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第8章・侵入者

◆ 24・潜入協定(後) ◆

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「あんたはソレでいいの?」

 弟となった魔王エイベルに聞く。
 彼は表情が乏しく、読み取る事が難しい。言いたい事があるなら言葉にしてもらいたい所だ。

「うん、いいよ」

 金より命の方が何千倍も大事だと、まだこの幼子には分からないのだろう。


 スパイをする事でどんな危険が待ち受けてるともしれないのに……まぁ、魔王だから大丈夫なのか?


「ミルカさん、黙ってますけど……本当にいいんですか?」

 ミルカは肩を竦める。

「良いも悪いもないわい。最強の称号を譲ろうが老いようが、騎士は騎士じゃからのぅ」


 上位者の指令には従うという意味だろうか?


「ミルカは逆らいませんよ。騎士ってそういうモノらしいです」
「え?!」

 エイベルが驚いた顔でミランダを見る。
 嘘を教えないでいただきたい。だが、ある意味では騎士などというものを目指さないでくれると『悪役令嬢』的には助かる。


 いや、信頼関係第一よね。魔王とは今後、手を組んでやっていかないといけない場面が増えるだろうし、ってか私の上司みたいなもんだし?
 まさか魔王に『お前いらない』って殺されたんじゃ話にならないし?! それだけは避けよう……魔王に殺された場合、お互い記憶持ってたら最悪よ……ね? ……いや、あれ?


 悪魔はリスタート時でも記憶を持っている。
 聖女フローレンスにはなかった。少なくとも私にはそう見えた。


 魔王は、リスタートの記憶ないのよね?



 モヤモヤしながらも、とりあえず進言する。

「エイベル、騎士はそういうモノじゃないです」
「じゃ、どういう?」
「それは……学校で学んでください」

 エイベルは口を閉ざす。

「儂、というか……ミランダが『ツナギ』をつけるじゃろ」
「ええ、つけます。無事の報告もあげたいですし……。ご案内するまで、お嬢様は反教団員となる思想固めでもしておいてくださいね」


 しそうがため……。
 怪しい宗教関連の集まりには、首を突っ込みたくないのにっ。
〈チャーリーは神に祈らないの?〉


 神に祈れたら――祈りを聞き届けてくれたなら、どんなに素敵だったろうと夢想する。
 あいにく、一度として叶えられた覚えはない。神は存在していないのでは、などと思ったのは初期の症状だ。救ってくれない神を心でなじり続けた。
 今では何も期待していない。


 むしろ天使への恨みで神どころじゃ……。
〈チャーリー?〉
 ……アーラ、神の話はやめよう。精神衛生に悪いわ。
〈うん?〉


 不思議そうな声をあげるも、アーラはそれ以上の質問をしなかった。
 ミランダはその間にもミルカと打ち合わせめいた事をしている。

「お嬢様と坊ちゃま用に、両陣営の方針を書いてお渡ししますね」


 さすがダブルスパイ。


「具体的な実施日はいつからになる?」

 父の空気を読まない発言にも、ミランダは「一両日中に予定を報告いたします」と答えた。

「オネーサマ」
「ん?」

 エイベルの呼びかけに視線を落とす。
 頭一つ分は低い彼が、もっと近寄れとばかりに手招きをする。身をかがめて耳を寄せれば、彼が囁いた。

「あんた、二人いるね」
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