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トリスタンとメリザンドは囲むようにして、デボラのハーフアップだがそうは見えないハーフアップを確認してからカサンドラへと視線を向けた。
「では話しを進めるわ。ホルスト公、ノーラが外出中に行方不明になっと考えられた理由は、外泊届けが提出され、門番の外出台帳にも記載があったから……で、間違いないのよね?」
二人が頷き、カサンドラに視線を向けてきたのを合図に話を再開した――週末に自宅に帰る際、生徒はまず外泊届けを提出する決まりだ。
外泊届けは職員室前のボックスに入れるようになっている。
「そうだ。外泊届けは自筆で間違いない」
「外泊届けは時間があるときに書き貯める人が多いらしいわ。だから、ノーラが書いたものであっても、ノーラが外出直前に書いたという証拠にはならないわね。門番の外出台帳はどう?」
記入前の外泊届けは寮監室の前に置かれており、複数枚持って帰り日付以外を記入するのが賢いやり方だと――カサンドラは寮の案内のさいに教えてもらい、話を聞いた庶民たちも同じようにしていることも聞いた。
「ノーラの字ではなかった」
外出台帳は当人以外が書くのが一般的――大体は門衛が記入する。
「ええ。そして証言した当番の門衛は、外出するノーラを見ていない」
「なぜ、そう言い切れる?」
「先ほどフンメル夫人が入室した際、反応を観察したけれど、皆、随分と驚いていたわ」
収まりが悪く癖が強くてボリュームがある髪をまとめていないデボラの、いきなりの入室はカサンドラにとって大事な実験だった――驚くかどうかを目で見て確認したかったのだ。
「それがどうかしたのかね?」
頭の傷を覆っていた包帯が取れたホルスト卿の問いに、ノーラのバレッタを一つ手に取って捧げるようにし続けた。
「髪を結っていないノーラを見かけた門番が”いつもと変わったところはなかった”と証言すると思う? なにより、ハーフアップにしていないと、学園からは出られないのよ」
ノーラの髪は目立つ。それは本人も随分と気にしていた。
「ノーラが居なくなったあの日は、雨が降ってた。フンメル夫人、湿度が高い雨の日に、髪をまとめずに出歩く?」
「絶対に嫌ね」
「ノーラもそうよね」
「ええ、ノーラは気にしていたわ」
女性たち――ノーラと同じ髪質のデボラが嫌い、ノーラの母親のコジマが気にしていたと言う。
「禿頭の二人には分からないでしょうから教えてあげるけど、雨が降ると癖毛は特に広がるの。だから雨の日に帰宅する場合は、間違いなくバレッタを付けている。でもノーラが寮に持ち込んだバレッタはこの七つだけ。ノーラは髪をまとめていない。となれば、そうとう目立ったはず……でも、ノーラを記憶しているのは門衛は”いつもと変わらなかった”。そんなのあり得ないわ」
室内に異様な緊張が走る――カサンドラたちは知らないが、後日、雨の日にホルスト親子はデボラのもとを訪れ、湿気の高い窓際に立ってもらい、その髪の膨らみ具合に納得した。
「親が知らないバレッタを購入したとかは?」
そんな緊張感を感じていないかのように、メリザンドが口を開く。カサンドラはいきなり話し掛けてきた似顔絵師に驚きはしなかった。
きっとトリスタンと同じタイプなのだろうと――
「言ったでしょう? 特注品だって。でもノーラは裕福だったから、その可能性がないとも言えないから、調べて……」
「その必要はない。ノーラ・アルノワがバレッタを注文した形跡はない」
カサンドラの言葉が終わるより先に、ホルスト公が否定する。
「そう。じゃあ、ますますおかしいわよね」
”ノーラ・アルノワはテシュロン学園の敷地から出ていないのでは?”と誰もが思ったが、言葉にはしなかった。
行方不明期間が一週間程度ならば、急いだかも知れないが、すでに一年が過ぎている。学内にいるとしたら――最悪の考えが頭を過ぎり、口に出してしまえば、それが現実になりそうで、声にすることができなかったのだ。
トリスタンとメリザンドは、彼らとは違う意味で言葉にしなかった――この場で彼らだけが、学園内に若い女性の死体が埋められていることを知っている。
「門衛が言う”変わったところはなかった”が虚偽とは考えなかった」
ホルスト公のジローが唸るように呟く。証言をした門衛とノーラやコジマに、なんの関係もなかったので、証言自体を疑わなかった。
「門衛に直接問うのは、少し待ちなさい。門衛が偽証したのは分かるけれど、偽証に至るまでは分からないのよ。下手に接触して、殺害されたりしたら困るから。全部が出揃ったら、好きにしていいわ」
「身辺を探るのは?」
ホルスト公は「ノーラが門衛に監禁されている」可能性を考慮し――
「直接聞かないなら、なんでもいいわ。そっちの調査で、なにか新しいものが見つかったら、すぐに教えて。その男がすぐにわたくしに届けるから」
カサンドラに指差されたトリスタンは、自分で自分を指差し、隣のメリザンドも楽しげにトリスタンを指差す。
「俺が?」
「そうよ。なにか文句でもあるの?」
「いえいえ、光栄にございます、姫さま」
「あとお前たち頑張ったから、褒美として月窓につれていってあげるわ。誰もいない深夜の百貨店で、貸し切りよ。それではなにか分かったら、知らせるので。そちらはそちらで、お願いするわ。フンメル夫人、ご協力感謝するわ。行くわよ、お前たち」
カサンドラはそう告げて、二人を伴いフンメル邸をあとにした。
「では話しを進めるわ。ホルスト公、ノーラが外出中に行方不明になっと考えられた理由は、外泊届けが提出され、門番の外出台帳にも記載があったから……で、間違いないのよね?」
二人が頷き、カサンドラに視線を向けてきたのを合図に話を再開した――週末に自宅に帰る際、生徒はまず外泊届けを提出する決まりだ。
外泊届けは職員室前のボックスに入れるようになっている。
「そうだ。外泊届けは自筆で間違いない」
「外泊届けは時間があるときに書き貯める人が多いらしいわ。だから、ノーラが書いたものであっても、ノーラが外出直前に書いたという証拠にはならないわね。門番の外出台帳はどう?」
記入前の外泊届けは寮監室の前に置かれており、複数枚持って帰り日付以外を記入するのが賢いやり方だと――カサンドラは寮の案内のさいに教えてもらい、話を聞いた庶民たちも同じようにしていることも聞いた。
「ノーラの字ではなかった」
外出台帳は当人以外が書くのが一般的――大体は門衛が記入する。
「ええ。そして証言した当番の門衛は、外出するノーラを見ていない」
「なぜ、そう言い切れる?」
「先ほどフンメル夫人が入室した際、反応を観察したけれど、皆、随分と驚いていたわ」
収まりが悪く癖が強くてボリュームがある髪をまとめていないデボラの、いきなりの入室はカサンドラにとって大事な実験だった――驚くかどうかを目で見て確認したかったのだ。
「それがどうかしたのかね?」
頭の傷を覆っていた包帯が取れたホルスト卿の問いに、ノーラのバレッタを一つ手に取って捧げるようにし続けた。
「髪を結っていないノーラを見かけた門番が”いつもと変わったところはなかった”と証言すると思う? なにより、ハーフアップにしていないと、学園からは出られないのよ」
ノーラの髪は目立つ。それは本人も随分と気にしていた。
「ノーラが居なくなったあの日は、雨が降ってた。フンメル夫人、湿度が高い雨の日に、髪をまとめずに出歩く?」
「絶対に嫌ね」
「ノーラもそうよね」
「ええ、ノーラは気にしていたわ」
女性たち――ノーラと同じ髪質のデボラが嫌い、ノーラの母親のコジマが気にしていたと言う。
「禿頭の二人には分からないでしょうから教えてあげるけど、雨が降ると癖毛は特に広がるの。だから雨の日に帰宅する場合は、間違いなくバレッタを付けている。でもノーラが寮に持ち込んだバレッタはこの七つだけ。ノーラは髪をまとめていない。となれば、そうとう目立ったはず……でも、ノーラを記憶しているのは門衛は”いつもと変わらなかった”。そんなのあり得ないわ」
室内に異様な緊張が走る――カサンドラたちは知らないが、後日、雨の日にホルスト親子はデボラのもとを訪れ、湿気の高い窓際に立ってもらい、その髪の膨らみ具合に納得した。
「親が知らないバレッタを購入したとかは?」
そんな緊張感を感じていないかのように、メリザンドが口を開く。カサンドラはいきなり話し掛けてきた似顔絵師に驚きはしなかった。
きっとトリスタンと同じタイプなのだろうと――
「言ったでしょう? 特注品だって。でもノーラは裕福だったから、その可能性がないとも言えないから、調べて……」
「その必要はない。ノーラ・アルノワがバレッタを注文した形跡はない」
カサンドラの言葉が終わるより先に、ホルスト公が否定する。
「そう。じゃあ、ますますおかしいわよね」
”ノーラ・アルノワはテシュロン学園の敷地から出ていないのでは?”と誰もが思ったが、言葉にはしなかった。
行方不明期間が一週間程度ならば、急いだかも知れないが、すでに一年が過ぎている。学内にいるとしたら――最悪の考えが頭を過ぎり、口に出してしまえば、それが現実になりそうで、声にすることができなかったのだ。
トリスタンとメリザンドは、彼らとは違う意味で言葉にしなかった――この場で彼らだけが、学園内に若い女性の死体が埋められていることを知っている。
「門衛が言う”変わったところはなかった”が虚偽とは考えなかった」
ホルスト公のジローが唸るように呟く。証言をした門衛とノーラやコジマに、なんの関係もなかったので、証言自体を疑わなかった。
「門衛に直接問うのは、少し待ちなさい。門衛が偽証したのは分かるけれど、偽証に至るまでは分からないのよ。下手に接触して、殺害されたりしたら困るから。全部が出揃ったら、好きにしていいわ」
「身辺を探るのは?」
ホルスト公は「ノーラが門衛に監禁されている」可能性を考慮し――
「直接聞かないなら、なんでもいいわ。そっちの調査で、なにか新しいものが見つかったら、すぐに教えて。その男がすぐにわたくしに届けるから」
カサンドラに指差されたトリスタンは、自分で自分を指差し、隣のメリザンドも楽しげにトリスタンを指差す。
「俺が?」
「そうよ。なにか文句でもあるの?」
「いえいえ、光栄にございます、姫さま」
「あとお前たち頑張ったから、褒美として月窓につれていってあげるわ。誰もいない深夜の百貨店で、貸し切りよ。それではなにか分かったら、知らせるので。そちらはそちらで、お願いするわ。フンメル夫人、ご協力感謝するわ。行くわよ、お前たち」
カサンドラはそう告げて、二人を伴いフンメル邸をあとにした。
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