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佐倉弥生
第07話・メールが届いた
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少しだけ落ち着き――家に帰ってすぐに顔を洗い、スマホを手に取る。電話を掛ける前に、さっきのNPO法人について検索した。
本当に存在しているNPO法人だった。
代表者の名前は熊谷智。そしてこの団体を立ち上げる経緯が書かれていた。
2001年に兄の熊谷衛が失踪したのがきっかけです。
成人ということで、警察に行方不明届を出すも、ただの家出だと思われ、捜索はしてもらえませんでした。
当時大学生だったわたしは、兄の衛を探しましたが捜索に必要な人脈やノウハウを持ち合わせておらず、僅かな手がかりすら見つけられぬまま――
「兄の熊谷衛って……」
熊谷さとるのホームページ【移転版】と見比べる。
わたしは”さとる”という名前を見て、男性だと思っていたけれど”さとる”という名前の女性もいる。智は”さとる”とも読めるらしい。
同姓同名で同じような境遇の人?
まさかそんなこと……あの子の死亡を伝えられた時とは別の震えを覚えながら、着信履歴から通話をタップした。
「さきほど連絡をいただいた、佐倉弥生です」
「熊谷です。お待ちしておりました」
「あの! お尋ねしたいのですが! さきほど団体のホームページを確認したのですが、代表の熊谷さんでいらっしゃいますか?」
「はい、わたしが代表の熊谷です」
「ホームページに書かれているお名前、知識の知の下に日付の日の智と書いて、どうやって読まれるんですか?」
「さとると読みます。女で”さとる”は少ないので”とも”と呼ばれることが多いです」
ここまで合致しているのなら、間違いない!
「あの! 葬儀の話の前に、浪川麻衣子さんについて、お尋ねしたいのですが」
「なみかわ まいこ さん? ですか?」
熊谷さんが不思議そうな声で尋ねてきた。
「はい。管理を受け継いだ浪川麻衣子さんです。引き継いだ経緯のところは、リンクがなかったので経緯は分からないのですが」
「ちょっと待って下さい、佐倉さん。なにを仰っているのか」
「失踪したお兄さんの情報提供を求めるホームページの移転版のことです。そこに書いている野島という失踪者の」
「済みません、話がまったく見えないのですが。移転したホームページですか? よろしければアドレスを教えていただけませんか? こちらで確認したいので」
メモしていたアドレスを教え――
「まさか、こんなことが」
すぐに困惑した声が聞こえた。
「ご存じなかったんですか?」
「はい。ホームページには書かなかったのですが、十年ほど前に兄の失踪絡みでわたしも危険な目に遭いまして。その際に両親から”衛のことは諦める。お前を危険に晒したくない。だからお前も諦めてくれ”と言われて、兄を探すのを諦めたのです。その時にホームページも閉鎖した筈だった……のですが。それにしても佐倉さんが……」
熊谷さんは兄の衛さんを探すのを諦めたが、それは一時のもの。
両親が亡くなったあと、兄だけを探すのではなく、大勢の人たちを探すためにNPO法人を立ち上げたのだそうだ。
「わたしの方で調べてみます。佐倉さんは、あまりそのブログにアクセスしないで下さい。出来れば履歴も削除してください」
「どうしてですか?」
「理由は言えません。おそらく納得できないでしょう。でもあれはそういうものだと、わたしは知っているのです」
そこでこの話は終わって、あの子の葬儀についての説明を受けた。
熊谷さんとの通話が終わり、ベッドに体を投げ出して天井をぼうっと眺めていると、スマホから通知音が聞こえた。
”浪川麻衣子と申します。野島一家の件で”
画面にはフリーメールの着信が表示されていた
本当に存在しているNPO法人だった。
代表者の名前は熊谷智。そしてこの団体を立ち上げる経緯が書かれていた。
2001年に兄の熊谷衛が失踪したのがきっかけです。
成人ということで、警察に行方不明届を出すも、ただの家出だと思われ、捜索はしてもらえませんでした。
当時大学生だったわたしは、兄の衛を探しましたが捜索に必要な人脈やノウハウを持ち合わせておらず、僅かな手がかりすら見つけられぬまま――
「兄の熊谷衛って……」
熊谷さとるのホームページ【移転版】と見比べる。
わたしは”さとる”という名前を見て、男性だと思っていたけれど”さとる”という名前の女性もいる。智は”さとる”とも読めるらしい。
同姓同名で同じような境遇の人?
まさかそんなこと……あの子の死亡を伝えられた時とは別の震えを覚えながら、着信履歴から通話をタップした。
「さきほど連絡をいただいた、佐倉弥生です」
「熊谷です。お待ちしておりました」
「あの! お尋ねしたいのですが! さきほど団体のホームページを確認したのですが、代表の熊谷さんでいらっしゃいますか?」
「はい、わたしが代表の熊谷です」
「ホームページに書かれているお名前、知識の知の下に日付の日の智と書いて、どうやって読まれるんですか?」
「さとると読みます。女で”さとる”は少ないので”とも”と呼ばれることが多いです」
ここまで合致しているのなら、間違いない!
「あの! 葬儀の話の前に、浪川麻衣子さんについて、お尋ねしたいのですが」
「なみかわ まいこ さん? ですか?」
熊谷さんが不思議そうな声で尋ねてきた。
「はい。管理を受け継いだ浪川麻衣子さんです。引き継いだ経緯のところは、リンクがなかったので経緯は分からないのですが」
「ちょっと待って下さい、佐倉さん。なにを仰っているのか」
「失踪したお兄さんの情報提供を求めるホームページの移転版のことです。そこに書いている野島という失踪者の」
「済みません、話がまったく見えないのですが。移転したホームページですか? よろしければアドレスを教えていただけませんか? こちらで確認したいので」
メモしていたアドレスを教え――
「まさか、こんなことが」
すぐに困惑した声が聞こえた。
「ご存じなかったんですか?」
「はい。ホームページには書かなかったのですが、十年ほど前に兄の失踪絡みでわたしも危険な目に遭いまして。その際に両親から”衛のことは諦める。お前を危険に晒したくない。だからお前も諦めてくれ”と言われて、兄を探すのを諦めたのです。その時にホームページも閉鎖した筈だった……のですが。それにしても佐倉さんが……」
熊谷さんは兄の衛さんを探すのを諦めたが、それは一時のもの。
両親が亡くなったあと、兄だけを探すのではなく、大勢の人たちを探すためにNPO法人を立ち上げたのだそうだ。
「わたしの方で調べてみます。佐倉さんは、あまりそのブログにアクセスしないで下さい。出来れば履歴も削除してください」
「どうしてですか?」
「理由は言えません。おそらく納得できないでしょう。でもあれはそういうものだと、わたしは知っているのです」
そこでこの話は終わって、あの子の葬儀についての説明を受けた。
熊谷さんとの通話が終わり、ベッドに体を投げ出して天井をぼうっと眺めていると、スマホから通知音が聞こえた。
”浪川麻衣子と申します。野島一家の件で”
画面にはフリーメールの着信が表示されていた
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