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第6章・喪失と再生

◆ 1・閉ざされた声(前) ◆

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「ここは……?」

 夕日だ。
 夕日が建物の影におちようとしている。
 見上げた空は赤く焼けている。


 知らない場所だ。


 揺れる視界は微かに見切れて写る人の所為だ。
 誰かの腕に抱えられている。

 白い髪、赤い瞳、綺麗に整った顔だ。
 見覚えはない。
 瞬きをして、手を伸ばす。
 頬に触れた肉の温かみに首を傾げる。


 とても熱い……。


 違和感しかない世界。
 私を抱えている男が足を止めた。

「目が覚めたか? ここがどこか分かるか?」

 首を振った。
 どこか分からない。
 立てるかと聞かれて頷くも、降りて見た地面は硬くて、ガクリと膝をつく。彼が傍で支えてくれなかったら怪我をしたかもしれない。

「ごめんなさい……」

 立つこともままならない現状に眉をひそめる。
 彼が誰なのか以上に、私自身すらも分からない。

「あぁ、大丈夫だ。今はちょっと混乱してるだけで、すぐに『色々』と思い出せる」
「……あの、あなたは?」

 迷惑をかけている事だけは分かった。
 それなのに彼は嬉しそうに微笑む。

「俺様は、ベオルファ。大概の奴はルーファって呼ぶんだが、……お前には『ルフス』と呼んで欲しい、昔みたいに」
「昔……?」
「あぁ、ずっとずーっと昔だ」

 古くからの知り合いらしいが、同時に記憶がない事を申し訳なく思う。彼は気落ちする私を励ますように微笑んでいる。
 少しも気にした様子を見せないなんて優しい人だ。

「あの……ルフス、私」

 途端の抱擁。
 戸惑いと困惑。

「これからも呼び続けてくれ。俺はお前の為なら……なんだってできるから」


 なぜ、彼はこんなにも泣きそうな声を?
 分からない。何これ?? ここは何処? 全てがわからないっ。知らない世界、あんな赤い空を私は見た事がない。空がどうしてこんなに遠いの? どうして私の羽がないの? 羽が……、翼が……。


「悪い魔女をこらしめて」

 彼は続ける。

「そうして、早く『肉』も取り戻そうな」


 コレは誰だ?
 あぁ、思い出してはダメな気がする……、なのに。
 私の意識の全てが言ってるのに!
 羽がないって……空が飛べないってっ。
 でも、思い出してはダメだって……。


「……ね、が……、私、の」

 彼の手が私の背をなぞる。布越しでも分かる、翼がある場所だ。
 私の口から絶叫がほとばしる。


 そうだ、私……っ、私の、はね……っ!!!!


 見上げた先には憐れみと慈愛の混ざった男の顔。
 この顔を私は知っている。

「る……ふす……、どうして……?」


 どうしてあなた、私の翼をもいだの?


「……ごめんな、アーラ。今は混乱してるだろうが、すぐに落ち着くから。今はシャーロットの体に慣れてくれ」


 シャーロット??


 覚えのある響きだ。
 彼の手が私の頬に添えられた。

「俺様の目を見ろ。誰が写ってる?」

 赤い瞳に写る知らない顔。

「だれ……?」
「お前を閉じ込めていた、シャーロット・グレイス・ヨークの『肉』だ」


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