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第7章・二つの心

◆ 28・転生者の憂鬱(後) ◆

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「技自体は誰でも使用可能じゃが?」
「誰でも?! 勇者の技って誰でも使えるの?!」


 確かルーファの時代は、聖女と勇者の関係がうまくいかなくて魔王に負けたような状態だった。あの時、天使のおっさんがやってこなければ『人間』は終わっていたかもしれない。


「……というかじゃな、いきなり聖女に選ばれて『ほれ、今日から勇者』などできるわけあるまい? 誰が勇者になるやら分からんのじゃ、誰にもな。誰でも使用可能で使えてなければ困ろうよ」
「いや、意味がわかんないです」

 私は正直に告げた。

「聖女は、瓶の蓋のような物じゃ。蓋が外れて初めて『勇者』たりえる。今の儂がどれほど強くとも勇者でないように、聖女の存在は重要なんじゃよ」


 結局は、聖女が選ばないとって事なんだろうけど……。
 聖女フローレンスが恋に落ちる相手が勇者になるとして、この言い方だと技が使えるかも関係する?


「もしかして、勇者って最初から強くないとダメなんですか?」
「そりゃそうじゃろ」

 基本方針は変わらないが、これは面倒な追加要素ができてしまった。
 元々私は、フローレンスとうまくやっていけそうな強い人が勇者なのだろうと思ってきた。技が使えるかどうかがポイントになるのなら、技の確認が必要になる。


 なんなら、このお爺さんに確認してもらう事も……。


 念のため聞く。

「ちなみに、フローレンス・メイ・ヨークと何かしらの関係をもったことあります?」
「誰じゃ?」
「いえ、ないならいいんです」

 どうやら彼は、本当に勇者ではないらしい。

「儂も記憶が全てあるわけではないからの。死の記憶は特殊じゃ、影響を受けて記憶が欠落する事もある。じゃが、……自分だからこそ分かるのじゃ」

 老人は自嘲染みた笑みを浮かべた。

「儂の蓋は開いておらん」


 これ喜ぶべきか、悲しむべきか。


「前世の記憶があるというのも、有難くない事じゃな。知らずとも良い事を知って、空回りする」

 彼の人生はリスタートではない。
 一つのやり直しが効かない人生を過ごして――3回目なのだ。


 リスタートの私とは立場が違うし、感覚も違うけど……記憶があるからこそ、それに振り回されるってのは分かる。
 いつもそうだ。
 過去を思い出して余計に緊張したり、怯えたりもする。
 でも、それらのお陰で逃れ、避け、生き抜ける場合もある。悪い事ばっかりじゃないから、難しいのよね。


「お爺さんは、……記憶がなかったら、ミランダの親も殺さなかったと思います?」

 重要な事だ。
 私には常に悪い記憶がついてきている。それこそ死ぬ度に増えていった記憶だ。どれもが次への検証に生きるし、常に選択するのは私なのだ。

「ん? 処する事は決まっておったしな? どちらにしろ選択肢などないわ」


 いやいや、一体ミランダの親は何を?


「何を知りたいかは大体わかっとるよ。事件としても扱わなかった程に重大な問題じゃ。これだけでもどれだけ面倒な話か分かろう?」
「まぁ……そう、ですね」

 答えたのは料理の手を止めないミランダ。

「弑逆、未遂ですよ」


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