236 / 375
第12章・秘密は舞台
◆ 5・覇王相 ◆
しおりを挟む
「天井……、消えたんだけど……」
呆然と呟く私に、アレックスが首を傾げる。
「出口だよ。安全な出口なかったし」
「……そう、ね?」
あれ? あれれ? こいつ、もしかして力持っちゃダメなパターンの人なんじゃないの?
「それで、覇王相の悪い面って?」
「タフだな。ここで話戻すのかよ。先に逃げようぜ?」
ルーファの言葉を後押しするように、周囲のざわめきが聞こえてくる。
同時に何かが降ってくる。
トスリと軽い音と共に足元に刺さる矢――燃えている。
ちょっ……火矢?!
火矢だけではない。
投げ込まれる物には石も混ざっている。
なになになに!?
「〈 フォティア 〉」
厳かな声は二つ重なる。
アレックスたちの声だ。
燃え残った灰が風に攫われ、悲鳴と怒号が被さる。
一体、何が起きてるの?!
見上げた先には穴の開いた空の端に見切れる人々。手には武器を持っている。
高低差はあるが、見覚えのある断罪シーンだ。
何でよ!!!!
「チャーリー、覇王相ってのは最上にツイてる人間だ。そんな人間が私欲で動けばどうなると思う?」
ルーファの言葉には嘲りが混じっている。私に対してのものではない、持たざる者に対してだ。
「俺様は覇王相を持ち、覇王号も手に入れた。そうして私欲のままにアーラを手にする為だけに動いた。結果、魔王の大半が死に、地上からはいくつかの国が消えた。もちろん死者の数がどれほどだったかを数えられる奴はいねぇよ」
「あんた最悪ね……」
当時の人間に同情するレベルでの迷惑行為だ。
「勇者ってのは聖女が選べば、多少弱くても何とかなる。何とかなるだけの力を聖女から引き出してもらえる。だが、俺様が思うに覇王相は本来の勇者なんだよ」
だが、今の状況は長話をする雰囲気でもない。
「俺様の例を取ってみても、世界は覇王相の人間を止める手立てがない。そもそも覇王相自体がそうそう生まれるもんでもねぇしな? つまり」
「ルーファ……私が聞いたのに何言ってんだって言われそうだけど」
この話で分かった事は一つだけだ。
つまり……あんたの所為で覇王相ってヤバイからいらないってのが世界的な通念になっちゃって、登場しても隠さなきゃって雰囲気が常套的になって、アレックスはカエルになったと?
本気で迷惑男じゃないの!!
「何だよ、チャーリー?」
「先に逃げよう?!」
「あー……おい、アレックス? 一番ぶっ殺す、二番脅す、どっちにする?」
「ただ逃げればいいでしょうが!!!!」
アレックスに問いかけるルーファに叫ぶ私。
会話の最中にも物は投げ込まれ、危険物はアレックスが燃やしているのだ。小首をかしげるカエル姿の彼を可愛いなどとは断じて思えない。
ぶん殴りたいわ、この男!
「三番、目くらましして逃走……にしよう」
「おう」
流石はアレックス。
どこかの迷惑男とは違う理知的で建設的な意見だ。
「早くエイベルと合流しないと……」
呟く彼に、弟こと魔王の存在を再び思い出す。
「そう、そうよ、エイベル!!!! エイベルはどうして私を見捨てたの!?」
呆然と呟く私に、アレックスが首を傾げる。
「出口だよ。安全な出口なかったし」
「……そう、ね?」
あれ? あれれ? こいつ、もしかして力持っちゃダメなパターンの人なんじゃないの?
「それで、覇王相の悪い面って?」
「タフだな。ここで話戻すのかよ。先に逃げようぜ?」
ルーファの言葉を後押しするように、周囲のざわめきが聞こえてくる。
同時に何かが降ってくる。
トスリと軽い音と共に足元に刺さる矢――燃えている。
ちょっ……火矢?!
火矢だけではない。
投げ込まれる物には石も混ざっている。
なになになに!?
「〈 フォティア 〉」
厳かな声は二つ重なる。
アレックスたちの声だ。
燃え残った灰が風に攫われ、悲鳴と怒号が被さる。
一体、何が起きてるの?!
見上げた先には穴の開いた空の端に見切れる人々。手には武器を持っている。
高低差はあるが、見覚えのある断罪シーンだ。
何でよ!!!!
「チャーリー、覇王相ってのは最上にツイてる人間だ。そんな人間が私欲で動けばどうなると思う?」
ルーファの言葉には嘲りが混じっている。私に対してのものではない、持たざる者に対してだ。
「俺様は覇王相を持ち、覇王号も手に入れた。そうして私欲のままにアーラを手にする為だけに動いた。結果、魔王の大半が死に、地上からはいくつかの国が消えた。もちろん死者の数がどれほどだったかを数えられる奴はいねぇよ」
「あんた最悪ね……」
当時の人間に同情するレベルでの迷惑行為だ。
「勇者ってのは聖女が選べば、多少弱くても何とかなる。何とかなるだけの力を聖女から引き出してもらえる。だが、俺様が思うに覇王相は本来の勇者なんだよ」
だが、今の状況は長話をする雰囲気でもない。
「俺様の例を取ってみても、世界は覇王相の人間を止める手立てがない。そもそも覇王相自体がそうそう生まれるもんでもねぇしな? つまり」
「ルーファ……私が聞いたのに何言ってんだって言われそうだけど」
この話で分かった事は一つだけだ。
つまり……あんたの所為で覇王相ってヤバイからいらないってのが世界的な通念になっちゃって、登場しても隠さなきゃって雰囲気が常套的になって、アレックスはカエルになったと?
本気で迷惑男じゃないの!!
「何だよ、チャーリー?」
「先に逃げよう?!」
「あー……おい、アレックス? 一番ぶっ殺す、二番脅す、どっちにする?」
「ただ逃げればいいでしょうが!!!!」
アレックスに問いかけるルーファに叫ぶ私。
会話の最中にも物は投げ込まれ、危険物はアレックスが燃やしているのだ。小首をかしげるカエル姿の彼を可愛いなどとは断じて思えない。
ぶん殴りたいわ、この男!
「三番、目くらましして逃走……にしよう」
「おう」
流石はアレックス。
どこかの迷惑男とは違う理知的で建設的な意見だ。
「早くエイベルと合流しないと……」
呟く彼に、弟こと魔王の存在を再び思い出す。
「そう、そうよ、エイベル!!!! エイベルはどうして私を見捨てたの!?」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。
武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。
人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】
前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。
そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。
そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。
様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。
村を出て冒険者となったその先は…。
※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる