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【03】カイネ一人旅Ⅲ
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カイネがいる水の国から火の国へ向かうために、滞在していた街からさほど遠くない国境の街へ。
公的にはまだ戦争は始まっていないが、国境の町は張り詰めた空気に包まれていた。
国境沿いの国というのは隣国の民との交流が活発なものなので、歩の国の民が闊歩していたもしかたがない。
カイネは街中を散策し、ギルドでダンジョンの情報を仕入れてから、食糧などを買い込み、表向きはダンジョン攻略へと向かう。
カイネが選んだダンジョンは、縦に伸びている深層タイプではなく、深さはほどほどで横に広がっているもの――ダンジョンの出口が火の国側にもあるダンジョン。
秘匿された情報ではないので、火の国側の出入り口に見張りが配置されている可能性はあるが「その時はその時」という軽い気持ちで
(森の国の侵略にも、ダンジョンを使った可能性も……大軍を送ることは、できないわけでもないが、飛竜が使えないから使わない……いや、魔道師だけなら)
火の国と森の国に跨がるダンジョンもあるので、ダンジョンを横断する行軍もあるのでは? と考えたが、火の国はドラゴンの亜種である飛竜が軍の主軸。
飛竜は地中を好まない習性だとカイネは聞いたことがあった。飛竜は火の国の国王が独占しているので、生態などは国家間では知られているだろうが、庶民にはそれほど知られていない。
先ほどの情報も、飛竜に乗っていたが退役し傭兵になった女性と、酒場で相席した際に、酒の席での話題として聞いたもの。
(他は臆病な性質で、個体によって積載量の差が大きい。他には……)
火の国に入ったら、飛竜にはきをつけなければ……と思いながら歩いていると、
「おい、貴様! そこの砂漠の流れ者!」
ガチャガチャと金属が擦れる音をたてながら、兵士がカイネに近づいてきた。
「ん? 俺のことか?」
火の国の兵士 ―― 中央に線で描かれた三角形を丸で囲んでいる紋章が入った兜を被っているので、カイネはその様に判断した―― に呼ばれ、カイネは足を止めて振り返る。
「何をしている!」
「冒険者なんで、ダンジョンに向かうところだが」
槍を手に持っている兵士が二人、カイネに不審の目を向けていた。
「そんなことはどうでもいい!」
”聞いたのはお前等だろう”カイネは、火の国の兵士の理不尽で高圧的な態度を、内心で小馬鹿にする。
「行ってもいいか?」
ここで溜息を漏らしたら言いがかりを付けられることは必死だなと、カイネは必死にこらえる。
「貴様、女を見なかったか!」
”どんな女だよ……女なんてどこにでもいるが”あまりにも言葉が足りなく、彼の頭は大丈夫なのだろうか? と、些か兵士を哀れに思いながら答える。
「女と言われても……大通りには、大勢いるじゃないか」
「そうではない! シスターだ! 金髪の!」
(最初から特徴を言えよ)
「見てないな」
肩をすくめながら、本当のことを答えるが、
「嘘をついていないだろうな!」
兵士は納得していないようで、カイネの胸元の服を握り、顔を近づけ怒鳴りつけてきた。
「……」
その時、上着のあわせの隙間に、なにかが押し込まれた。危険なものかと思ったが、兵士は更に体を寄せくる。カイネが佩いている剣の柄に、兵士のプレートが触れて、先ほどと同じような金属音が鳴る。
「ついてないよ。よく分からんが、その金髪のシスターを見かけたら、あんた達に報告すりゃあ、情報料としていくらか貰えるのか?」
「黙れ! 知らないなら去れ!」
カイネの胸元を掴んでいた手を離して、兵士たちは去っていった。
(紙片?)
防具も兼ねる厚手の上着と、シャツの間に入り込み、ベルトの部分で止まった紙片。
(ろくなことじゃないだろうが……魔術のなにかが仕込まれていたとしても)
体に害を与える、呪物や遅効の攻撃魔法などが仕込まれていたとしても、カイネは体質的に問題はないので、特に気にせず当初の予定通りに街を出た。
しばらく進んでから上着の隙間にねじ込まれた紙片を取り出す。紙片は四つ折りにされたもので、開くとカイネの掌よりも少し小さめ。
”スオウに頼みがある――”
(あーあいつ、移民か。特徴が薄いから、分からなかった)
紙片に書かれていたのは砂の民の言葉。
さきほどカイネにしつこいほど絡んできた兵士は、故郷の砂の国が滅びたあと、火の国へと移住したので、砂の国の文字が使えるのだろうとカイネは踏んだ。
絡んできた砂の国の民の特徴が薄い兵士とは違い、カイネは一目で砂の国出身だと分かる、特徴的な赤みがかった頭髪だった。
亡国ではこの頭髪の色を「スオウ」と呼んでいた――文字は殴り書きと表現するに相応しい崩れっぷりで、カイネを見かけて急いで書いたものと思われた。
スオウに頼みがある
イルカリサ姫はダノージュの砦に連れていかれたと
ガナスダンジョン近く潜んでいる
ファーベル隊に伝えてほしい
「…………」
カイネは一読して、すぐに紙を折りたたみ、手袋へと押し込み手を握って、そのままガナスのダンジョンを目指すことにした。
手紙は罠ではないかなど、いろいろと考える余地はあるが、カイネは「なんとなく楽しそう」という理由だけで行くことに決めた。
公的にはまだ戦争は始まっていないが、国境の町は張り詰めた空気に包まれていた。
国境沿いの国というのは隣国の民との交流が活発なものなので、歩の国の民が闊歩していたもしかたがない。
カイネは街中を散策し、ギルドでダンジョンの情報を仕入れてから、食糧などを買い込み、表向きはダンジョン攻略へと向かう。
カイネが選んだダンジョンは、縦に伸びている深層タイプではなく、深さはほどほどで横に広がっているもの――ダンジョンの出口が火の国側にもあるダンジョン。
秘匿された情報ではないので、火の国側の出入り口に見張りが配置されている可能性はあるが「その時はその時」という軽い気持ちで
(森の国の侵略にも、ダンジョンを使った可能性も……大軍を送ることは、できないわけでもないが、飛竜が使えないから使わない……いや、魔道師だけなら)
火の国と森の国に跨がるダンジョンもあるので、ダンジョンを横断する行軍もあるのでは? と考えたが、火の国はドラゴンの亜種である飛竜が軍の主軸。
飛竜は地中を好まない習性だとカイネは聞いたことがあった。飛竜は火の国の国王が独占しているので、生態などは国家間では知られているだろうが、庶民にはそれほど知られていない。
先ほどの情報も、飛竜に乗っていたが退役し傭兵になった女性と、酒場で相席した際に、酒の席での話題として聞いたもの。
(他は臆病な性質で、個体によって積載量の差が大きい。他には……)
火の国に入ったら、飛竜にはきをつけなければ……と思いながら歩いていると、
「おい、貴様! そこの砂漠の流れ者!」
ガチャガチャと金属が擦れる音をたてながら、兵士がカイネに近づいてきた。
「ん? 俺のことか?」
火の国の兵士 ―― 中央に線で描かれた三角形を丸で囲んでいる紋章が入った兜を被っているので、カイネはその様に判断した―― に呼ばれ、カイネは足を止めて振り返る。
「何をしている!」
「冒険者なんで、ダンジョンに向かうところだが」
槍を手に持っている兵士が二人、カイネに不審の目を向けていた。
「そんなことはどうでもいい!」
”聞いたのはお前等だろう”カイネは、火の国の兵士の理不尽で高圧的な態度を、内心で小馬鹿にする。
「行ってもいいか?」
ここで溜息を漏らしたら言いがかりを付けられることは必死だなと、カイネは必死にこらえる。
「貴様、女を見なかったか!」
”どんな女だよ……女なんてどこにでもいるが”あまりにも言葉が足りなく、彼の頭は大丈夫なのだろうか? と、些か兵士を哀れに思いながら答える。
「女と言われても……大通りには、大勢いるじゃないか」
「そうではない! シスターだ! 金髪の!」
(最初から特徴を言えよ)
「見てないな」
肩をすくめながら、本当のことを答えるが、
「嘘をついていないだろうな!」
兵士は納得していないようで、カイネの胸元の服を握り、顔を近づけ怒鳴りつけてきた。
「……」
その時、上着のあわせの隙間に、なにかが押し込まれた。危険なものかと思ったが、兵士は更に体を寄せくる。カイネが佩いている剣の柄に、兵士のプレートが触れて、先ほどと同じような金属音が鳴る。
「ついてないよ。よく分からんが、その金髪のシスターを見かけたら、あんた達に報告すりゃあ、情報料としていくらか貰えるのか?」
「黙れ! 知らないなら去れ!」
カイネの胸元を掴んでいた手を離して、兵士たちは去っていった。
(紙片?)
防具も兼ねる厚手の上着と、シャツの間に入り込み、ベルトの部分で止まった紙片。
(ろくなことじゃないだろうが……魔術のなにかが仕込まれていたとしても)
体に害を与える、呪物や遅効の攻撃魔法などが仕込まれていたとしても、カイネは体質的に問題はないので、特に気にせず当初の予定通りに街を出た。
しばらく進んでから上着の隙間にねじ込まれた紙片を取り出す。紙片は四つ折りにされたもので、開くとカイネの掌よりも少し小さめ。
”スオウに頼みがある――”
(あーあいつ、移民か。特徴が薄いから、分からなかった)
紙片に書かれていたのは砂の民の言葉。
さきほどカイネにしつこいほど絡んできた兵士は、故郷の砂の国が滅びたあと、火の国へと移住したので、砂の国の文字が使えるのだろうとカイネは踏んだ。
絡んできた砂の国の民の特徴が薄い兵士とは違い、カイネは一目で砂の国出身だと分かる、特徴的な赤みがかった頭髪だった。
亡国ではこの頭髪の色を「スオウ」と呼んでいた――文字は殴り書きと表現するに相応しい崩れっぷりで、カイネを見かけて急いで書いたものと思われた。
スオウに頼みがある
イルカリサ姫はダノージュの砦に連れていかれたと
ガナスダンジョン近く潜んでいる
ファーベル隊に伝えてほしい
「…………」
カイネは一読して、すぐに紙を折りたたみ、手袋へと押し込み手を握って、そのままガナスのダンジョンを目指すことにした。
手紙は罠ではないかなど、いろいろと考える余地はあるが、カイネは「なんとなく楽しそう」という理由だけで行くことに決めた。
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