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第12章・秘密は舞台

◆ 9・魔王の救出(前) ◆

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 満天の星空の下、塀のような木々の向こう側に砂漠が見えている。
 町の端まで移動していたらしい。人気のない共用井戸の前に腰を下ろす。


 疲れた……。


 陽が完全に落ちきるまで、私たちはコソコソと逃げ回った。
 もちろん、アレックスの誘導で少しずつエイベルたちの居場所へと距離をつめながら、だ。
 路地裏を縫い、時々不穏な事を口にするルーファを宥め、ゴミ捨て場に身を隠し、数人の浮浪者には金を支払い場所を交渉し――人の目に触れないようにする事は骨が折れた。

「エイベルたちはオドヘア……こちらのふるい言葉で『生贄』の館に移されてると思う。館とは言うものの、地下でね。このあたりは昔ながらの地中に作られた建物も多いんだよ」
「それって私みたいに地下牢状態ってこと?」
「チャーリーは『マーナーの間』で、意味は……お皿かな」


 あぁ……いらない情報だわ、それ。


「で、どう侵入するの? あ、色んなモンスターがいるならカエル姿のルーファを白塗りに」
「チャーリー、ここはカメの領域で、他のモンスターは入れないんだよ。それにルーファも巨大化できない」
「でも竜に化けたよね? 竜しかダメなの?」

 ルーファは視線を逸らす。


 話したくないのか。


「カエルの姿を見られるわけにはいかないから、ボクが先んじて侵入するよ。仲間を助けに来た愚か者と、警備がボクに集中した所で、チャーリーとルーファは中へ。助け出してきて。ボクもルーファの合図で彼らを撒いてくるよ」
「おう」

 空気を読んで私も頷く。
 本音を言えば、いくらルーファの力を使えても対人戦とかした事のないアレックスだ。心配しかなかったが、彼の事だ、うまくやるだろう。


 政治闘争って意味では、してきたわけだし。


「エイベルと合流したら、どうすればいいの? 動けないレベルの体調不良なわけでしょ?」
「力を使わせりゃいい」

 事もなげに言うルーファ。

「待って待って、今までもイカ討伐で使ってきてるのよ?」
「そりゃ肉体の話じゃねぇか。魔王的な力だよ、ソレを使わせろ」


 ザックリした説明すぎるっ! 魔王的な力って何よっ、魔法でも使わせろって言うの?


 魔法の勉強をしていないエイベルにはハードルが高そうだ。


 私みたいに自分に属性付与とか……くらいなら、魔法の勉強をしてなくても行けるかな?


「じゃあ、ルーファ。……くれぐれも、よろしくね?」
「おう! チャーリー含め、任せておきな!」

 意味ありげな視線に、ルーファも大きく頷く。こちらの理解は全く追いついていないが、もう作戦は始動するらしい。
 去っていく男の姿を見送り、溜息をついた。

「あいつはカエルの方が、世界的にも平和ね」



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