2 / 15
十五歳の誕生日
十五歳の誕生日②
しおりを挟む「菖蒲?」
「え、あ……」
「加賀美慧です。俺のこと覚えてるかな?」
いつもTシャツジーパンスニーカーの私は母親にワンピースを着せられぺたんこのパンプスを履かされ髪を巻かれ軽く化粧をされ待ち合わせ先である喫茶店でカチンコチンに固まっていた。
そこで声をかけてきたのは、テレビの中くらいでしか見たことのないようなイケメンだった。
百八十を超えていそうな身長に、すらりとしてはいるが貧弱ではなく、しなやかな筋肉のついた身体付き。ふわふわしている赤茶の髪は痛んでいなさそうで根本も同じ色だからきっと地毛。髪と同じ色をした目は垂れているが、眉毛がきりりとしているので意思が強そうに見える。
ろくに返事もできずにぽかんと彼を見上げているとその人が困ったように笑う顔を見て、私は突然思い出した。
「けーくん?」
私がまだ幼稚園に通っている頃、毎日近所の公園で同じ年頃の子達と遊んでいたのだが、ある日知らない年上の男の子が現れた。
当時まだ世の中のことを何も知らなかった私は、愛想の悪かったその男の子に何故か懐き、泥だらけの手で引っ張ってとにかくあれやこれやと遊びに付き合わせていた。
最初その男の子は迷惑がっていたが、当時の私は他人の心の機微に気付いたり気にしたりするような生き物ではなかったので、私はとにかく彼と遊びまくっていたら、いつしか彼は困ったように笑うようになっていった。
それが続いたのはおよそ三ヶ月くらいだろうか。急にその男の子は公園に現れなくなって、私はビービー泣いた挙句熱を出して寝込んだ。
そんなこと何故覚えているかと言うと、あの時は気づかなかったが、今思うとあれが私の初恋だったから。
その子の名前を「けーくん」と言った。
すぐにそれを思い出してぽかりと口を開けると、今度は彼は嬉しそうに笑った。この時の彼の顔を、私は一生忘れることはないだろう。
知らず初恋をして知らず失恋をしていた私は、同じ人に二度目の恋をしたのだ。
「うん。よかった、わかってもらえて」
元より緊張していた私は、このかっこいいお兄さんに違う意味で心臓がバクバク言い出した。
その間に彼は椅子を引いて座り、店員さんにアイスコーヒーを注文する。
(けーくん。けーくんって、あのけーくん?あのけーくんが、許嫁?ど、どういうこと?)
「綺麗になったから声かけるの緊張しちゃったよ」
にっこりとそんなことを言われて、私は金魚のように顔を赤くさせてはくはくと口を開けたり閉めたりする。
そんなわけ、あるかっ。こんなかっこいいお兄さんが、こんな普通女に声かけるの、逆の意味で緊張したんでしょっ!
そんなこと言えるはずもなく、私は仕返ししてやろうとして失敗する。こういうのは可愛い人や美人さんが言って効くことなので、私が言ってもなんの意味もないのだ。
「け、けーく……慧君……慧さん……か、加賀美さん?……も、かっこよくなられて……」
吃るし。なんて呼べばいいかわからないし。彼はそんな私を見てぱちくりと瞬きをして、またにっこりと微笑んだ。
「慧君でいいよ」
「は、はい……」
「敬語もなし」
「はい……」
「なし」
「う、うん……」
イケメンの圧、強い。逆らうのは無理。
コーヒーを届けにきた店員さんに慧君がお礼を言うと、店員さんが頬を赤らめたのを目撃してしまった。わかる。きっと私のことは妹か何かだと思っていることだろう。わかる。
1
お気に入りに追加
569
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ化した元彼に捕まった話
水無月瑠璃
恋愛
一方的に別れを告げた元彼に「部屋の荷物取りに来いよ」と言われ、気まずいまま部屋に向かうと「元彼の部屋にホイホイ来るとか、警戒心ないの?」「もう別れたいなんて言えないように…絶対逃げられないようにする」
豹変した元彼に襲われ犯される話
無理矢理気味ですが、基本的に甘め(作者的に)でハッピーエンドです。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫
Ringo
恋愛
夫が好きで好きで好きすぎる妻。
生まれた時から傍にいた夫が妻の生きる世界の全てで、夫なしの人生など考えただけで絶望レベル。
行動の全てを報告させ把握していないと不安になり、少しでも女の気配を感じれば嫉妬に狂う。
そしてそんな妻を愛してやまない夫。
束縛されること、嫉妬されることにこれ以上にない愛情を感じる変態。
自身も嫉妬深く、妻を家に閉じ込め家族以外との接触や交流を遮断。
時に激しい妄想に駆られて俺様キャラが降臨し、妻を言葉と行為で追い込む鬼畜でもある。
そんなメンヘラ妻と変態鬼畜紳士夫が織り成す日常をご覧あれ。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※現代もの
※R18内容濃いめ(作者調べ)
※ガッツリ行為エピソード多め
※上記が苦手な方はご遠慮ください
完結まで執筆済み
【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。
水樹風
恋愛
とある事情から、近衛騎士団々長レイナート・ワーリン伯爵の後妻となったエルシャ。
十六歳年上の彼とは形だけの夫婦のはずだった。それでも『家族』として大切にしてもらい、伯爵家の女主人として役目を果たしていた彼女。
だが結婚三年目。ワーリン伯爵家を揺るがす事件が起こる。そして……。
白い結婚をしたはずのエルシャは、伯爵夫人として一番大事な役目を果たさなければならなくなったのだ。
「エルシャ、いいかい?」
「はい、レイ様……」
それは堪らなく、甘い夜──。
* 世界観はあくまで創作です。
* 全12話
ヤンデレ弟の姉に転生してしまいましたR18
るーろ
恋愛
エロゲーをこよなく愛する、夏目奏美25歳。寝ても覚めてもエロゲー攻略の事ばかり考えている私でも苦手な分野がある。
ヤンデレルートである。
好きな人を苦しめたり、自分のものにならないと手段を問わず周り傷つけたり、苦手なのだ。
友人はヤンデレルートの良さを語るがどうも好きになれない私に、とりあえずプレーしてみて!と、渡されたのが【黒薔薇の騎士】その内容は____
作者より
仕事の合間に書いてますので誤字脱字
設定ミスお許しください(T ^ T)
【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった
春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。
本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。
「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」
なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!?
本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。
【2023.11.28追記】
その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました!
※他サイトにも投稿しております。
性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する
如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。
八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。
内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。
慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。
そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。
物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。
有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。
二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。
義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。ユリウスに一目で恋に落ちたマリナは彼の幸せを願い、ゲームとは全く違う行動をとることにした。するとマリナが思っていたのとは違う展開になってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる