9 / 35
佐倉弥生
第08話・Febreroこと、通称F 壱
しおりを挟む
お通夜とか告別式などはなく――休みを取って火葬場へむかった。
「初めまして。熊谷智です」
火葬場にはNPO法人のホームページの代表として写真が載っている人がいて、名刺を差し出してくれた。
「あの、わたし名刺は」
「お気になさらずに」
火葬場には児童養護施設の職員が二人――わたしに連絡をくれた人と、施設長がいた。
「殴られた痛ましい跡が、顔に複数残っていますが、お別れしますか?」
「はい」
柩の小窓を開けて最期のお別れをした。
こんなに早くにお別れするなんて、思ってもいなかった。
涙が溢れ出し――二人で過ごした記憶なんて、なにも思い出せない。ただ泣くことしかできなかった。
骨になってしまったあの子の骨を骨壺へ。あの子は合祀される。
スーパーで出会ったおばさんからもらった香典は、熊谷さんに渡した。合祀の費用にしてくれるとのこと。
「あの、熊谷さん。お話したいことが」
「わたしも、お話したいことがあったので」
熊谷さんとわたしは、ファミレスに入った。
「事務所でもいいのですが、いきなりNPO法人の事務所につれていかれると、身構えてしまうでしょう」
熊谷さんは笑い、ドリンクバーを注文してから、わたしはスマホを取り出す。
「浪川って人から、返信があったんです。直接会って話をしましょうって」
熊谷さんに浪川さんからのメールを見せる。
「このアドレスは?」
「ブログを隈無くさがして見つけました。いろいろな人に教えてもらって、ソースを見て気付いたんです」
「そうですか……わたしがソースコードを見た時には、もう消去されていました。それで佐倉さんは、浪川さんと会うつもりですか?」
「悩んでいます」
「そうですね。決断の一助になればいいのですが、わたしが佐倉さんに開示できることをお教えします。この浪川麻衣子が書いている
”また、この一家の失踪に関わっている可能性がある
Febreroこと、通称Fと呼ばれている日本人女性について
情報をお持ちの方は是非お教えください”
これは正しい情報です」
「あの!」
「一つ一つ説明させてもらいます。まずこの浪川麻衣子という人は”Febreroこと、通称F”に個人的な恨みを持っている人です」
「恨み……ですか?」
「なぜ恨まれているのかについても知っていますが、佐倉さんにはお教えできません。話を聞く分には波川麻衣子側のほうが悪いと断言できます」
「…………」
「そもそもこの”Febreroこと、通称F”は間違いなのです。たしかにこの人物は”F”と名乗っていますが、Fさんの”F”はFebreroから取ったものではありません」
「え……と……」
「Fさんが”F”と名乗っている理由については割愛しますが、日本以外では概ね”F”と名乗っています」
「なぜですか?」
「本名が外国人には発音し辛い等が理由だそうです。わたしも本名は存じません」
「そう……なんですか」
「Fさんと出会ったのはネット上で、ハンドルネームしか知りません。知り合った経緯もお教えできないことが多いのですが、兄の行方不明事件に関わりのある人物と、Fさんが知り合いだったことから、連絡を取り合うようになりました」
熊谷さんは続ける。
「アメリカの大学に通っているときにFと名乗り始め、事情があってスペイン語圏内に出向いた時も”F”と名乗ったそうです。その時に現地の人に”なんのFだ”と聞かれて、説明が面倒だったので、スペイン語の二月を名乗ったとF氏本人から聞いています」
「なぜ二月?」
「当時覚えているスペイン語が十二ヶ月くらいしかなく、その中でFが頭文字なのは二月だけだから……だそうです」
「…………」
理由が適当過ぎると思ったけれど、口にはださなかった。
「初めまして。熊谷智です」
火葬場にはNPO法人のホームページの代表として写真が載っている人がいて、名刺を差し出してくれた。
「あの、わたし名刺は」
「お気になさらずに」
火葬場には児童養護施設の職員が二人――わたしに連絡をくれた人と、施設長がいた。
「殴られた痛ましい跡が、顔に複数残っていますが、お別れしますか?」
「はい」
柩の小窓を開けて最期のお別れをした。
こんなに早くにお別れするなんて、思ってもいなかった。
涙が溢れ出し――二人で過ごした記憶なんて、なにも思い出せない。ただ泣くことしかできなかった。
骨になってしまったあの子の骨を骨壺へ。あの子は合祀される。
スーパーで出会ったおばさんからもらった香典は、熊谷さんに渡した。合祀の費用にしてくれるとのこと。
「あの、熊谷さん。お話したいことが」
「わたしも、お話したいことがあったので」
熊谷さんとわたしは、ファミレスに入った。
「事務所でもいいのですが、いきなりNPO法人の事務所につれていかれると、身構えてしまうでしょう」
熊谷さんは笑い、ドリンクバーを注文してから、わたしはスマホを取り出す。
「浪川って人から、返信があったんです。直接会って話をしましょうって」
熊谷さんに浪川さんからのメールを見せる。
「このアドレスは?」
「ブログを隈無くさがして見つけました。いろいろな人に教えてもらって、ソースを見て気付いたんです」
「そうですか……わたしがソースコードを見た時には、もう消去されていました。それで佐倉さんは、浪川さんと会うつもりですか?」
「悩んでいます」
「そうですね。決断の一助になればいいのですが、わたしが佐倉さんに開示できることをお教えします。この浪川麻衣子が書いている
”また、この一家の失踪に関わっている可能性がある
Febreroこと、通称Fと呼ばれている日本人女性について
情報をお持ちの方は是非お教えください”
これは正しい情報です」
「あの!」
「一つ一つ説明させてもらいます。まずこの浪川麻衣子という人は”Febreroこと、通称F”に個人的な恨みを持っている人です」
「恨み……ですか?」
「なぜ恨まれているのかについても知っていますが、佐倉さんにはお教えできません。話を聞く分には波川麻衣子側のほうが悪いと断言できます」
「…………」
「そもそもこの”Febreroこと、通称F”は間違いなのです。たしかにこの人物は”F”と名乗っていますが、Fさんの”F”はFebreroから取ったものではありません」
「え……と……」
「Fさんが”F”と名乗っている理由については割愛しますが、日本以外では概ね”F”と名乗っています」
「なぜですか?」
「本名が外国人には発音し辛い等が理由だそうです。わたしも本名は存じません」
「そう……なんですか」
「Fさんと出会ったのはネット上で、ハンドルネームしか知りません。知り合った経緯もお教えできないことが多いのですが、兄の行方不明事件に関わりのある人物と、Fさんが知り合いだったことから、連絡を取り合うようになりました」
熊谷さんは続ける。
「アメリカの大学に通っているときにFと名乗り始め、事情があってスペイン語圏内に出向いた時も”F”と名乗ったそうです。その時に現地の人に”なんのFだ”と聞かれて、説明が面倒だったので、スペイン語の二月を名乗ったとF氏本人から聞いています」
「なぜ二月?」
「当時覚えているスペイン語が十二ヶ月くらいしかなく、その中でFが頭文字なのは二月だけだから……だそうです」
「…………」
理由が適当過ぎると思ったけれど、口にはださなかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
追っかけ
山吹
ホラー
小説を書いてみよう!という流れになって友達にどんなジャンルにしたらいいか聞いたらホラーがいいと言われたので生まれた作品です。ご愛読ありがとうございました。先生の次回作にご期待ください。
クトゥルフ・ミュージアム
招杜羅147
ホラー
本日はクトゥルフ・ミュージアムにご来館いただき、誠にありがとうございます。
当館では我々を魅了してやまない神々やその配下の、躍動感あふれる姿を捕らえ、展示しております。
各エリアの出口には展示品を更に楽しめるよう小冊子もご用意してありますので、併せてご利用くださいませ。
どうぞごゆっくりご観覧下さい。
~3年前ほどに別サイトにに投稿した作品で、クラシカルな感じのクトゥルフ作品です。
ジャングルジム【意味が分かると怖い話】
怖狩村
ホラー
僕がまだ幼稚園の年少だった頃、同級生で仲良しだったOくんとよく遊んでいた。
僕の家は比較的に裕福で、Oくんの家は貧しそうで、
よく僕のおもちゃを欲しがることがあった。
そんなある日Oくんと幼稚園のジャングルジムで遊んでいた。
一番上までいくと結構な高さで、景色を眺めながら話をしていると、
ちょうど天気も良く温かかったせいか
僕は少しうとうとしてしまった。
近くで「オキロ・・」という声がしたような、、
その時「ドスン」という音が下からした。
見るとO君が下に落ちていて、
腕を押さえながら泣いていた。
O君は先生に、「あいつが押したから落ちた」と言ったらしい。
幸い普段から真面目だった僕のいうことを信じてもらえたが、
いまだにO君がなぜ落ちたのか
なぜ僕のせいにしたのか、、
まったく分からない。
解説ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
近くで「オキロ」と言われたとあるが、本当は「オチロ」だったのでは?
O君は僕を押そうとしてバランスを崩して落ちたのではないか、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる