上 下
17 / 88
最低世界の最強魔道士

和解

しおりを挟む
「う・・・ん・・・」

目が覚めると知らない天井が見えた。

(何処だ?ここは?)

気怠い身体を起こす。

どうやら病院のようだ。

たぶんファイゼンに運ばれたから魔法世界のだろう。

(ホントに存在するんだな、魔法世界って)

見た目は普通の病院で実感は全くない。



「気が付いたか?」

突然声をかけられたので驚き声の主を確認した。

そこには腕を組んで壁に寄り掛かっていたあの赤髪のチビ女がいた。

「あんたは・・・」

「リャン・リシャ、あいつらからはリーシャって呼ばれてる」

そういえばリーシャと呼んでいた気がする。

「で、何の用?殺しに来たの?」

「ちげぇよ。・・・その・・・」

あの時はもっと強気な感じがしたが、今はかなりオドオドしている。



「すまなかった!勘違いだったとはいえ、うちは・・・」

頬に何か光るものがあるように見えた。

「話は聞いてる。俺もあんたを殺そうとしたんだ。責める気はないよ」

「でも・・・」

それじゃ許されないって顔をしていた。

「俺どれくらい寝てた?」

「三日くらいだ」

「その間看病してくれたのか?」

「そ・・・それは・・・」

またごもごもする。

こう都合よく目を覚ましたタイミングに居るには、看病し長時間ここに居なければ出来ない。

それに目が覚めたときに何もせずに壁に寄り掛かって待っていたのもその理由だ。

「あんたも怪我してるんだろ?」

腕を指し、リーシャが巻いている包帯を示す。

「うちの身体は特別頑丈なんだ。こんなのどうでもいい」

「どうでもよくねぇよ。自分も怪我してるのに看病してくれた。それで十分だ」

「十分じゃねぇ!」

リーシャは必死に訴えていた。自分に責任がある。そう言ってるように見える。

「じゃあどうすれば納得する?」

十分だ違うの水掛け論になりそうだったので打開策を直接聞く。



「う・・・うちを好きにしてくれ!」



「・・・・・・」

誰かが聞いたら誤解されそうなセリフである。



「お前の気が済むまで相手する!」



「・・・・・・」






「だからうちを好きに殴ってくれ!」



そう言ったリーシャにすかさずデコピンをする。

不意打ちの思わぬ、しかもかなり痛い攻撃にリーシャは涙目になりながら額を抑える。

「これでいいだろ?」

「え?」

「俺はあんたを好きに殴った」

「え?でも・・・」

「お前が言ったことだ。これで文句ないだろ?」

リーシャはまだ納得してないような顔をしていたが、何も言わず頷いた。

これでいい。本当にこれでいいんだ。



問題はここからである。

さっき聞いた寝てた時間は三日。

急いで帰らなければシスターたちに心配されるし、あいつらも心配だ。

「おい、どうすれば地球に帰れる?」

「お、おい、まだ寝てろ」

トウヤは普通に話しているが頭と腕には包帯が巻かれている。

普通ならまだ安静にしていた方がいいだろう。

「お前の症状は・・・」

「そんなもん地球で治す。一刻も早く戻らないといけないんだ」

「何かあるのか?」

リーシャは真剣な表情で問いかける。

「俺みたいな子供が三日も行方不明なんてのは地球、特に俺のいる日本では大変なことなんだ。
大規模な捜索隊が組まれたり、いろいろな人達に心配させることになる」

「そうなのか?なら急ぐべきだな。
ポーラもまだ寝てっからそういう根回しは誰もやってねぇだろうし」

不意に出たもう一人の怪我人を思い出した。

「ポーラも寝てるのか?」

「ああ、お前と同じ症状だよ。それと腕が折れてたみたいだ」

ああ、あの怪我か。ポーラには申し訳ないことをしたと思った。



怪我人ではあるが身体に痛みは無いので、せっせと着替える。

「地球へ行くなら局内の転送装置を使うしかない」

カーテンの向こうでリーシャが説明する。

「局の人間なら申請出してすぐ出発できるが、お前はまだ局の人間じゃない。
だから局の人間の同伴が必要になるんだが・・・」

地球に同伴できる局の人間はまだポーラ、ファイゼン、リーシャしかいない。

ポーラは寝てる。ファイゼンはおそらくポーラの看病だろう。

もしくはトウヤがスムーズに局に入れるよう仕事しているか?しかし呼びに行く時間も惜しい。

となると・・・

「うちの名前で申請した。仕方ねぇが付いて行くよ」

「嫌いなのに悪いな」

「ま、一応仲間だからな」

地球嫌いとは思えないような笑顔で返された。

こいつも肩書きで見ないように頑張ってるんだな。

あんな殺し合いもしたが、何とかなりそう。そんな気がした。



急に部屋の扉が乱暴に開かれた。

扉を開けた主はポーラだった。

「ポーラ、起きたか」

ポーラは安心するリーシャをさて置き、トウヤに詰め寄る。

「トウヤ!帰るよ!急いで!」

「どうしたんだよ、そんなに慌てて」

まだ荷物とかも地球にあるので、言われなくても今から帰るつもりである。

「いい?よく聞いて」

ポーラはトウヤの肩をしっかり掴み言い聞かせる。

「地球はね、魔法世界の半分の早さで時間が進むの」

「え?」

わけが解らない。

「ここでは三日しか経ってないけど、地球はもう六日経ってるのよ」

その瞬間、急がなければならない理由が理解できた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

Crimson Emblem Dragons

來夢
ファンタジー
10年前。この世に生を受けたばかりの1人の赤子に顕現した、 忌まわしき力を示す暗く紅き刻印。 その力を手に入れようと赤子に迫る者達と、 赤子を…ひいては世界を守る為に奮闘する若き守護者達。 その戦いの軌跡の物語。 同時執筆:エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

神になることは農業から始まる

bluedragon9
ファンタジー
魔獣が地を踏み鳴らし、龍の咆哮が空を揺るがす世界では、信仰の力がすべてを支配する。 その時、オーディン男爵が現れた。 偶然、信仰の力を集めた偽の神器を手に入れた彼は、その力で小さな領地の領主として種を蒔く旅を始める。 日常生活の中に隠された魔法と武道の世界で、オーディンは自分の血統の力を発見し、新しい役割に適応しながら、周囲に隠された力の秘密を解き明かします。 自然豊かなこの地で、彼は神に等しい力を発現させ、運命を担う。

時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

ヴァルヴァ=ロサ
ファンタジー
ある日突然、トラックに跳ねられて死亡した主人公。 その名は理不尽の如く、戦場を駆け抜ける事となる、まさに下克上の頂点へ運命的に立たされなくてはいけなくなった男、相良裕太。 天使さんの気まぐれに送られた先は乱世の時代、戦国時代!武将は女の子ばっかり!? 数々の試練に立ち向かう新米武将!おまけに歴史のことなんざ興味無かったせいで殆ど上の空!?でも能力は最強!?天下無敵!?何処までいくのかこの男!! 見事に跳ねていく男に、人々は何を思うか・・・。 天下統一を糧にした女の子達とのハーレム、そして若き学生の成長を描いたファンタジー小説!!

婚約していたのに、第二王子は妹と浮気しました~捨てられた私は、王太子殿下に拾われます~

マルローネ
ファンタジー
「ごめんなさいね、姉さん。王子殿下は私の物だから」 「そういうことだ、ルアナ。スッキリと婚約破棄といこうじゃないか」 公爵令嬢のルアナ・インクルーダは婚約者の第二王子に婚約破棄をされた。 しかも、信用していた妹との浮気という最悪な形で。 ルアナは国を出ようかと考えるほどに傷ついてしまう。どこか遠い地で静かに暮らそうかと……。 その状態を救ったのは王太子殿下だった。第二王子の不始末について彼は誠心誠意謝罪した。 最初こそ戸惑うルアナだが、王太子殿下の誠意は次第に彼女の心を溶かしていくことになる。 まんまと姉から第二王子を奪った妹だったが、王太子殿下がルアナを選んだことによりアドバンテージはなくなり、さらに第二王子との関係も悪化していき……。

処理中です...