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第12章・秘密は舞台

◆ 5・覇王相 ◆

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「天井……、消えたんだけど……」

 呆然と呟く私に、アレックスが首を傾げる。

「出口だよ。安全な出口なかったし」
「……そう、ね?」


 あれ? あれれ? こいつ、もしかして力持っちゃダメなパターンの人なんじゃないの?


「それで、覇王相の悪い面って?」
「タフだな。ここで話戻すのかよ。先に逃げようぜ?」

 ルーファの言葉を後押しするように、周囲のざわめきが聞こえてくる。
 同時に何かが降ってくる。
 トスリと軽い音と共に足元に刺さる矢――燃えている。


 ちょっ……火矢?!


 火矢だけではない。
 投げ込まれる物には石も混ざっている。


 なになになに!?


「〈 フォティア 〉」

 厳かな声は二つ重なる。
 アレックスたちの声だ。
 燃え残った灰が風に攫われ、悲鳴と怒号が被さる。


 一体、何が起きてるの?!


 見上げた先には穴の開いた空の端に見切れる人々。手には武器を持っている。
 高低差はあるが、見覚えのある断罪シーンだ。


 何でよ!!!!


「チャーリー、覇王相ってのは最上にツイてる人間だ。そんな人間が私欲で動けばどうなると思う?」

 ルーファの言葉には嘲りが混じっている。私に対してのものではない、持たざる者に対してだ。

「俺様は覇王相を持ち、覇王号も手に入れた。そうして私欲のままにアーラを手にする為だけに動いた。結果、魔王の大半が死に、地上からはいくつかの国が消えた。もちろん死者の数がどれほどだったかを数えられる奴はいねぇよ」
「あんた最悪ね……」

 当時の人間に同情するレベルでの迷惑行為だ。

「勇者ってのは聖女が選べば、多少弱くても何とかなる。何とかなるだけの力を聖女から引き出してもらえる。だが、俺様が思うに覇王相は本来の勇者なんだよ」

 だが、今の状況は長話をする雰囲気でもない。

「俺様の例を取ってみても、世界は覇王相の人間を止める手立てがない。そもそも覇王相自体がそうそう生まれるもんでもねぇしな? つまり」
「ルーファ……私が聞いたのに何言ってんだって言われそうだけど」

 この話で分かった事は一つだけだ。


 つまり……あんたの所為で覇王相ってヤバイからいらないってのが世界的な通念になっちゃって、登場しても隠さなきゃって雰囲気が常套的になって、アレックスはカエルになったと?
 本気で迷惑男じゃないの!!


「何だよ、チャーリー?」
「先に逃げよう?!」
「あー……おい、アレックス? 一番ぶっ殺す、二番脅す、どっちにする?」
「ただ逃げればいいでしょうが!!!!」

 アレックスに問いかけるルーファに叫ぶ私。
 会話の最中にも物は投げ込まれ、危険物はアレックスが燃やしているのだ。小首をかしげるカエル姿の彼を可愛いなどとは断じて思えない。


 ぶん殴りたいわ、この男!


「三番、目くらましして逃走……にしよう」
「おう」

 流石はアレックス。
 どこかの迷惑男とは違う理知的で建設的な意見だ。

「早くエイベルと合流しないと……」

 呟く彼に、弟こと魔王の存在を再び思い出す。

「そう、そうよ、エイベル!!!! エイベルはどうして私を見捨てたの!?」


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