上 下
66 / 375
第6章・喪失と再生

◆ 15・高次元の町(中) ◆

しおりを挟む

『ここは天使の町』と言うおっさん天使改め子供天使――子供といっても私より少し年下くらいだが。
 エルロリスと並ぶと双子のようにそっくりだ。兄妹というのも頷ける。

 子供天使が『町』と言うからには町なのだろうが、正直なにもない。
 ただの良く分からない靄った空間だ。靄と光しかない白っぽいボヤけた世界が、天使の町と言われても魅力も何もない。


 ってか、これって……私、天界これてんの!? 死んだの!? え???? ってか天界で殴るって思ってたけど、こんな子供の姿になってるのズルすぎない? 殴れないじゃん!? ってか、報復もこわいし? 悪魔どもに攻めさせるつもりが~~!!!!


「オマエね……こっちは心が見えちゃうんだから。全部筒抜けだよ、いいの?」
「どうして……シャーロット」


 嫌そうに顔をゆがめる少年天使と悲し気な顔の少女天使は、どちらも美しい。


 つか、コイツ、そういえば私の兄って事になるんだっけ?


「オマエ、楽せず声に出しな? ヒトでしょうが」
「うん、質問がいっぱいあるんだわ! 結局、私とあんたって兄妹なの!?」
「うん、気になるのソコなんだ?」

 呆れたように言い、少年天使はエルロリスの手を引いて奥へといく。すぐに靄が濃くなり、二人の姿を薄める。

「ちょっ」

 慌てて追いかけ、少年天使の服を掴む。

「ヒトは至ってないから、しっかり付いて来ないと捨てていくよ」
「一体何なのよ、この不思議空間は! 町っていうけど、なんにも見えないんだけど」

 エルロリスが不思議そうに首を傾げる。

「え? みんないるよ?」
「いる??」
「うん、さっきまでは見えなかったけど、今はいるのが分かる。ほら、ライラがいる」

 何もない空間、光を指さすエルロリスに寒気が走る。勿論、幽霊など信じたくはないし、今更幽霊ごときで怯えるつもりはない。
 それでも美少女が「ほらいるよ?」って笑いながら何もない空間を指さすのは十分気味が悪い。

「ライラ、いつの間に死んだの??」

 この、不思議な光たちが幽霊だとするなら、それでもいい。だがそこにライラが加わったのなら、私の生存ルート的にどうなのだろうと考える。


 まぁ、この状況で、生存ルートも何もないか。


「言ったろう、ここは天使の世界の入口。一段階上の世界だ」

 呆れたように子供天使は言い、手を差し出す。握れとばかりに数度手を振る様を見つめる。

「この手を握ったら、見えるから早くしな?」
「一回だけの救いの手とかそういうオチは?」

 慎重にきけば、相手はフッと笑う。

「オレはね、人間のそういう所が大好きだよ」
「どれ?」
「学習しようとするところだ。そうして。学習できない所も、ね」

 子供天使が私の手を強引に握った。
 冷たい手の感触と同時に、視界に映る世界。

「え?」

 大神殿だった。
『私』が、大神殿に倒れていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

処理中です...