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【02】カイネ一人旅Ⅱ
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ごった返しているギルドの中に身を滑らせ、掲示板へと近付いて、森の国の傭兵募集の要項を捜したが”なかった”
どうしたものか? ギルド職員が顔見知りの傭兵と話しているのをカイネは盗み聞く。
「森の国、は一夜にして火の国に滅ぼされたらしい」
かなり衝撃的な情報が漏れ聞こえてきた。
職員はカイネの他、皆が聞き耳を立てていることを知りながら、今届いている情報を語った。
それによると、森の国の王はすでに処刑され、前線に赴いていた森の国の王子と、城に残っていたはずの王女のどちらも行方不明。
国を導く者たちがいなくなり、火の国の軍に蹂躙されているという。
その森の国と国境を隣接するもう一つの国が。いまカイネがいる水の国。
水の国といっても、カイネがいるのは王都ではなく、水の国の中でも森の国寄り。
火の国がこのまま引き返せば良いが、勢いに乗って攻め込んできた場合、必ず通る地域。
そして火の国が引き返しそうかといえば――水の国は森の国に駐留し暴虐を尽くしている火の国の司令官に使者を送ったが、その使者腕を縛られは上空を舞う翼竜から突き落とされ死体となった……という噂も流れているとのこと。
こういった経緯から、ギルドでは森の国の傭兵募集はなく、水の国の傭兵募集がかかっていた。
このまま水の国に残っていると戦渦に巻き込まれそうなので、カイネは国を離れることにした。
(どこに拠点を移そうか……っても、国は氷の国しか残ってないんだけどな……久しぶりに、故郷があった所に帰るか?)
カイネの生まれ故郷は砂の国――だが、その砂の国は十数年前に一夜にして滅んだ。それは比喩などではなく、本当に一晩で滅びた。
砂の国は女王と共に滅んだが、それから十年以上の月日が流れ、統治する者はいないが、流民が国に移り住み、小さな集落を形成している
”逃げて”
夫に胸を貫かれ、悲しげな笑みを浮かべて、カイネに優しく言った女王――
その時、その場にいて唯一生き残ったカイネ。
カイネが物心ついた頃には、女王は実父を無言のまま愛おしげに見つめていた。
幼い頃には分からなかったが、もう分かっている――
「…………」
カイネはギルドへと向かった時と同じようにのんびりと歩いて宿へと戻り、国を出る準備を整え、敢えて火の国へ向かうことにした。
無謀とも思えるカイネの行動だが、カイネ本人には自信があった。
カイネは身が軽く、足が速い。そして自惚れているわけではないが、剣の腕がたつ――砂の国の民は戦端が少し反り返った片手剣を得意とする者が多く、カイネもその一人だった。
なによりカイネは魔法使い相手に優位に立てる特殊な能力を持っていた。特殊能力というよりは、特殊な体質といったほうが正しく、それは血筋を表す特殊なもので、できることなら使いたくはないが、無条件で発動するものなので、魔法使いに近づかないくらいしか、対処方法がないのも事実だった。
火の国は氷の国の次に魔法を得意とする民族が多い国。そんな国に近づけば危険そうだが、
(一晩で滅ぼしたは、言葉の綾だろうから、魔道師の大編成で攻め込んだんだろう)
魔道師の多くは進軍に従い、残りは王宮に詰めていると予想し、王都から少し離れた場所で火の国の実情を眺めたあとに、本格的に拠点を決めることにし、多くの人の流れとは反対方向に歩を取った。
どうしたものか? ギルド職員が顔見知りの傭兵と話しているのをカイネは盗み聞く。
「森の国、は一夜にして火の国に滅ぼされたらしい」
かなり衝撃的な情報が漏れ聞こえてきた。
職員はカイネの他、皆が聞き耳を立てていることを知りながら、今届いている情報を語った。
それによると、森の国の王はすでに処刑され、前線に赴いていた森の国の王子と、城に残っていたはずの王女のどちらも行方不明。
国を導く者たちがいなくなり、火の国の軍に蹂躙されているという。
その森の国と国境を隣接するもう一つの国が。いまカイネがいる水の国。
水の国といっても、カイネがいるのは王都ではなく、水の国の中でも森の国寄り。
火の国がこのまま引き返せば良いが、勢いに乗って攻め込んできた場合、必ず通る地域。
そして火の国が引き返しそうかといえば――水の国は森の国に駐留し暴虐を尽くしている火の国の司令官に使者を送ったが、その使者腕を縛られは上空を舞う翼竜から突き落とされ死体となった……という噂も流れているとのこと。
こういった経緯から、ギルドでは森の国の傭兵募集はなく、水の国の傭兵募集がかかっていた。
このまま水の国に残っていると戦渦に巻き込まれそうなので、カイネは国を離れることにした。
(どこに拠点を移そうか……っても、国は氷の国しか残ってないんだけどな……久しぶりに、故郷があった所に帰るか?)
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砂の国は女王と共に滅んだが、それから十年以上の月日が流れ、統治する者はいないが、流民が国に移り住み、小さな集落を形成している
”逃げて”
夫に胸を貫かれ、悲しげな笑みを浮かべて、カイネに優しく言った女王――
その時、その場にいて唯一生き残ったカイネ。
カイネが物心ついた頃には、女王は実父を無言のまま愛おしげに見つめていた。
幼い頃には分からなかったが、もう分かっている――
「…………」
カイネはギルドへと向かった時と同じようにのんびりと歩いて宿へと戻り、国を出る準備を整え、敢えて火の国へ向かうことにした。
無謀とも思えるカイネの行動だが、カイネ本人には自信があった。
カイネは身が軽く、足が速い。そして自惚れているわけではないが、剣の腕がたつ――砂の国の民は戦端が少し反り返った片手剣を得意とする者が多く、カイネもその一人だった。
なによりカイネは魔法使い相手に優位に立てる特殊な能力を持っていた。特殊能力というよりは、特殊な体質といったほうが正しく、それは血筋を表す特殊なもので、できることなら使いたくはないが、無条件で発動するものなので、魔法使いに近づかないくらいしか、対処方法がないのも事実だった。
火の国は氷の国の次に魔法を得意とする民族が多い国。そんな国に近づけば危険そうだが、
(一晩で滅ぼしたは、言葉の綾だろうから、魔道師の大編成で攻め込んだんだろう)
魔道師の多くは進軍に従い、残りは王宮に詰めていると予想し、王都から少し離れた場所で火の国の実情を眺めたあとに、本格的に拠点を決めることにし、多くの人の流れとは反対方向に歩を取った。
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