二月のお祀り

六道イオリ/剣崎月

文字の大きさ
上 下
33 / 35
失踪者たちについて

第30話・高梁家

しおりを挟む
 高梁は売家の看板が立っている隣家が見える、二階の部屋にいた。
 この家は亡き両親が建てたもので、高梁が受け継いだ。

「…………」

 時刻は既に21:00過ぎ。
 高梁が設置している人感センサーライトがついた――そのライトがつくと、室内に鈴の音が響くように細工されている。
 高梁は室内の照明を消し、遮光カーテンを開ける。
 薄いレースのカーテン越しに、四人の若い女性が周囲を気にしながら売家の看板が立っている野島家の敷地に足を踏み入れていた。

 高梁は定位置に置いているノートを手に取り、人感センサーライトの明かりを頼りに、四人の特徴を書き込む。

 雇い主からは「特徴を捕らえたイラストもついていたらいいんだが」と言われ、教材を買って練習したが、絵の才能はなかったらしく上手くならず、特徴を掴んだイラストも描けなかったので、文字で出来るだけ細かく記すようにしている。

 絵画教室にでも通えばいいのかもしれないが、高梁は中学の時のイジメで不登校になり、以来ずっと引き篭もっている……ことになっている。

 イジメで不登校になったのは事実だが――

 高梁が見ているとも知らず、四人組は野島家の敷地内をぐるりと周り、細身でセミロングの人物が家を指差した。その指し示した先にあるのは勝手口。

開いたのか」

 勝手口が開いた音などは聞こえなかったが、四人は勝手口から室内に入ったのは分かった。
 部屋に設置している時計で時間を確認し、野島家に入った時間をノートに記入する。

 あの勝手口から出てきたら、また自宅の人感センサーが反応して鈴の音が鳴るので、それまでの間、高梁は部屋に積まれた、ファッション雑誌を開き、四人の恰好と似ているものを探す。

 カーテンを閉め部屋の照明をつけ、ファッション雑誌の表紙に四色の付箋を貼る。
 この四色は四人組を表し、付箋でどの人物がどのようなコーディネイトをしていたのか、分かるように。
 ページを捲り似た洋服を赤い油性ペンで囲い、付箋を貼る。
 四人は全員、流行の洋服を身につけていたので、雑誌も二冊で済んだ

 そして鈴の音が鳴り、高梁は再び照明を消し、遮光カーテンを開けると、四人が野島家から出てきた所だった。
 高梁は時計で時刻を確認して書き込んだ。

「ん…………」

 四人のうちの一人が、手に何かを持っているのが見えた。
 四人ともボディバッグやリュックサックを背負っているので、室内でバッグを開けてなにかを取り出し、そのまま手に持って出てきたのか? と高梁は考えたが、手に何かを持っているロングヘアの人物が三人に声を掛け、その手元を覗き込んだので――野島家からなにかを持ち出したのだと高梁は思った。

「面倒だ」

 高梁は窓際の床に置いている暗視スコープを手に取り、持ち出したものを凝視する。

「本? ノート?」

 開いている形から、ノートのようなものなのは分かったが、なにが書かれているかは見えなかった……はずなのだが、突如文字が歪んだ。

「あ…………」

 歪んだ文字だが、日本語でも英語でも中国語でもない――悪戯書きのほうが、まだ分かりそうな

 だが高梁はそれが文字だと

 高梁は暗視ゴーグルを切り、頭を守るように抱えて蹲る。体は震えが止まらず――震えが止まったときには、すでに四人組の姿はなかった。

 高梁は慣れた家で体をぶつけながら、二階のキッチンでコップに水を注ぐと、油と生臭さが混じった異臭が高梁の鼻だけではなく、肌や目に襲い掛かる。


「ひぃぃぃ!」

 高梁はその臭いを高梁は何度も経験していた。水道を止め、無駄だと分かっているが布巾で蛇口を包み、冷蔵庫横に積んでいる、ダンボールからお茶のペットボトルを取り出し、廊下でキャップを開けるが、それも水道の水同様、腐臭と何かが混ざった臭いがしてきた。

 急いでキャップを閉め、先ほど四人組を記録したノートと、ファッション雑誌を手に一階に降りて、宛名を書きシールも剥がしているレターパックに、持って降りたノートと雑誌を乱暴に入れて封をして家を出た。

 高梁は中学生のときイジメで不登校になり、それから六年近く学校には通っていなかった。
 他者からみたら自堕落な生活――家族と顔を合わせたくなく、昼夜逆転の生活をしていた高梁は、彼が一番目が冴える深夜に、隣家の野島家に侵入するを見てしまった。


 それが高梁に引き篭もりを選ばせることになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

処理中です...