上 下
167 / 375
第9章・思惑の行方

◆ 26・悪魔と王子(前) ◆

しおりを挟む

 眠い目をこすり、学園へ赴き、授業を受ける。
 そこには変わらずイケメン顔のルーファも、麗しい親友ライラの姿もある。昼休みになれば、宮廷料理人並みの腕を持つコックによる種々多様な料理がふるまわれるのだ。
 何も変わらない日常。
 テーブルに置かれた見た目にも美しい料理。
 運んできたのは名前も覚えていない取り巻きの一人だし、片付けもそれに準じた取り巻きがすることは容易に想像がつく。
 笑い声は響き、楽し気に交わされる会話と、気の置けない友人同士の触れあい。
 不意に、フローレンスのいた牢獄を思い出した。


 あの中にいたのが私じゃなくて良かったじゃない……。
 なんでモヤモヤするのよ……!
 帰ったらちゃんとお父様にいって、グレードアップをお願いするし、あの子があれ以上酷い目に遭わなくていいように私だって色々……何かはする予定だし?
 なのに……っ。


「おい、どうした?」

 ルーファが傍に座り、周囲が色めき立つ。
 今日は約束の日だ。
 彼の目にはライラが時折浮かべるような、友人への心配が見て取れる。きっとルーファには王子の才覚があるだろう。だが王子ではないし、悪魔だ。何より私は彼と結婚する気もなければ、彼の方でもない。
 周囲が密やかに期待の眼差しを向けようとも、だ。

「周りの目をごまかせても、私シャーロット・グレイス・ヨークの目はごまかせないわよ? このクソ悪魔っ」

 凛とした声に周囲の喧噪がピタリと止んだ。もしかしたら、口の悪さに驚いたのかもしれないが、そこは気にしないことにした。
 もう『アデレイド戦記』の真似をしようとは思わない。

「立ちなさい、悪魔! そしてアレックス王子を返すのよっ!」

 ポカンとしたルーファの顔。
 周囲も似たような顔をしているのが視界に入る。

「……おま、……チャーリー、何を言っているんだい?」

 ルーファが戸惑いの声を発する。
 雰囲気はまさにカエルそのものだ。だが、違うことを私は知っているし、あんな神殿の思惑通りに事を進めてやる気もない。


 聖女のお陰で呪いが解けたですって? 冗談じゃないわっ。アレックスとルーファの契約のことまで自分たちの勝手に捻じ曲げて……。だったらこっちも……それを逆手にとってやるわ!


「悪魔が取りついてることくらい、私には分かっていたわ。でも、アレックスの身が助かるなら……それでもいい、そう見逃してきた。私の落ち度ね……、呪いの解かれた王子の姿ですって? 笑わせるんじゃないわよ、私は、カエル前の王子の顔を知ってるんだからね!」


 もちろん、知らない。


「その顔は間違っても、あんたみたいな顔じゃなかったわ」

 ルーファは俯き、口元をゆがませた。

「そうか、チャーリー……お前、ヤルことにしたんだな?」

 それは小さな呟き。
 私も小さく一言「うん」と返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界

Greis
ファンタジー
【注意!!】 途中からがっつりファンタジーバトルだらけ、主人公最強描写がとても多くなります。 内容が肌に合わない方、面白くないなと思い始めた方はブラウザバック推奨です。 ※主人公の転生先は、元はシナリオ外の存在、いわゆるモブと分類される人物です。 ベイルトン辺境伯家の三男坊として生まれたのが、ウォルター・ベイルトン。つまりは、転生した俺だ。 生まれ変わった先の世界は、オタクであった俺には大興奮の剣と魔法のファンタジー。 色々とハンデを背負いつつも、早々に二度目の死を迎えないために必死に強くなって、何とか生きてこられた。 そして、十五歳になった時に騎士学院に入学し、二度目の灰色の青春を謳歌していた。 騎士学院に馴染み、十七歳を迎えた二年目の春。 魔法学院との合同訓練の場で二人の転生者の少女と出会った事で、この世界がただの剣と魔法のファンタジーではない事を、徐々に理解していくのだった。 ※小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。 小説家になろうに投稿しているものに関しては、改稿されたものになりますので、予めご了承ください。

処理中です...