


 ……どうしようも何も、行くしかないのでは?


「ですから、どう『ヨルク家と対決するか』ですよ」


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