52 / 375
第6章・喪失と再生
◆ 1・閉ざされた声(前) ◆
しおりを挟む
「ここは……?」
夕日だ。
夕日が建物の影におちようとしている。
見上げた空は赤く焼けている。
知らない場所だ。
揺れる視界は微かに見切れて写る人の所為だ。
誰かの腕に抱えられている。
白い髪、赤い瞳、綺麗に整った顔だ。
見覚えはない。
瞬きをして、手を伸ばす。
頬に触れた肉の温かみに首を傾げる。
とても熱い……。
違和感しかない世界。
私を抱えている男が足を止めた。
「目が覚めたか? ここがどこか分かるか?」
首を振った。
どこか分からない。
立てるかと聞かれて頷くも、降りて見た地面は硬くて、ガクリと膝をつく。彼が傍で支えてくれなかったら怪我をしたかもしれない。
「ごめんなさい……」
立つこともままならない現状に眉をひそめる。
彼が誰なのか以上に、私自身すらも分からない。
「あぁ、大丈夫だ。今はちょっと混乱してるだけで、すぐに『色々』と思い出せる」
「……あの、あなたは?」
迷惑をかけている事だけは分かった。
それなのに彼は嬉しそうに微笑む。
「俺様は、ベオルファ。大概の奴はルーファって呼ぶんだが、……お前には『ルフス』と呼んで欲しい、昔みたいに」
「昔……?」
「あぁ、ずっとずーっと昔だ」
古くからの知り合いらしいが、同時に記憶がない事を申し訳なく思う。彼は気落ちする私を励ますように微笑んでいる。
少しも気にした様子を見せないなんて優しい人だ。
「あの……ルフス、私」
途端の抱擁。
戸惑いと困惑。
「これからも呼び続けてくれ。俺はお前の為なら……なんだってできるから」
なぜ、彼はこんなにも泣きそうな声を?
分からない。何これ?? ここは何処? 全てがわからないっ。知らない世界、あんな赤い空を私は見た事がない。空がどうしてこんなに遠いの? どうして私の羽がないの? 羽が……、翼が……。
「悪い魔女をこらしめて」
彼は続ける。
「そうして、早く『肉』も取り戻そうな」
コレは誰だ?
あぁ、思い出してはダメな気がする……、なのに。
私の意識の全てが言ってるのに!
羽がないって……空が飛べないってっ。
でも、思い出してはダメだって……。
「……ね、が……、私、の」
彼の手が私の背をなぞる。布越しでも分かる、翼がある場所だ。
私の口から絶叫がほとばしる。
そうだ、私……っ、私の、はね……っ!!!!
見上げた先には憐れみと慈愛の混ざった男の顔。
この顔を私は知っている。
「る……ふす……、どうして……?」
どうしてあなた、私の翼をもいだの?
「……ごめんな、アーラ。今は混乱してるだろうが、すぐに落ち着くから。今はシャーロットの体に慣れてくれ」
シャーロット??
覚えのある響きだ。
彼の手が私の頬に添えられた。
「俺様の目を見ろ。誰が写ってる?」
赤い瞳に写る知らない顔。
「だれ……?」
「お前を閉じ込めていた、シャーロット・グレイス・ヨークの『肉』だ」
夕日だ。
夕日が建物の影におちようとしている。
見上げた空は赤く焼けている。
知らない場所だ。
揺れる視界は微かに見切れて写る人の所為だ。
誰かの腕に抱えられている。
白い髪、赤い瞳、綺麗に整った顔だ。
見覚えはない。
瞬きをして、手を伸ばす。
頬に触れた肉の温かみに首を傾げる。
とても熱い……。
違和感しかない世界。
私を抱えている男が足を止めた。
「目が覚めたか? ここがどこか分かるか?」
首を振った。
どこか分からない。
立てるかと聞かれて頷くも、降りて見た地面は硬くて、ガクリと膝をつく。彼が傍で支えてくれなかったら怪我をしたかもしれない。
「ごめんなさい……」
立つこともままならない現状に眉をひそめる。
彼が誰なのか以上に、私自身すらも分からない。
「あぁ、大丈夫だ。今はちょっと混乱してるだけで、すぐに『色々』と思い出せる」
「……あの、あなたは?」
迷惑をかけている事だけは分かった。
それなのに彼は嬉しそうに微笑む。
「俺様は、ベオルファ。大概の奴はルーファって呼ぶんだが、……お前には『ルフス』と呼んで欲しい、昔みたいに」
「昔……?」
「あぁ、ずっとずーっと昔だ」
古くからの知り合いらしいが、同時に記憶がない事を申し訳なく思う。彼は気落ちする私を励ますように微笑んでいる。
少しも気にした様子を見せないなんて優しい人だ。
「あの……ルフス、私」
途端の抱擁。
戸惑いと困惑。
「これからも呼び続けてくれ。俺はお前の為なら……なんだってできるから」
なぜ、彼はこんなにも泣きそうな声を?
分からない。何これ?? ここは何処? 全てがわからないっ。知らない世界、あんな赤い空を私は見た事がない。空がどうしてこんなに遠いの? どうして私の羽がないの? 羽が……、翼が……。
「悪い魔女をこらしめて」
彼は続ける。
「そうして、早く『肉』も取り戻そうな」
コレは誰だ?
あぁ、思い出してはダメな気がする……、なのに。
私の意識の全てが言ってるのに!
羽がないって……空が飛べないってっ。
でも、思い出してはダメだって……。
「……ね、が……、私、の」
彼の手が私の背をなぞる。布越しでも分かる、翼がある場所だ。
私の口から絶叫がほとばしる。
そうだ、私……っ、私の、はね……っ!!!!
見上げた先には憐れみと慈愛の混ざった男の顔。
この顔を私は知っている。
「る……ふす……、どうして……?」
どうしてあなた、私の翼をもいだの?
「……ごめんな、アーラ。今は混乱してるだろうが、すぐに落ち着くから。今はシャーロットの体に慣れてくれ」
シャーロット??
覚えのある響きだ。
彼の手が私の頬に添えられた。
「俺様の目を見ろ。誰が写ってる?」
赤い瞳に写る知らない顔。
「だれ……?」
「お前を閉じ込めていた、シャーロット・グレイス・ヨークの『肉』だ」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる