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第10章・勇者の胎動

◆ 14・余波 ◆

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 カエルを乗せた馬車が去っていくのを見送る。
 瞬く星を見上げ、息を吐く。


 今、心底思う……生きるって大変すぎるわ!!!!


 嫌な世界線を全て避けてきたつもりだった。大きく未来が変わって元の軸からは逸脱した世界にあるという安易な考えもあった。
 まさか知らず知らずに、足を踏み入れかけていたなんて想像もしなかった。カエルによる監禁軸、そこからの分岐はいくつかある。どれもがお断り路線だ。


 オリガ、あんたは私を救ったよ……ありがとう、今だけは感謝するわ!!!!


 ミランダを引きつれ部屋に戻れば、平和な夜へと繋がった。
 深い安堵と共に、私は目を閉じる。
 そうして――事は翌朝に起きた。

 一方的に近い形での婚約解消の報だ。

 朝食の場で、父は書面を壮麗な手紙を見つめている。この次に来るのは『昨晩のカエルとの会話』についてだろうと身構えるも、父は黙していたままだった。


 逆に、怖いんですけど……。


◆◇◆


 身支度を整えていると、侍女頭にして侍従長が入室許可を求めてきた。
 苦手な老婆の出現に朝から気が重くなるも、婚約破棄に関わる父からの話だと予想はついている。むしろ待ち時間が短くてホッとしたくらいだ。
 父の部屋へとほぼ連行に近い形で侍女に囲まれながら移動する。
 ふと思い出す。


 そういえば、フローの発見が遅れたのってこの人の所為だっけ? まぁ、それもお父様の命令だったのかもだし、聞いてみるべきか悩むわ。


 悩んだものの結局、何も聞かないまま父と対面を果たした。
 人払いをした二人っきりの部屋に、重苦しい気分だが相手はいつも通りの笑顔だ。

「娘よ、昨晩何があったかは聞かないよ! 嬉しいかい?」
「……お父様、登校時間なので本題に入ってください」

 すげなく言う私に、父はあえなく答える。

「今日は休みにしておいたよ」


 おい、勝手に何してんのっ。


「随分な好条件で結んだ縁だったけど、まさか捨てられちゃうなんてね。でも落ち込む事はないよ? 我が家の力を使えばすぐに新規の縁組が殺到するよ」

 本当の十六歳だったら、父が私の心配をしてくれたのかと感動する所だ。しかしもう擦り切れた私の精神には何も響かないし、絶対に裏があるとも確信している。

「でもね」


 ほらね。


「我が家に釣り合うのはそれなりの相手じゃないとね、だからさっさと父様は縁組をまとめようと思いました」
「はぁ……」
「そこでお前を、第三王子の婚約者にしました」
「は?」


 え? 
 さん? 三番目の王子???? 一番目に捨てられたばっかりで三番目と婚約?!


「こんな事もあろうかと根を張っておいて良かったよ。すぐに取りまとめるけど、まずは顔合わせだね。さっき連絡をしておいたから、今日は第三王子の基本情報でも覚えてもらうよ。近日中に見合いのような席を設けるからそのつもりでね」

 父はそれからも色々と『何か』を話した。
 私は呆然としたままだったので、『何か』に重要な要項が含まれていない事を祈るばかりだ。

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