異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい

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初めての来訪者

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(万能鉢のおかげだろうけど……ちょっと不思議な光景ね)

 それからも色の違う花を育てては一室に並べて観賞していた。
 夏に咲くひまわりの隣には、冬に咲くスイセンが並んでいるのだ。奏は少しでも時間があったらこの部屋の中で花の並べ替えをしたりして過ごしていた。
 生花はなぜだかわからないけれど、食べ物系の実と違い、長い間花の状態を保つものが多い。野菜の花のあといずれ実をつけるものもあり、それも補完している。
 保冷庫にはまだまだ余裕はあるけれど、いずれ足りなくなるかもしれない。
 今のところ生活はできている。生きていくのはこの家であれば容易ではある。しかし、やりがいみたいなものが無いと奏は考えていた。
 もちろんこの家を出るという選択肢もないわけでは無いのだが、奏が装備できる武器は無いと言っても過言ではない。唯一、調理に使う包丁くらいなものだった。 
 奏は花を眺めながら叡智の書を読み込む。この家には本というものがこれしかないのだからしょうがない。使う予定のない武具や防具のページから、育成しているもののページまで可能な限り読み込んでいた。たまに追加項目が足されるのを見つけるのを面白いと思っているのだ。
 そんなページの中に、一つの文字が気になっていた。

【魔法薬】

 プチトマトの花の時も、魔石草の時も、叡智の書の項目には魔法薬の材料と書かれている。奏はその時は後回しにしてしまっていたが、食料問題も一応解決したので魔法薬作りに挑戦してみることにした。
 
(だって暇だったし……。それに異世界で魔法薬作るのって結構メジャーな感じがする。でも魔法薬って私でも作れるのかな……?)

 叡智の書には触ったものしか記載されない。つまり知らないことを知るためにはそれを入手する必要があるのだ。
 理科室にある実験道具のような物はアイテムの部屋の隅の方に積まれていた。ビーカーだったり、スポイトだったり色々である。それらはすでに収納袋の中に保管されているので、叡智の書に何があるのか一通り確認してみる。
 魔法薬造りに必要なものかはわからないけれど、あって困ることはないだろう。

「原料となりそうなのは花びらみたいなんだけど……、他に必要なものって何があるんだろ?」

 叡智の書は触った物にしか作用しないため、触ったことのないものを調べるのにはむいていない。他の花にもプチトマトと同じように魔法薬の材料になりそうな項目が記載されていて、どんなものが作れるのか調べる必要がありそうだった。
 そんな時……。

 コン、コン。

「……えっ?」

 奏が魔法薬について考えていると、不意に扉がノックされるような音が響いた。
 今まで誰も訪ねてくることがなかった。むしろ誰も来ないと思っていた入り口から、再度ノックの音が聞こえてくる。
 奏の頭の中ではいろんな可能性が一瞬で駆け巡った。最初に召喚された九人の勇者の内の誰かかもしれないし、森の方で唸っている獣かもしれないし、本来呼ばれるはずだった癸生川さんかもしれない。
 奏はどう反応するべきかわからないまま返事ができないでいると、扉の外から声をかけられる。

「……誰もいないのですか? 勝手にお邪魔するですよ」

 奏が返事をする前に、無情にも扉は来訪者によって開かれてしまった。
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