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同居人ができました

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 その機会は、割と早くにやってきた。幽霊なので時間の感覚おかしいから早かったかどうかは知らない。
 この部屋に、新しい住人がやってきたのだ。おそらく大学生くらいの男性だった。
 私は私の望みを叶えるために、動いた。ちょっとテンションは高かった。

『ゔぁぁあああ!』
「……ん?風の音かな?」

 ……あれ。おかしいな。

『ゔああぁぁぁぁあああ‼︎』
「……本当に風か、これ?」

 もしやこの人、私が見えてない?
 うーん、鏡にも映ってなかったから、おかしくないのかも。っていうか鏡に映らないのって、吸血鬼じゃなかったっけ。幽霊はどちらかと言えば、そこにいないのに鏡に映る側では。
 よし、もう一回。

『ゔぁぁぁああああぁぁぁああ‼︎』
「ひぃっ‼︎」

 新しい住人は、完全に怯えた声を上げた。私のことは見えていないようだけど、声は多少なりとも聞こえているみたいだ。
 
「わ、訳あり物件って、こういうことかよーーっっ!」

 あ、逃げちゃった。足はやっ。
 この人はそのまま二度とこの部屋に来ることはなかったし、お坊さんがやってくることもなかった。
 ……そりゃそうか。住もうとしていた場所に幽霊いたら、お坊さん呼んで祓ってもらおう!なんて、普通考えないよね。

 でもそれしか思い浮かぶ方法がないので、新しい住人が来るたびに、私は頑張った。段々高校の文化祭の時にやったお化け屋敷の時の気持ちを思い出して楽しくなってきたのは秘密だ。
 しかし、それを続けても続けても、最初の人みたいにすぐ逃げ出したり、長くても数週間でいなくなってしまう人ばっかりで、お坊さんがやってくることもなかった。
 その内訪れる住人(予定)の数も減っていってしまった。この部屋がガチの訳あり物件として有名になってしまったのかもしれない。


 半ば諦めかけていた時、その人は現れた。
 おそらく三十代っぽい男の人で、見た目はすごくくたびれている。よっぽどお金がなくて、激安訳あり物件となったこの部屋くらいしか住めるところがなくなったのだと見た。
 ……うーん、どうしよう。いつもみたいに怯えさせて追い出してしまうのは、なんだか申し訳ない。ここにも住めなくなったらホームレスにでもなってしまいそうだ。
 ちなみに、この部屋には結構家具が揃っている。業者がこの部屋に家具を置いてからこの部屋に来て、私の声を聞いて逃げてった人がいたからだ。そのまま家具は回収されず、ここに置かれたまま。家具も呪われたから、とか思っているのかもしれない。私はどうやって人や家具を呪えばいいのか知らないのに。しようとも思わないけど。

 どうしようかなぁ、と住人(予定)をじっと見ていると、落ち込んだ目と、視線が合った気がした。
 ……いや、まさか。今までここに来た人たちは、私の声は聞こえど、私を見ることはできなかった。
 あ、もしかしたら、霊感とか、そういうのがある人なのかもしれない。そう思って、住人(予定)を、じっと見続けていると。

「ああ、訳あり物件って、そういう」

 その人は、ぼさぼさの頭を搔きながら、面倒くさそうに低い声でそうつぶやいた。

『ゔあああ!』

 見えてる!と、私はつい叫んでしまった。
 それでも目の前の人は私を見つめながらため息をつくだけで、怯える様子は微塵もない。
 これは、いける!と私は幽霊になってから初めて、テンションが上がった。

『ゔぁぁぁあああああ、ゔあぁあ!」

 私を祓ってくれるお坊さん、呼んで!と叫ぶ。見えるんだから、きっと言葉も通じるだろう、と。
 しかし、住人(予定)は、「チッ」と舌打ちした。

「うるせぇな。今日からここは俺の家だ。出てけ」

 ええ、横暴過ぎない、この人⁉それより、まさか、言葉通じてないのかな⁉ 
 焦ってついその場をふわふわと飛んでしまうと(私は幽霊になってから飛べるようになったのだ!ちなみに足は生えてる)、急に腕が、熱くなった。住人(予定)が、私の腕を掴んだのだ。
 ……掴んだ⁉

「おら、出てけ」
「ゔあ!」

 住人(予定)は、私の腕を掴んだまま、ドアに私を押し付けた。私がこの部屋から出られれば通り抜けたのだろうが、私はこの部屋から出られないので、ドアに押し付けられたような形になってしまう。

「……あ?まさか、出られないのか?」
「ゔあ」

 幽霊とはいえ、痛みは感じるのでやめてほしい。
 思いが通じたのかそれとも諦めたのか、住人(予定)は私の腕を離した。

「くそ、だりぃな」

 吐き捨てながら、住人(予定)は靴を脱ぎ、部屋に上がった。
 どうやらこの住人(予定)、住人(確定)になってしまうようだ。つまり、私の同居人。
 この人にお坊さんを呼んできてもらえるのだろうか。……なんか、無理な気がする。
 私は、成仏できるのだろうか。
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