139 / 375
第8章・侵入者
◆ 28・ほだす(後) ◆
しおりを挟む朝日のような光がエイベルを飲み込むように降り注ぐ。
理性は彼を心配すべきだと判断するも、声を出す余裕すらもない。彼は炎のない側の手を握りしめ――ソレを殴った。
は……?!?!?!
光はカーテンが強風にあおられるように、吹き飛ばされる。実態のないはずの光を殴った直後、彼は「どうする?」と顔も向けずに聞いて来た。
どうするって……。
「あ、……まだだ」
何が、と問う必要はない。
大男がバルコニーに立っているのが目視できた。残念ながら頭のてっぺんからつま先まで黒装束に包まれている。微かに覗く瞳も、遠すぎて目がある事くらいしか分からない。
弾かれたようにエイベルが駆ける。
それは一瞬。
大男の間合い、懐に――そうして掌底が顎を捉える。
「おおおお!!!!」
思わず歓声を上げるも、相手側とてやられっぱなしではないらしい。衝撃をのけ反る事で減らしたのか、エイベルの胸倉を掴む。
投げら……れ、ない??
驚く事に、エイベルを持ち上げようとした男は動きを止めている。
掴む男の腕に、少年の手が添えられる。
「ウゴクナ」
男と私のどちらに言ったのかは分からない。命令と同時に、彼の手にある炎が高らかに燃え上がる。
ジュッジュッと、何かが燃えて消えていく。恐らくは矢だ。ハラハラと灰になって舞う。
「こいつら全員、顔いる?」
〈チャーリー、止めて……!〉
お、おぉ……そ、そうね。
アーラに急かされて、彼がしようとしている事を止める必要性を思い出した。
「ダメよ! 誰がどこから送り込んでるか吐かせないとなんだから。……五体満足で生かしておいて。あー、いわゆる殴るくらいで止めといてって事」
「うん。じゃ……なぐる」
言うが早いか、彼の拳が大男の腹にめり込む。
床に沈み込む体から手を離し、ベランダから身を躍らせるエイベル。
「待っ……! 一人にしないでよーー!!!!」
侵入者がいる家、護衛たる弟の不在、同盟中のミランダも仲間もいないのだ。今までの失敗や死が回想され、頭を振る。
考えちゃダメだ……くっそ、エイベル早く戻ってきてよ……!!
……って、これじゃ、どっちが絆されてんだか分からない……アレはあくまで魔王なんだから、信用してたら痛い目見るに決まってる。悪役同士の最終的な行きつく先なんて……裏切り合って殺し合うに決まってる。
それでも弟が出て行ったバルコニーを眺めてしまう。
灰色の魔王……か。
お父様、私の事も灰色くらいで手を打っててくれたら、こんなにリスタートする人間にはならなかったろうに……。
◆◇◆
一時間は経った頃、ノックの音がした。
ベッドの陰に隠れたままだった私は、その音に敏感に反応した。
敵か味方か、判断がつかない。今までの経験から言えば、ロクな事はないだろう。だが無情にも勝手に扉が開き、現れたのは最悪の人物。我が家の使用人となったヘクター・カービーだった。
この状況で、私殺害TOPのお出ましは心臓に悪い。
言葉を失う私に代わり、ヘクターが説明した。
「ご安心を、タダの怪しい労働者です」
ソレって本当に最悪じゃないの……。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる