二月のお祀り

六道イオリ/剣崎月

文字の大きさ
上 下
7 / 35
佐倉弥生

第06話・電話がかかってきた 2

しおりを挟む
 掲示板の人たちの意見を参考にしてネカフェにパソコンに、ブログのアドレスを入力して、掲示板のアドバイスに従って検索すると、ソースコードにメールアドレスをみつけることができた。



>>情報収集目的のブログで
>>コンタクトが取りづらいって
>>なんかおかしく感じる



 あの言葉は引っかかったけれど「野島真弓の姪です。叔母一家についてなにかご存じでしたら、このメールアドレスに返信ください」とメールアドレスをそえて浪川麻衣子さんにメールを送った。


 メールはスマホに届くよう設定して、ネカフェをでた。

 これでメールが届いたら――ネカフェで連絡先を見つけて、フリーメールアドレスを取得してメッセージを送るまで高揚していたけれど、

「なにも変わらない……か」

 ネカフェの外に出て歩き出したら、その高揚感はすぐにしぼんでいった。
 きっとわたしには叔母一家を見つけることなんてできない。
 なにも変わらないし、なにもできない。いつもと変わらない日常が続くだけ――自宅にもっとも近いスーパーに立ち寄る。
 数日分の食料を買って帰ろうとカゴを持ったら、いきなり電話が鳴った。

「電話? NPO法人?」

 急いで画面をみると「そこにはNPO法人」と書かれていた。
 登録している番号でもないのに、なぜそんな表記がされるのか不思議に思ったけれど、通話をタップする。

「佐倉弥生さまの電話番号で、お間違いないでしょうか?」

 落ち着いた大人の女性の声が聞こえてきた。

「はい……そうですけど」
「いま、お時間よろしいでしょうか?」
「はい」
「わたくし、熊谷と申します。当方は――」

 そのNPO法人は、借金やDVなどで行き場を失った人たちを保護、治療して、社会復帰ができるよう手伝う活動をしている。

 ホストにはまって、行方不明になっていたあの子が、死んだと知らされた。

 わたしは空の買い物カゴをもどす。そのとき自分の手が震えていることに気付き――店外に出た。

 あの子は売掛金が払えず、風俗の道を選び、推しのホストの何番目かの女――金蔓にされて、金を渡せないと殴られてを繰り返していた。
 金をむしり取っていたホストが往来であの子を殴り、巡回していた警察官が止めに入り、あの子は病院に搬送された。

「児童養護施設の職員から連絡をいただいておりまして。もっと早くにみつけて、保護できたらよかったのですが」

 あの子が誰かに助けを求めることができないように、スマホに登録されている連絡先は全部削除されていた。

「あなたの電話番号だけは覚えていて、連絡を取って欲しいと頼まれました」

 打ちどころが悪かったらしく、あの子はわたしの携帯番号を熊谷さんに伝えたあと容態が急変して亡くなった。

「葬儀はこちらで執り行うことになりました。つきましては、佐倉さまにも列席いただきたいのですが宜しいでしょうか」

 あの子はもうじき燃えてなくなってしまう。冷や汗が吹き出て、手が震える。

「あ、あの……いま出先なのでメモできないので、帰宅してからかけ直したいのですが」
「わかりました。佐倉さまの都合のよい時間に、この番号に掛けてください。お待ちしております」

 通話は切れず――マナー研修で、電話を掛けた側から通話を切ってはいけないと、教えられたことを思い出し、タップして通話を切った。

「はぁ……はぁ……はぁ……電話番号覚えてたなら、連絡してくれたら……たすけたのに……」

 連絡をくれたら、助けたよ!
 助けたのに!
 ……出来ないことは分かってる!
 高校を卒業して、社会人一年目の、頼れる大人がいないわたしに連絡しても、問題が解決しないことは分かる!
 分かるけど!

「連絡して、欲しかった……よ……」

 顔を覆ってうずくまった。
 そしたらすぐにおばさんに声を掛けられ、さっき買い物のために入ったスーパーのくつろぎコーナーにつれていかれ、上等な箱ティッシュと、

「好きなのを取って」

 コーヒーや紅茶などのペットボトルが五本並べられた。

「あ、あの……」
「もう一回聞くけど、体調不良じゃないのね」
「は、はい……あの、こ、高校の友人の訃報が……卒業したばかりで、死んじゃうなんて……って」

 おばさんは、ティッシュを数枚取ってわたしに手渡してくれた。

 少し泣いて、

「あのありがとうございます。ご迷惑をおかけして」
「いいのよ。あ、ちょっと待ってて」

 おばさんはそう言うと売り場へ向かい、すぐに戻って来た。そして財布から千円札を何枚か取り出し、

「あなたのご友人へのお悔やみ。受け取って」

 買ったばかりの不祝儀袋に入れて、わたしに差し出した。

「あの……」

 あの子に対してのお悔やみを”もらえない”というのは、おかしな気がするから、断り切れなかった。

「こういうお話を聞いて、なにもしないで帰ると、わたしが気になって寝られないの。中年女性の睡眠のためだと思って受け取って」

 箱ティッシュと残った飲み物と香典を受け取って、そのおばさんと別れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

異界劇場 <身近に潜む恐怖、怪異、悪意があなたを異界へと誘うショートショート集>

春古年
ホラー
身近に潜む恐怖、怪異、悪意があなたを異界へと誘うショートショート集。 通勤通学、トイレ休憩のお供にどうぞ♪ Youtubeにて動画を先行公開中です。 2023年2月28日現在、通常動画とショート動画合わせて約50本の動画を公開しています。 次のURLか、Youtubeにて"異界劇場"とご検索下さい。 https://www.youtube.com/@ikaig 是非、当チャンネルへのお越しをお待ちしております。 第6回ホラー・ミステリー小説大賞参加中! 😊😊😊投票をお願いします😊😊😊

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

処理中です...