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第10章・勇者の胎動

◆ 6・ルーファの始まり(中) ◆

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「つまり、長生きしたくてやりましたって事?!」
「そこまで単純な話じゃ……いや、究極的にはそうなるのかな」

 カエルは悩むように顔を伏せる。
 勇者は死んだら悪魔になって獄に繋がれる、と聞いた覚えがある。ルーファとて、天使のアーラが天に戻るだろう事は推測できただろう。


 そうよ、確かルーファはアーラを『獄に堕とす』って言ってた!
 アーラが獄に堕ちれば永遠に一緒にいられるって事で、つまりそれって……魔王とか討伐しながら画策していったって事で……っ。
 ヤバイ……ルーファ、知ってたけど……相当、狂ってた……。


「ルーファの……計画では、アーラを獄に堕とすまで織り込まれてたはずよね? でも実際、アーラは私の中にいて、ルーファの人間時代からはかなり時間が経ってない?」


 どんだけ長期戦なのよ。


「うん、予定外の事が起きたんだ。それがオリガだね」
「そういえばクソ魔女とか言ってったっけ。そこが分からないのよね、オリガが嫌な奴で色々してる事は分かるけど、むしろオリガとの関係が分からないんだよね」

 聖女は千年の祈りを経て生まれる事を考えれば、オリガとルーファの人間時代にはかなりの時間幅があるはずだ。それは『アデレイド戦記』に記載されている聖女名がヴィクトリア――愛称アーニャ――である事からも、聖女ドミティア時代の人間ルーファと同時代でない事は明白だ。


 あれ? でも……ルーファは三百歳で……? え? どういう……?


「ルーファって三百歳って聞いてるんだけど、本当?」
「うん。チャーリー、時系列を並べると……まず第一弾、人間ルーファがアーラと出逢い、どんどん魔王を狩っていく過程で勇者候補も処理。第二弾、世界のバランスが崩れ各種魔王から流れ出た闇エネルギーを吸った覚醒魔王が爆誕し天使長が降臨し始末する」
「て、天使長?! おっさん天使の事?!」

 カエルはすぐに誰の事か理解したらしく頷く。

「そうだね。そして第三弾、闇と光のバランスが完全に崩れ去った無秩序時代が到来。アーラは地上に残り、それらの平定に務める。そんな中の第四弾、オリガ達の世代が台頭する」


 世界のバランスを崩したのはルーファで、アーラがその責を負ったような物なら彼はどうしてたんだろう?


「ルーファは悪魔になってたの?」
「……ルーファはその時、悪魔になれなかったんだ。実を言えばバランスが崩れた事で、ルーファとオリガの間には千年の時間がなかったし、彼自身も悪魔に転生できなかったんだ。人間の生を終えた彼はただ暗い世界を漂った。途方もない時間に感じたけど、実はそれほどの時間が経ってなかったんだ」
「はぁ……」
「アーラが、彼を生かす為に頑張ったお陰だね。それがさっきのアーラによる地上平定に関わるんだけど……結局、ルーファは空白の時間を越えて……『魔王』として転生したんだ」


 は????

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