異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい

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初めての来訪者

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「……どれも美味しそうです」

 トマトジュースの時と同じようにファルマーは目を輝かせて待ってくれている……。奏は手早く用意を済ませてテーブルについた。
 それから二人は一緒に食事をとり、色々なことを話すようになった。
 奏は異世界人ということを匂わせてしまうわけにはいけないので、当たり障りのない会話をするしか無かったのだが、それでも久しぶりの会話ということもあり、いつもよりもテンションが上がっていた。
 前の世界では一人の時間も多かったけれど、それでも友人と会話することはあったのだ。あれからしばらく一人で生活していたせいもあって、対話というものがいかに重要なのかを再認識した。
 奏自身はわかっていなかったのだが、思ったよりもストレスが溜まっていたのかもしれない。
 気づいたらだいぶ時間が過ぎていて、テーブルの上に用意していた料理はすっかりなくなっていた。

「ごちそうさまでした……。とても美味しかったのです……」

 ファルマーが食後ゆっくりしている間に、奏は叡智の書を開いてファルマーが最後に見ていた花を思い出す。白い花が特徴の、小さな花について調べる。
 食器を全部流しに移した奏は、花を育てている部屋からその花を枝から少し失敬して、ファルマーの方へと戻った。

「? なんですか?」

「これ、良かったらもらってくれない?」

 奏が差し出したのはサネカズラという夏頃に咲く小さな花。本来であれば木々に生える花なのだが、万能鉢だと他の花と同じように咲いている。クリームのような色をした白い花が特徴で、花自体は小さいもののとても可愛らしい花だ。開いた花の中央には紅色の雄しべが顔を覗かせている。雌しべの方は緑色をしているので区別がつきやすい。

「サネカズラっていう名前の花なんだけど、この花ってファルマーちゃんにちょっと似てる気がして、ほら、白い花の中に真っ赤な部分があるでしょ?ちょうどファルマーちゃんの髪と瞳に似てるの」

「……ほんとです」

「花言葉っていうのがあって、それぞれお花ごとに意味があるんだよ。でね? サネカズラの花言葉は『再会』とか『また会いましょう』っていう意味があるんだ」

「……いい言葉を持った花なんですね」

 ファルマーは手に持ったサネカズラを手に持って見つめていた。

「ファルマーちゃんさえ良かったらまたこの家に来てくれない? ……私はここから出ようと思わないけど、今日お話しできてすっごく楽しかったの!」

「……私が、また来てもいいんですか?」

「もちろん! トマトジュースもいっぱい作って待ってるから」

「……嬉しいのです。ありがとうです」

 サネカズラを持ったファルマーは、目尻に涙を浮かべていたのだが、奏からはよく見えなかった。
 その後、勇者の調査に再度出かけるファルマーにお土産でトマトジュースを何本か持たせた。先程の剣が入っていた収納袋の中にしまったので、家に来た時と変わらない格好だ。唯一違うのは、奏があげたサネカズラだけは手に持っていたままだった。
 一人だと家から出るのにもビクビクしていた奏だったのだが、ファルマーと一緒に家から離れる時には獣の声にあまり気にならなかった。
 家を出て、姿が見えなくなるまでお見送りをする奏だったのだが、柵を越えるとファルマーの姿は霞がかったようになり、すぐに見えなくなってしまった。

「……幻惑の森って本当だったんだ」

 奏は初めての来客を無事に終わらせて、満足そうに家へと帰ろうとしていた。
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