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幽霊になりました
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小学生の時、手相占いが流行った。全然本格的じゃ無い簡単なもので、私長生きするー、とか、結婚できないかもー、とか、そのくらいの。その中で、私はみんなに心配された。
生命線が異様に短かったからだ。
親友なんかは明日死ぬの⁉︎と私以上に怯えてきて、私は占いは良いことだけ信じて悪いことは信じないタイプだったので大丈夫大丈夫、と言って慰めていた。ついでに私よりちょっぴり長くはあるものの同じように短くて落ち込んでいたクラスメイトも慰めた。
それを、二十歳すぎてなぜ思い出したか、というと。
今の私は、幽霊だからである。
頭が沸いているわけではない。多分。いや沸いていてほしいんだけど。
大学進学と同時にアパートのワンルームで一人暮らしを始めた私は、勉強にバイトにサークル活動に明け暮れていて、残念ながら恋人一人できなかった。大学二年も後半で周りは恋を楽しんでばっかりなので私もそろそろ彼氏を作るべきかな……どうやって?と悩んで、『恋人 作り方』と携帯で検索していた。結局よくわからなくて、携帯を放り投げて寝た。
それが、生身の私の最後の記憶である。
そして、大学は今日何限からだっけ、と起きたら、私の部屋は、がらんどうになっていた。ベッドで寝ていたはずなのにベッドがない。つまり床で寝ていた。はっと立ち上がると床に敷いていたカーペットもいつも勉強していた机もパソコンも、それにクローゼットも本棚も何ならカーテンすらなくて、とにかく、家具一つなくなっていたのである。部屋の隅には蜘蛛の巣まであってゾッとしたが、部屋の形自体は自分の住んでいたアパートのものである。
寝ぼけて、空き部屋に入って寝てしまったのだろうか。そう思った私は、とりあえず部屋から出ようとした。
……が、なぜか、ドアの手すりが掴めない。掴めないというか、通り抜ける、というか。
何度試しても無理で、どうしよう、と頭を抱えた。それで仕方ないから、外から開けてもらおう、と声を出した、ら。
『ゔあぁぁぁあ!』
……なんか、めちゃくちゃに恐ろしい声が聞こえた。いや、これ、声か?いいとこうめき声である。
この時はまだ、「どういうこと?」としか思っていなかった。
しかし、ふと、玄関の側に備え付けてある全身鏡を見たら。
私はそこには映っていなかった。
流石に背筋がぞわりとして、私は視線を下ろした。私は本当にいるのかと。
そこにあったのは、ちゃんと、私の身体だったけど。着ているものが、問題だった。
白の和服。つまり、死装束。胸には私の黒くて長い髪が散らばるように垂れている。
これ、幽霊じゃない?
私は、ぱったりと後ろに倒れ、意識を失った。
幽霊でも、意識は失うし、背筋はぞわりと粟立つのだと、どうでもいい知見を得たのだった。
自分が幽霊になったのだと受け入れられたのは、それからしばらく経ってからだった。体感一週間。それが早いか遅いかは知らない。
でも漫画で「自分を幽霊だと自覚していない幽霊が悪さをして悪霊になる」みたいな話を読んだことがあるので、幽霊だと自覚がある私は悪霊になることはないんじゃないか、と少しホッとした。漫画の内容を現実に照らし合わせて良いのかという問題はあるが、そもそも私が幽霊になっているので気にしないこととした。
あとわかったのは、私はこの部屋から出られない、ということだ。
ドアノブに触れられないのはわかっていたが、幽霊ならドアをすり抜けて外に出られるのでは?と思ったものの、何故か無理だった。ドアにはぶつかってはいないはずなのに、見えないドアに跳ね返されたようだった。隣の部屋に繋がる壁も、ベランダに繋がる窓も、同じだった。引きこもり幽霊確定である。
……というかこれ、地縛霊ってやつなのかも。詳しくはわからないけど、この場所に未練があって離れられない幽霊、みたいな。おそらく私はあのあと寝ているうちにこの部屋で死んで、ここから離れられなくなってしまったのだ。
一通り色々と考えて、私はどうしたいのか決めた。
もちろん引きこもり幽霊はしていられない。テレビや携帯があればまだいいが無いし。こんなところで一人でいたら気が狂う。……幽霊も気は狂うのかな?
かといって、どこかに行きたいかといえば、そうも思わない。行ったことのない場所に旅行に行きたいと思わないわけではないけど、基本旅の目的は食なので、幽霊はそれができないし、行きたいとも思わない。
ついでに言えば会いたい人もいない。こう考えると悲しい人生である。
よって、私がしたいのは、成仏である。
よく知らないけど、多分、お寺行くかお坊さん呼ぶかすればできるんじゃないかな、と思っている。よく知らないけど。
でも私はおそらく地縛霊なので、お坊さんに来てもらうほかない。多分。多分ばっかりだな。
それをするには、まず、この部屋に誰か来てもらうことが第一条件だ。
誰かにこの部屋に来てもらって、お坊さんを呼んでもらう。私は『ゔぁぁああ』みたいなことしか言えないけど、そんな声聞こえたら「お化けだー!お祓いしてもらわなきゃ!」ってなるだろう。多分。
生命線が異様に短かったからだ。
親友なんかは明日死ぬの⁉︎と私以上に怯えてきて、私は占いは良いことだけ信じて悪いことは信じないタイプだったので大丈夫大丈夫、と言って慰めていた。ついでに私よりちょっぴり長くはあるものの同じように短くて落ち込んでいたクラスメイトも慰めた。
それを、二十歳すぎてなぜ思い出したか、というと。
今の私は、幽霊だからである。
頭が沸いているわけではない。多分。いや沸いていてほしいんだけど。
大学進学と同時にアパートのワンルームで一人暮らしを始めた私は、勉強にバイトにサークル活動に明け暮れていて、残念ながら恋人一人できなかった。大学二年も後半で周りは恋を楽しんでばっかりなので私もそろそろ彼氏を作るべきかな……どうやって?と悩んで、『恋人 作り方』と携帯で検索していた。結局よくわからなくて、携帯を放り投げて寝た。
それが、生身の私の最後の記憶である。
そして、大学は今日何限からだっけ、と起きたら、私の部屋は、がらんどうになっていた。ベッドで寝ていたはずなのにベッドがない。つまり床で寝ていた。はっと立ち上がると床に敷いていたカーペットもいつも勉強していた机もパソコンも、それにクローゼットも本棚も何ならカーテンすらなくて、とにかく、家具一つなくなっていたのである。部屋の隅には蜘蛛の巣まであってゾッとしたが、部屋の形自体は自分の住んでいたアパートのものである。
寝ぼけて、空き部屋に入って寝てしまったのだろうか。そう思った私は、とりあえず部屋から出ようとした。
……が、なぜか、ドアの手すりが掴めない。掴めないというか、通り抜ける、というか。
何度試しても無理で、どうしよう、と頭を抱えた。それで仕方ないから、外から開けてもらおう、と声を出した、ら。
『ゔあぁぁぁあ!』
……なんか、めちゃくちゃに恐ろしい声が聞こえた。いや、これ、声か?いいとこうめき声である。
この時はまだ、「どういうこと?」としか思っていなかった。
しかし、ふと、玄関の側に備え付けてある全身鏡を見たら。
私はそこには映っていなかった。
流石に背筋がぞわりとして、私は視線を下ろした。私は本当にいるのかと。
そこにあったのは、ちゃんと、私の身体だったけど。着ているものが、問題だった。
白の和服。つまり、死装束。胸には私の黒くて長い髪が散らばるように垂れている。
これ、幽霊じゃない?
私は、ぱったりと後ろに倒れ、意識を失った。
幽霊でも、意識は失うし、背筋はぞわりと粟立つのだと、どうでもいい知見を得たのだった。
自分が幽霊になったのだと受け入れられたのは、それからしばらく経ってからだった。体感一週間。それが早いか遅いかは知らない。
でも漫画で「自分を幽霊だと自覚していない幽霊が悪さをして悪霊になる」みたいな話を読んだことがあるので、幽霊だと自覚がある私は悪霊になることはないんじゃないか、と少しホッとした。漫画の内容を現実に照らし合わせて良いのかという問題はあるが、そもそも私が幽霊になっているので気にしないこととした。
あとわかったのは、私はこの部屋から出られない、ということだ。
ドアノブに触れられないのはわかっていたが、幽霊ならドアをすり抜けて外に出られるのでは?と思ったものの、何故か無理だった。ドアにはぶつかってはいないはずなのに、見えないドアに跳ね返されたようだった。隣の部屋に繋がる壁も、ベランダに繋がる窓も、同じだった。引きこもり幽霊確定である。
……というかこれ、地縛霊ってやつなのかも。詳しくはわからないけど、この場所に未練があって離れられない幽霊、みたいな。おそらく私はあのあと寝ているうちにこの部屋で死んで、ここから離れられなくなってしまったのだ。
一通り色々と考えて、私はどうしたいのか決めた。
もちろん引きこもり幽霊はしていられない。テレビや携帯があればまだいいが無いし。こんなところで一人でいたら気が狂う。……幽霊も気は狂うのかな?
かといって、どこかに行きたいかといえば、そうも思わない。行ったことのない場所に旅行に行きたいと思わないわけではないけど、基本旅の目的は食なので、幽霊はそれができないし、行きたいとも思わない。
ついでに言えば会いたい人もいない。こう考えると悲しい人生である。
よって、私がしたいのは、成仏である。
よく知らないけど、多分、お寺行くかお坊さん呼ぶかすればできるんじゃないかな、と思っている。よく知らないけど。
でも私はおそらく地縛霊なので、お坊さんに来てもらうほかない。多分。多分ばっかりだな。
それをするには、まず、この部屋に誰か来てもらうことが第一条件だ。
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