二月のお祀り

六道イオリ/剣崎月

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吉川大育

第25話・深淵が溢れ出す

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 二度目のバイトも荷物運びで、二時間もかからずに二十万手に入れた。

「仕事? 定期的にあるさ」

 この短時間で二十万稼げるバイトを定期的に引き受けたほうが、コンビニでバイトするよりずっと効率がいい。

「専属の運び屋になりたい? それはこっちとしても、ありがたい。夜間指定でも大丈夫?」
「もともと夕方から深夜にかけての、コンビニバイトなんで。むしろ夜のほうが得意です」
「そうか。じゃあ、夜のほうの荷物運びをしてもらおうかな。運転免許証は持ってる?」
「あ、持ってません」
「分かった。運転手の目処がついたら、声かける。バイトは辞めておいてね」

 俺に二十万を渡した男性は、それだけ言い残して立ち去った。

 俺はコンビニのバイトを辞めたいと店長に告げた。

「じゃあ、残り二週間は頼むね」

 採用のときに「最低でも辞める二週間前に伝えるように」と言われていたので――シフトがあるので、それは俺も納得している。
 他のコンビニでは一ヶ月前には伝えて欲しいと言われるらしいが、店長は法律上の二週間でOKを出していた。

 特に引き留められることもなく――簡単に辞めることができたので安心したけけど、引き留めとかなくて、あまり重要視されていないのだとも。
 少しイラッとしたけれど、これからは一ヶ月で百万以上を稼ぐことができるんだ!

 そう思い、最期の二週間を何とかやり過ごした――この程度の額じゃやっぱりモチベーションが湧かない。

 俺が店を辞める三日前、店長の親族に不幸があったと聞いた。詳しいことは聞かなかった。

 そしてコンビニのバイトを退職して――母親が入院している病院からの通知が並んでいるスマホを、番号ごと新しいものにする。
 iPhoneの最新機種に買い替え、荷物運びのバイトをするために、こちらからDMを送った。

『二週間後 深夜に山中に荷物を運ぶ仕事 日当三十五万円』

 二週間後か……荷物運びの仕事で手に入れた金は、あまり残っていないから、明日か明後日の仕事がしたいと送ったら、

『一緒に事故物件に住むバイトをしませんか? 家賃、敷金、礼金なしはもちろん、電気ガス水道代もかかりません。Wi-Fiも使えます、備え付けの家具家電も揃っています。日当は三千円ですが、冷凍庫の冷食は食べ放題です』

 安めのバイトを紹介された。
 自宅アパートは、電気代を払い忘れて電気が止められているので、俺はこのアルバイトを受けることにした。
 着替えとiPadをザ・ノース・フェイスのリュックサックに詰め込み、アパートをあとにした。

 稼げたら、このアパートはすぐに解約しよう。

 バイト先の事故物件は隣県にある、ごく普通の一軒家。念のために事故物件サイトで調べてみたけれど、掲載されていなかった。
 でも――なにかヤバイことが起こるかと思っていたら、全く何もなかった。
 仕事をしなくてもいい生活を一週間ほど満喫していると、

『その事故物件に、もう少し長く住んで欲しい。期間は一年』

 DMが送られてきた。
 一年間住めるなら、元のアパートは解約してもいいな。もともと、荷物運びのバイトで稼いだら、あのアパートじゃないところに住むつもりだったんだから、少し予定が早まっただけ。

 俺はアパートを解約した。敷金と礼金は、ほとんど返ってこなかったけれど、すぐに稼げるのだから、問題はない。


 アパートを解約し終えた俺は、なにも起こらない事故物件で、大型テレビ画面で動画配信を見て、動画を漁って過ごし、三十五万の報酬を貰える、夜の荷物運びのバイトへ。

 今回は車で移動する。
 車には運転手を含めて五人。全員初対面。全員男で、誰も話すことはなく、車の運転手以外は全員スマホを見ている。
 俺もスマホを見て時間を潰し――気が付いた時には、当たりには外灯もなにもない山奥の場所にいた。

 車から降りると、車のライトも消えた。

「ライトをつけろ!」
「車の調子が悪い。スマホのライトで当たりを照らしてくれ」

 運転手に言われた通り、スマホの明かりで周囲を見回したけれど、何も見えなかった。直後に乗ってきた車が急発進して――

 気付いたら体がどこかへ――真っ暗で自分がどこにいるのかも分からないが、誰かのスマホの明かりが上に見えた。

「がっ……」

 地面に体を叩きつけられ……んだと思う。
 なにが起こったのか……。

「良い腕だ」

 暗闇の中、知らない声が頭上から聞こえてきた。

「うぉ……」
「いでぇ……いでぇえ」
「血が……血が……」

 そしてうめき声も聞こえてきた。
 俺もたぶんうめき声を上げている。

「運べ」

 何を運ぶのだろうと思っていたら、俺の体が持ち上げられた。

「なん……」

 聞きたいが言葉も出てこないし、何を聞いていいのかも分からないし、あと痛い。全身が痛い。

 明かりが全くない。

「え、あ……あ、あ……」

 何が起こったのか分からない。
 誰か! 誰か! 誰か!

「それ以上進むな! この先に足を踏み入れたら、終わりだ!」

 その言葉のあと、俺の体は宙に投げ出された――さっきもやっぱり宙に投げ出されたんだ。

「いっ……!」

 地面に叩きつけられ、どこかの骨が折れる音が、体内から聞こえた。そして次々になにかが投げ込まれ、叩きつけられた音。そしてうめき声が。

 投げ込まれた所は暗くて全く分からないけれど――手元にスマホはない。だから助けを呼ぶこともできない。

 どうしたらいいのか、分からない。どうしたらいいのか……悪臭がする!

「くせえ!」
「なんだ……ここ……」

 臭いがしたら、なにかがずるり、ずるりと音を立てて近づいて来るような音もしてきた。


 いったい、何が起こったんだ……。

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