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十五歳の誕生日

十五歳の誕生日②

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「菖蒲?」
「え、あ……」
「加賀美慧です。俺のこと覚えてるかな?」

 いつもTシャツジーパンスニーカーの私は母親にワンピースを着せられぺたんこのパンプスを履かされ髪を巻かれ軽く化粧をされ待ち合わせ先である喫茶店でカチンコチンに固まっていた。
 そこで声をかけてきたのは、テレビの中くらいでしか見たことのないようなイケメンだった。
 百八十を超えていそうな身長に、すらりとしてはいるが貧弱ではなく、しなやかな筋肉のついた身体付き。ふわふわしている赤茶の髪は痛んでいなさそうで根本も同じ色だからきっと地毛。髪と同じ色をした目は垂れているが、眉毛がきりりとしているので意思が強そうに見える。
 ろくに返事もできずにぽかんと彼を見上げているとその人が困ったように笑う顔を見て、私は突然思い出した。

「けーくん?」



 私がまだ幼稚園に通っている頃、毎日近所の公園で同じ年頃の子達と遊んでいたのだが、ある日知らない年上の男の子が現れた。
 当時まだ世の中のことを何も知らなかった私は、愛想の悪かったその男の子に何故か懐き、泥だらけの手で引っ張ってとにかくあれやこれやと遊びに付き合わせていた。
 最初その男の子は迷惑がっていたが、当時の私は他人の心の機微に気付いたり気にしたりするような生き物ではなかったので、私はとにかく彼と遊びまくっていたら、いつしか彼は困ったように笑うようになっていった。
 それが続いたのはおよそ三ヶ月くらいだろうか。急にその男の子は公園に現れなくなって、私はビービー泣いた挙句熱を出して寝込んだ。
 そんなこと何故覚えているかと言うと、あの時は気づかなかったが、今思うとあれが私の初恋だったから。
 その子の名前を「けーくん」と言った。

 

 すぐにそれを思い出してぽかりと口を開けると、今度は彼は嬉しそうに笑った。この時の彼の顔を、私は一生忘れることはないだろう。

 知らず初恋をして知らず失恋をしていた私は、同じ人に二度目の恋をしたのだ。

「うん。よかった、わかってもらえて」

 元より緊張していた私は、このかっこいいお兄さんに違う意味で心臓がバクバク言い出した。
 その間に彼は椅子を引いて座り、店員さんにアイスコーヒーを注文する。

(けーくん。けーくんって、あのけーくん?あのけーくんが、許嫁?ど、どういうこと?)

「綺麗になったから声かけるの緊張しちゃったよ」

 にっこりとそんなことを言われて、私は金魚のように顔を赤くさせてはくはくと口を開けたり閉めたりする。
 そんなわけ、あるかっ。こんなかっこいいお兄さんが、こんな普通女に声かけるの、逆の意味で緊張したんでしょっ!
 そんなこと言えるはずもなく、私は仕返ししてやろうとして失敗する。こういうのは可愛い人や美人さんが言って効くことなので、私が言ってもなんの意味もないのだ。

「け、けーく……慧君……慧さん……か、加賀美さん?……も、かっこよくなられて……」

 吃るし。なんて呼べばいいかわからないし。彼はそんな私を見てぱちくりと瞬きをして、またにっこりと微笑んだ。

「慧君でいいよ」
「は、はい……」
「敬語もなし」
「はい……」
「なし」
「う、うん……」

 イケメンの圧、強い。逆らうのは無理。
 コーヒーを届けにきた店員さんに慧君がお礼を言うと、店員さんが頬を赤らめたのを目撃してしまった。わかる。きっと私のことは妹か何かだと思っていることだろう。わかる。
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