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処女だとバレました※

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 私が見える住人が来てから一か月後。
 この住人は、はっきり言って、ダメな男だった。仕事に行っている様子はなく、基本この部屋にいて、テレビを見ながらゴロゴロ、ゴロゴロ。たまに出かけたと思ったらご飯とかお酒を買ってきて、また家でゴロゴロ、ダラダラ。時折丸一日いない時とかは、おそらく日雇いの仕事にでも行っているのだろう。タバコを吸わないのだけは以外である。
 見た目を整える様子はなく、一応毎日シャワーを浴びているようだけど烏の行水で、髪は自然乾燥。髭は伸びっぱなしのボウボウではないけど、一週間に一回しか剃らないらしくて無精ひげ状態が多い。素っ裸でシャワーから出てくることもそう少なくなくて、私は「ひいっ!」と悲鳴をあげた。出たのは『ゔゔあ!』って呻き声だったけど。生きてる時だって男の人の裸なんて見たことなかったのに、なぜ今見なきゃいけないのか。私が悲鳴を上げたのを見て、男は「はっ」と鼻で笑った。むかつく。

 つん、つん。
 やっぱり、触れる。不思議だなぁ。
 テレビを見て缶ビールを飲みながらながらダラダラしている彼の腕を指で突き、首を傾げた。ついでに言うとこんなダメ男なのにムキムキなのも不思議だ。あとこの一か月間一緒にいて気づいたけど、この人、ちゃんとすればイケメンだと思う。今はただのダメ男で残念なイケメンとさえ言えないけれど。

「……おい」
『ゔ?』

 テレビを見ていた目が、いつの間にか私に向いていた。
 男の目が、いつもと違う。何考えているかわからないような、世の中の人間全員バカだと思っているような、それでいて無気力な、そんな目じゃない。
 なんと言うか、そう、ギラギラしている。その目は私を捉えていて、なぜか私も目をそらすことができない。蛇に睨まれた蛙とはこういうことを言うのかもしれない。人間に睨まれた幽霊だけど。
 固まったまま動けずにいると、男は私の腕を掴んで、私を床に倒した。そのまま馬乗りになり、上からじっと、私を見下ろす。
 こ、これ、まさか。いや、そんなまさか。さすがに、そんなことないよね?

「……幽霊とはヤったことないが、イケんだろ」
『ゔああああ⁉」

 そんなこと、あった!
 生前処女だったのに、死んでから処女喪失するとか、そんなことある⁉
 思わず逃げようとしたけれど、この男だけは私は通り抜けられないので、腕と足を使って組み敷かれてしまえば、私は動けない。

『ゔ!ゔ!』
「ちょっと黙ってろ」
『ん゛ん゛ん゛⁉』

 顔に垂れている長い髪を除けられて、かさついた生ぬるいものが、唇に触れた。
 キスされたのだ。
 びっくりして口を半開きにすると、生ぬるい物が入ってきて、目を見開く。舌だ。 舌が、私の口内を蹂躙していく。歯列をなぞられ、上顎を舐められると、ぞくりと背中が震えた。
 幽霊だと言うのに息が苦しくて、顔を背けようとすると、後頭部を押さえられた。角度を変えて何度も何度も貪られて、酸素が足りなくなった脳みそがくらりとする。いや、私に酸素は必要ないはずなので、違う理由で……つまり、この人のキスのせいで、脳が揺れてるのだ。
 ようやく口が離れてほっとしながら荒くなった呼吸を整えていると、また顔が近づいてくるので、私は慌てて男の顔を押し返した。

「ああ?なんだ?」

 私の行動が気に食わなかったらしい男が不機嫌そうに眉を寄せた。

『ゔ!ゔあ!ゔああああ!』
「あー、何言ってるかわかんねぇな」
『ゔ⁉」

 いや、これ、わかってる!意思疎通してるって!
 暴れようとする私の両手を頭の上でまとめて片手で拘束した男は、空いている大きく厚い手で白装束越しに胸に触れた。白装束は生地が薄いし、下着は着ていないので、思わずびくりと身体が跳ねてしまう。

「同居してるようなもんなのに家賃払ってねぇんだから、その分は身体で返せよ」
『ん゛!ゔぁ!』
「……ずっと思ってたけど、お前、エッロい身体してるよな」

 指先が、形を探るように私の胸を撫でる。その手つきがいやらしくて、ぞわっと鳥肌が立った。幽霊でも鳥肌は立つのだ。
 やばい、これ、本当にされちゃう。
 でも、私は、それでもいいや、とどこかで思っていた。
 何せ私は、生前処女である。はっきり言って、一回セックスしてみてから死にたかった。
 それに、この人は、ダメ男だけど悪い人じゃない。口は悪いし今レイプしようとしてるものだが相手は幽霊だし犯罪ではない。幽霊相手に欲情するとか絶対変態だけど、この人なら、別に良いかな。
 
『ん゛っ』

 薄い布越しに先端に太い指が触れて、ぴくんと肩を揺らすと、彼は意地の悪い笑みを浮かべた。
 指先で転がすようにして触られると変な声が出そうになる。どうせ呻き声みたいなやつだから気にしなくてもいいんだろうけど、恥ずかしさは消せない。

「幽霊でも、乳首勃つんだな」

 意地悪く笑う彼は、楽しそうだ。ううん、楽しそうだし、もういいか。
 抵抗する気がなくなった私が力を抜くと、それがわかったのか、男はさらに調子に乗ってきた。前合わせの白装束をはだけさせられ、私の血の気の失せた(というか血の通っていない)白い胸が外に出てしまう。うう、やっぱり恥ずかしい。

「はは、肌は真っ白なのに、乳首はピンクかよ。エッロ」
『ゔ!』

 ……エロオヤジみたいだ。やっぱり、やめた方がよかったかも。
 大きな手が私の胸に直接触れて、その熱さに火傷してしまいそうだ。それほど体温が熱いわけはないので、私の体温が低いせいなのだろう。低いって言うか、たぶん、ない。
 
「でかいな」

 もう何も言いたくなくて、下唇を噛み占める。
 確かに私の胸は大き目だと思うけど、わざわざ言わなくていいのに。ほんとエロオヤジだこの男。ぐにゅりと形を変えるように揉まれて、私は声を必死で我慢した。
 そんな私の様子などお構いなしに、男の行為はどんどんエスカレートしていく。胸全体を揉んでいた手を離したと思ったら、今度は先端をつまんで引っ張った。痛くはないけれど、敏感になっているそこに与えられた刺激に思わず息が漏れる。ふぅふぅと荒くなる息が聞こえてしまいそうで、口を両手で押さえた。
 そのままくりくりといじられて、摘ままれて、弾かれて。だんだん息が上がり始めてしまった。

「可愛い反応するじゃねぇか」

 やっぱり意地悪く言う男をキッと睨むけど、彼は全く気にしていない様子だった。
 それどころか、私の足の間に膝を割り込ませてきた。ぐりっと太ももの辺りに押し付けられた硬いものは、おそらく彼の……アレなんだろう。
 いや、わかる。私が許したその行為は、それが目的なんだって。
 でも、私は、ここまできて怯えてしまった。

「……あ?お前、まさか、処女か?」

 ……なんでわかるんだ。私、幽霊なのに。
 恐る恐る頷くと、彼は大きくため息をついて、私から手を離した。そして、なぜか私の服を整え始める。
 え、ちょっと待って。なんでやめるの。
 戸惑っていると、服を着終わった男がこちらを見下ろしてくる。その顔には呆れの色がありありと見れた。

「それならもっと嫌がれよ。幽霊だろうが無理矢理犯す趣味はねぇぞ俺は」

 ……やっぱり、この人、悪い人じゃないみたい。
 ぼうっとしている内に彼は起き上がって、浴室へ行ってしまった。
 
 私はほっとはしていたが、それと同時に、残念にも思っていた。
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