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第8章・侵入者

◆ 28・ほだす(後) ◆

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 朝日のような光がエイベルを飲み込むように降り注ぐ。
 理性は彼を心配すべきだと判断するも、声を出す余裕すらもない。彼は炎のない側の手を握りしめ――ソレを殴った。


 は……?!?!?!


 光はカーテンが強風にあおられるように、吹き飛ばされる。実態のないはずの光を殴った直後、彼は「どうする?」と顔も向けずに聞いて来た。


 どうするって……。


「あ、……まだだ」

 何が、と問う必要はない。
 大男がバルコニーに立っているのが目視できた。残念ながら頭のてっぺんからつま先まで黒装束に包まれている。微かに覗く瞳も、遠すぎて目がある事くらいしか分からない。
 弾かれたようにエイベルが駆ける。
 それは一瞬。
 大男の間合い、懐に――そうして掌底が顎を捉える。

「おおおお!!!!」

 思わず歓声を上げるも、相手側とてやられっぱなしではないらしい。衝撃をのけ反る事で減らしたのか、エイベルの胸倉を掴む。


 投げら……れ、ない??


 驚く事に、エイベルを持ち上げようとした男は動きを止めている。
 掴む男の腕に、少年の手が添えられる。

「ウゴクナ」

 男と私のどちらに言ったのかは分からない。命令と同時に、彼の手にある炎が高らかに燃え上がる。
 ジュッジュッと、何かが燃えて消えていく。恐らくは矢だ。ハラハラと灰になって舞う。

「こいつら全員、顔いる?」


〈チャーリー、止めて……!〉
 お、おぉ……そ、そうね。


 アーラに急かされて、彼がしようとしている事を止める必要性を思い出した。

「ダメよ! 誰がどこから送り込んでるか吐かせないとなんだから。……五体満足で生かしておいて。あー、いわゆる殴るくらいで止めといてって事」
「うん。じゃ……なぐる」

 言うが早いか、彼の拳が大男の腹にめり込む。
 床に沈み込む体から手を離し、ベランダから身を躍らせるエイベル。

「待っ……! 一人にしないでよーー!!!!」

 侵入者がいる家、護衛たる弟の不在、同盟中のミランダも仲間もいないのだ。今までの失敗や死が回想され、頭を振る。


 考えちゃダメだ……くっそ、エイベル早く戻ってきてよ……!!
 ……って、これじゃ、どっちが絆されてんだか分からない……アレはあくまで魔王なんだから、信用してたら痛い目見るに決まってる。悪役同士の最終的な行きつく先なんて……裏切り合って殺し合うに決まってる。


 それでも弟が出て行ったバルコニーを眺めてしまう。


 灰色の魔王……か。
 お父様、私の事も灰色くらいで手を打っててくれたら、こんなにリスタートする人間にはならなかったろうに……。


◆◇◆


 一時間は経った頃、ノックの音がした。
 ベッドの陰に隠れたままだった私は、その音に敏感に反応した。
 敵か味方か、判断がつかない。今までの経験から言えば、ロクな事はないだろう。だが無情にも勝手に扉が開き、現れたのは最悪の人物。我が家の使用人となったヘクター・カービーだった。
 この状況で、私殺害TOPのお出ましは心臓に悪い。
 言葉を失う私に代わり、ヘクターが説明した。

「ご安心を、タダの怪しい労働者です」


 ソレって本当に最悪じゃないの……。
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