29 / 147
初めての来訪者
12
しおりを挟む
「……どれも美味しそうです」
トマトジュースの時と同じようにファルマーは目を輝かせて待ってくれている……。奏は手早く用意を済ませてテーブルについた。
それから二人は一緒に食事をとり、色々なことを話すようになった。
奏は異世界人ということを匂わせてしまうわけにはいけないので、当たり障りのない会話をするしか無かったのだが、それでも久しぶりの会話ということもあり、いつもよりもテンションが上がっていた。
前の世界では一人の時間も多かったけれど、それでも友人と会話することはあったのだ。あれからしばらく一人で生活していたせいもあって、対話というものがいかに重要なのかを再認識した。
奏自身はわかっていなかったのだが、思ったよりもストレスが溜まっていたのかもしれない。
気づいたらだいぶ時間が過ぎていて、テーブルの上に用意していた料理はすっかりなくなっていた。
「ごちそうさまでした……。とても美味しかったのです……」
ファルマーが食後ゆっくりしている間に、奏は叡智の書を開いてファルマーが最後に見ていた花を思い出す。白い花が特徴の、小さな花について調べる。
食器を全部流しに移した奏は、花を育てている部屋からその花を枝から少し失敬して、ファルマーの方へと戻った。
「? なんですか?」
「これ、良かったらもらってくれない?」
奏が差し出したのはサネカズラという夏頃に咲く小さな花。本来であれば木々に生える花なのだが、万能鉢だと他の花と同じように咲いている。クリームのような色をした白い花が特徴で、花自体は小さいもののとても可愛らしい花だ。開いた花の中央には紅色の雄しべが顔を覗かせている。雌しべの方は緑色をしているので区別がつきやすい。
「サネカズラっていう名前の花なんだけど、この花ってファルマーちゃんにちょっと似てる気がして、ほら、白い花の中に真っ赤な部分があるでしょ?ちょうどファルマーちゃんの髪と瞳に似てるの」
「……ほんとです」
「花言葉っていうのがあって、それぞれお花ごとに意味があるんだよ。でね? サネカズラの花言葉は『再会』とか『また会いましょう』っていう意味があるんだ」
「……いい言葉を持った花なんですね」
ファルマーは手に持ったサネカズラを手に持って見つめていた。
「ファルマーちゃんさえ良かったらまたこの家に来てくれない? ……私はここから出ようと思わないけど、今日お話しできてすっごく楽しかったの!」
「……私が、また来てもいいんですか?」
「もちろん! トマトジュースもいっぱい作って待ってるから」
「……嬉しいのです。ありがとうです」
サネカズラを持ったファルマーは、目尻に涙を浮かべていたのだが、奏からはよく見えなかった。
その後、勇者の調査に再度出かけるファルマーにお土産でトマトジュースを何本か持たせた。先程の剣が入っていた収納袋の中にしまったので、家に来た時と変わらない格好だ。唯一違うのは、奏があげたサネカズラだけは手に持っていたままだった。
一人だと家から出るのにもビクビクしていた奏だったのだが、ファルマーと一緒に家から離れる時には獣の声にあまり気にならなかった。
家を出て、姿が見えなくなるまでお見送りをする奏だったのだが、柵を越えるとファルマーの姿は霞がかったようになり、すぐに見えなくなってしまった。
「……幻惑の森って本当だったんだ」
奏は初めての来客を無事に終わらせて、満足そうに家へと帰ろうとしていた。
トマトジュースの時と同じようにファルマーは目を輝かせて待ってくれている……。奏は手早く用意を済ませてテーブルについた。
それから二人は一緒に食事をとり、色々なことを話すようになった。
奏は異世界人ということを匂わせてしまうわけにはいけないので、当たり障りのない会話をするしか無かったのだが、それでも久しぶりの会話ということもあり、いつもよりもテンションが上がっていた。
前の世界では一人の時間も多かったけれど、それでも友人と会話することはあったのだ。あれからしばらく一人で生活していたせいもあって、対話というものがいかに重要なのかを再認識した。
奏自身はわかっていなかったのだが、思ったよりもストレスが溜まっていたのかもしれない。
気づいたらだいぶ時間が過ぎていて、テーブルの上に用意していた料理はすっかりなくなっていた。
「ごちそうさまでした……。とても美味しかったのです……」
ファルマーが食後ゆっくりしている間に、奏は叡智の書を開いてファルマーが最後に見ていた花を思い出す。白い花が特徴の、小さな花について調べる。
食器を全部流しに移した奏は、花を育てている部屋からその花を枝から少し失敬して、ファルマーの方へと戻った。
「? なんですか?」
「これ、良かったらもらってくれない?」
奏が差し出したのはサネカズラという夏頃に咲く小さな花。本来であれば木々に生える花なのだが、万能鉢だと他の花と同じように咲いている。クリームのような色をした白い花が特徴で、花自体は小さいもののとても可愛らしい花だ。開いた花の中央には紅色の雄しべが顔を覗かせている。雌しべの方は緑色をしているので区別がつきやすい。
「サネカズラっていう名前の花なんだけど、この花ってファルマーちゃんにちょっと似てる気がして、ほら、白い花の中に真っ赤な部分があるでしょ?ちょうどファルマーちゃんの髪と瞳に似てるの」
「……ほんとです」
「花言葉っていうのがあって、それぞれお花ごとに意味があるんだよ。でね? サネカズラの花言葉は『再会』とか『また会いましょう』っていう意味があるんだ」
「……いい言葉を持った花なんですね」
ファルマーは手に持ったサネカズラを手に持って見つめていた。
「ファルマーちゃんさえ良かったらまたこの家に来てくれない? ……私はここから出ようと思わないけど、今日お話しできてすっごく楽しかったの!」
「……私が、また来てもいいんですか?」
「もちろん! トマトジュースもいっぱい作って待ってるから」
「……嬉しいのです。ありがとうです」
サネカズラを持ったファルマーは、目尻に涙を浮かべていたのだが、奏からはよく見えなかった。
その後、勇者の調査に再度出かけるファルマーにお土産でトマトジュースを何本か持たせた。先程の剣が入っていた収納袋の中にしまったので、家に来た時と変わらない格好だ。唯一違うのは、奏があげたサネカズラだけは手に持っていたままだった。
一人だと家から出るのにもビクビクしていた奏だったのだが、ファルマーと一緒に家から離れる時には獣の声にあまり気にならなかった。
家を出て、姿が見えなくなるまでお見送りをする奏だったのだが、柵を越えるとファルマーの姿は霞がかったようになり、すぐに見えなくなってしまった。
「……幻惑の森って本当だったんだ」
奏は初めての来客を無事に終わらせて、満足そうに家へと帰ろうとしていた。
31
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる