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第10章・勇者の胎動

◆ 9・混沌の世界(後) ◆

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「ってか、詳しすぎない? ルーファの記憶を見たのよね? そして私たちの婚約破棄とも無関係な気が……」
「うん。先に言っちゃうと……ルーファの計画はこの双子に魔王として討たれる事だったんだ。だから二人の事は常に監視してたよ」


 うわぁ、お父様やカエルにそっくりじゃないの……。で、私のもう一つの質問、婚約破棄に関する事はまだ話してくれない……と?


 あくまで婚約破棄話はこのルーファvsオリガ話が終わるまでする気がないらしい。

「順番で言えば、ルーファが魔王転生して、聖女アーニャ魔王サーシャが誕生覚醒するも他所事であるオリガ死亡で停滞って事だね」
「で?」

 さっさと話を移らせるべく先を促す。

「二人は作成者アーラの元に辿り着き、オリガを救うよう頼むんだけど……もうアーラには、世界も人も救う力が残ってなかったんだ……とっくにね。滅びを待つだけの彼女は、地上の祈りだけが糧だった」
「祈り……」
「ルーファが言うには元々、地上の空気があわなかったらしいね。二人は世界に絶望するけど、聖女たちが死ぬ事によって世界に復活の光が届く事を知り、それにかけるんだ」
「……それって」
「うん。二人は互いに胸を貫き灰色の靄が世界に満ちる」


 灰色……なんだろう、灰色の出現率高すぎる……。面倒なお父様がよぎるじゃないの。物事を灰色にしたいお父様にはピッタリの世界じゃない? もしかしてお父様は……。


「混沌とした世界だったよ」
「どんな風に?」

 父の目指す世界は同じであるかもしれないのだ。

「その灰色はモンスターを産み、壊れた魂を多く復活させた。その中の一つにオリガもいた。そして二人も死ねなかった。当然だよ。どちらも覚醒してても、条件足らずだったんだから」
「覚醒してるのに条件足らずって、条件とかあるの?!」
「条件は、周知じゃないか。聖女は勇者に力を与えないと……この話の肝が結局、勇者不在って事なんだよね。だってボクたちの時代では勇者とされているサーシャは魔王だったんだから。でも、勇者は存在してはいたんだよね」


 意味が分からない。


「勇者は確実に台頭するって事? 実は埋もれてたけど勇者がいたの?」
「そうだね。ボクは見ていて思ったよ、多分だけど勇者はオリガだ」


 オリガが、勇者……?!


「そうしてみれば、納得がいくんだよね。勇者死亡の時点で別の勇者を見つけたら良かったのかもしれないけど、二人はオリガに移入しすぎていた。そしてオリガを救う為に『神の計略』から逸脱した行動を取った」

 神の計略――かつてルーファに聞いた別名『神の愛』だ。地上に聖女の光が行き渡り、魔王に殺された人々の復活し楽園の期間。

「これに焦ったのがルーファとアーラだよ」


 そりゃそうでしょうね。


「求めた配剤が勝手に死んだ上に、新たに均衡を取る珠を生み出す力もない。アーラは『今』ある物を癒す方が早いと決断する、それには本物の光が必要だったんだ」
「うわ……イヤな予感しかしないわ……」
「想像通りだよ」

 嬉しくもない事をカエルは言った。
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