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トリスタンの推測どおり、ノーラはジョスランが遺体を隠すための穴を掘っているのを見てしまって殺害されたとすると、
「死体を埋める予定の穴を見られたというのは、愚かしい理由だけれど、納得いくわ。でも、お前の報告が正しいとすると、寮や学舎から随分と離れたところにノーラは足を運んでいたことになるのだけれど。どうしてそんな場所へ足を運んだのかしら」
イーサンが埋められた穴は、学園の敷地内の一角だが、学舎や寮から随分と離れている、人が滅多に足を運ばない場所。
なぜ学園にそのような場所があるのかというと、テシュロン学園は遺跡を使用しており、学舎や寮に使用している建物を囲む塀の内側が、全て学園の敷地とされている。
敷地内には用途が分からない、廃墟じみた遺跡や、それを取り囲む林などもあり、イーサンが放り込まれた先客がいる浅い穴は、散歩コースからも外れるような箇所だった。
「イーサンを担いで運べたのだから、ノーラも運べただろうが……わざわざ学外で殺害して隠すために運び込むのもな」
イーサンは帝国からの使者だったので死体を「隠したい」というのは分かるが、庶民としか思われていないノーラの死体を、そこまで苦労して隠すか? という問題が付きまとう。
「万が一遺体が見つかったとき、ノーラだと分からないようにするためにに、服を脱がせたのかしら?」
「遺体が見つかった際、着衣からばれないようにするために……というのが目的なら、イーサンの服も脱がせるはずだ。イーサン、服は脱がされなかったんだよな」
ノーラと並べられ白骨になり果てる筈だったイーサン。
彼は着衣のまま土をかけられたので、死体を調達してから自分が着ていた服を着せたが「大変だった」と最初のほうで証言している。
そんな話の最中、トリスタンはカサンドラの髪を撫で、
「飽きないわねえ」
何度も軽くキスをする。
「好きな相手の髪は、いくら触っていても飽きないなあ」
「そうなの」
「つれないな、姫さまは」
「そう」
そんな会話をし――カサンドラは兄のバルナバスに、ジョスランがノーラを殺害したらしいと相談した。
「もう少し、しっかりとした証拠があったほうがいいな」
バルナバスはホルスト卿に「その推察」を伝えるならば、もう少し証拠を揃えたほうが良いと――ホルスト家とギヌメール家は建国と共に興った家柄で、もとよりライバル同士だった。時代がくだった現在でもそうなので――要するに不仲なので、一門の生き死にに関することを伝えるのならば、もっと明確な理由がなければ、政治にも影響が及ぶ。
「帝国側としては、そっちの方が好ましいかもしれないが」
兄からの助言を受け、カサンドラはもう少しノーラのことを探ることにした――犯人と思しきジョスラン・ギヌメールのほうを探ったほうが効率は良いのだが、カサンドラはその辺りの伝手がない。
なによりカサンドラはジョスランが側近として侍っているハルトヴィン王子の、一応政敵にあたるエーリヒ王子の婚約者なので、近寄らないほうが無難だった。
帝国の人間だが、ジョスランはイーサンを殺害したと思っているので――
「不用意に近づけば警戒して、死体を掘り起こす可能性が高い」
近づかないほうが良いのではなく、
「証拠を取れなかった最終手段として、目撃者を潜ませて掘り起こさせ、罪を突きつけよう」
いざという時の手段として残しておくことになった。
**********
既に学園にはいないノーラ・アルノワ。
カサンドラと全く接点のない彼女について、どう探ろうかと考えていたのだが、思いもよらない所から、ノーラの趣味と学園で何をしていたのかが判明した。
その情報をもたらしたのは、叔父の百貨店に勤めている人物だった。
エーリヒという隠れ蓑を用いて、ノーラの情報を庶民の女子生徒たちから集め終えたカサンドラは、褒美として数名ずつ夜の月窓へ招待することにした。
その段取りの為に休みの日、実家に百貨店のオーナーである叔父のクルトを呼び、直々に指示を出す――庶民だけならば、カサンドラが直接指示を出す必要はないが、何もしていなくとも、貴族仲間にも特別な空間を用意しなければ、厄介ごとが起こりかねないので。
「これで良いわ」
叔父が持ってきた計画表に目を通し、いくつか修正を加え――
「たしかに承りました」
あとは叔父に一任する。
「ところで、お前が伴ってきた、その女はなに?」
一仕事を終えたカサンドラは、部屋の隅に立っている黒髪を一本にまとめた、スーツ姿の女性について やっと尋ねた。
女性は叔父が伴ってきたので、ずっとそこにいた。
「この者は、百貨店の設備保守点検の責任者でございます」
カサンドラが声を掛けなければ、叔父は黙って連れて帰るという条件で、この女性を伴った。
「設備の保守点検……わたくしのところへ連れてきた、ということは、何か理由があるのでしょう。なに?」
「実はわたしの年の離れた友人のことについてなのですが――」
女性はノーラ・アルノワとは旧知だった。
「学内でなにか噂などはありませんでしょうか」
「ちらほら、聞いたことはあるわ。知りたいのならば、領民たちに探らせるけれど、ノーラとお前はどういう関係なの?」
ノーラがテシュロン学園に進学した理由は遺跡だった。
王都に住んでいたノーラは遺跡に触れる機会があり、裕福だったので百貨店の月窓に母親と共に足を運ぶことも多く、そこで遺跡に魅せられた。
ノーラは積極的な性格だったこともあり、メンテナンスを担当している女性の元に直接話を聞きに来て――女性はテシュロン学園に通えば、持って生まれた能力にもよるが遺跡関係の仕事に就けること、学園内の学舎や寮として使われていない遺跡を自由に見て回ることができることなどを教えた。
卒業生の話を聞いたノーラは、テシュロン学園への進学を希望し――
(一人で林の中の遺跡を見に行って、穴を掘っているジョスランと鉢合わせして……あり得ないことではないし、外れにいる理由としては自然ね)
「そう。少し聞いてあげるわ。だからお前は客たちを持てなすことに全力を尽くしなさい」
「ありがとうございます」
カサンドラはノーラが最後に足を運んだ場所を探すために、誰を使えばいいか考え――モニカ・フロージアとパートナーに選んだ。
「死体を埋める予定の穴を見られたというのは、愚かしい理由だけれど、納得いくわ。でも、お前の報告が正しいとすると、寮や学舎から随分と離れたところにノーラは足を運んでいたことになるのだけれど。どうしてそんな場所へ足を運んだのかしら」
イーサンが埋められた穴は、学園の敷地内の一角だが、学舎や寮から随分と離れている、人が滅多に足を運ばない場所。
なぜ学園にそのような場所があるのかというと、テシュロン学園は遺跡を使用しており、学舎や寮に使用している建物を囲む塀の内側が、全て学園の敷地とされている。
敷地内には用途が分からない、廃墟じみた遺跡や、それを取り囲む林などもあり、イーサンが放り込まれた先客がいる浅い穴は、散歩コースからも外れるような箇所だった。
「イーサンを担いで運べたのだから、ノーラも運べただろうが……わざわざ学外で殺害して隠すために運び込むのもな」
イーサンは帝国からの使者だったので死体を「隠したい」というのは分かるが、庶民としか思われていないノーラの死体を、そこまで苦労して隠すか? という問題が付きまとう。
「万が一遺体が見つかったとき、ノーラだと分からないようにするためにに、服を脱がせたのかしら?」
「遺体が見つかった際、着衣からばれないようにするために……というのが目的なら、イーサンの服も脱がせるはずだ。イーサン、服は脱がされなかったんだよな」
ノーラと並べられ白骨になり果てる筈だったイーサン。
彼は着衣のまま土をかけられたので、死体を調達してから自分が着ていた服を着せたが「大変だった」と最初のほうで証言している。
そんな話の最中、トリスタンはカサンドラの髪を撫で、
「飽きないわねえ」
何度も軽くキスをする。
「好きな相手の髪は、いくら触っていても飽きないなあ」
「そうなの」
「つれないな、姫さまは」
「そう」
そんな会話をし――カサンドラは兄のバルナバスに、ジョスランがノーラを殺害したらしいと相談した。
「もう少し、しっかりとした証拠があったほうがいいな」
バルナバスはホルスト卿に「その推察」を伝えるならば、もう少し証拠を揃えたほうが良いと――ホルスト家とギヌメール家は建国と共に興った家柄で、もとよりライバル同士だった。時代がくだった現在でもそうなので――要するに不仲なので、一門の生き死にに関することを伝えるのならば、もっと明確な理由がなければ、政治にも影響が及ぶ。
「帝国側としては、そっちの方が好ましいかもしれないが」
兄からの助言を受け、カサンドラはもう少しノーラのことを探ることにした――犯人と思しきジョスラン・ギヌメールのほうを探ったほうが効率は良いのだが、カサンドラはその辺りの伝手がない。
なによりカサンドラはジョスランが側近として侍っているハルトヴィン王子の、一応政敵にあたるエーリヒ王子の婚約者なので、近寄らないほうが無難だった。
帝国の人間だが、ジョスランはイーサンを殺害したと思っているので――
「不用意に近づけば警戒して、死体を掘り起こす可能性が高い」
近づかないほうが良いのではなく、
「証拠を取れなかった最終手段として、目撃者を潜ませて掘り起こさせ、罪を突きつけよう」
いざという時の手段として残しておくことになった。
**********
既に学園にはいないノーラ・アルノワ。
カサンドラと全く接点のない彼女について、どう探ろうかと考えていたのだが、思いもよらない所から、ノーラの趣味と学園で何をしていたのかが判明した。
その情報をもたらしたのは、叔父の百貨店に勤めている人物だった。
エーリヒという隠れ蓑を用いて、ノーラの情報を庶民の女子生徒たちから集め終えたカサンドラは、褒美として数名ずつ夜の月窓へ招待することにした。
その段取りの為に休みの日、実家に百貨店のオーナーである叔父のクルトを呼び、直々に指示を出す――庶民だけならば、カサンドラが直接指示を出す必要はないが、何もしていなくとも、貴族仲間にも特別な空間を用意しなければ、厄介ごとが起こりかねないので。
「これで良いわ」
叔父が持ってきた計画表に目を通し、いくつか修正を加え――
「たしかに承りました」
あとは叔父に一任する。
「ところで、お前が伴ってきた、その女はなに?」
一仕事を終えたカサンドラは、部屋の隅に立っている黒髪を一本にまとめた、スーツ姿の女性について やっと尋ねた。
女性は叔父が伴ってきたので、ずっとそこにいた。
「この者は、百貨店の設備保守点検の責任者でございます」
カサンドラが声を掛けなければ、叔父は黙って連れて帰るという条件で、この女性を伴った。
「設備の保守点検……わたくしのところへ連れてきた、ということは、何か理由があるのでしょう。なに?」
「実はわたしの年の離れた友人のことについてなのですが――」
女性はノーラ・アルノワとは旧知だった。
「学内でなにか噂などはありませんでしょうか」
「ちらほら、聞いたことはあるわ。知りたいのならば、領民たちに探らせるけれど、ノーラとお前はどういう関係なの?」
ノーラがテシュロン学園に進学した理由は遺跡だった。
王都に住んでいたノーラは遺跡に触れる機会があり、裕福だったので百貨店の月窓に母親と共に足を運ぶことも多く、そこで遺跡に魅せられた。
ノーラは積極的な性格だったこともあり、メンテナンスを担当している女性の元に直接話を聞きに来て――女性はテシュロン学園に通えば、持って生まれた能力にもよるが遺跡関係の仕事に就けること、学園内の学舎や寮として使われていない遺跡を自由に見て回ることができることなどを教えた。
卒業生の話を聞いたノーラは、テシュロン学園への進学を希望し――
(一人で林の中の遺跡を見に行って、穴を掘っているジョスランと鉢合わせして……あり得ないことではないし、外れにいる理由としては自然ね)
「そう。少し聞いてあげるわ。だからお前は客たちを持てなすことに全力を尽くしなさい」
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カサンドラはノーラが最後に足を運んだ場所を探すために、誰を使えばいいか考え――モニカ・フロージアとパートナーに選んだ。
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