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十五歳の誕生日
十五歳の誕生日①
しおりを挟む私には許嫁がいる。
サラリーマンの父親とスーパーでパートをしている母親とお盆と年末にしか帰ってこない大学生の兄のいる日本中のどこにだってありそうな家庭に産まれたのに、なぜだか許嫁がいるのである。
私だってどこにでもいそうなただの高校生なのに、許嫁がいるという一点で「どこにでもいそうな」からかけ離れてしまった。
自分に許嫁がいる、と知ったのは十四歳の時。
親友のゆっこに彼氏ができて家で自分のことのように喜んだり寂しがったりとリビングで騒がしくしていると、いつもぼうっとしてる当時高校生だった兄が急に真剣な顔つきになって「お前は彼氏作ったりしてないよな?」と聞いてきたのだ。
まず訝しがった。
妹に彼氏ができようが何ができようがフーンで終わらせそうな兄がそんなことを聞いてきたのだ。何か裏があるに違いない。
次にイラついた。
親友のゆっこは活発で人類皆友達! みたいな可愛い女の子なので彼氏ができるのもすぐだろうな、と何なら小学生の時から思っていたが、私はゆっことは真逆の人間である。
友好関係は狭く深く、人と話すより本を読んでる方が好き。そんな生き方をしていても親友に彼氏ができたらそりゃ羨ましいな、と思う。しかし可愛くもなければ陰気な私に彼氏ができることなんてあるのだろうか。
そんなことを思っている時に「彼氏作ったりしてないよな?」なんて言われたら、私じゃなくても嫌味か? と思うだろう。
そんな風にもやもやしている私に、兄は言った。
お前には許嫁がいるんだからな、と。
ぽかんとする私に、その夜は緊急家族会議が執り行われた。
私が四歳の時急に普通に生きてて関わることはないであろうお家柄の人たちが我が家にやってきて、私とその人が許嫁の関係になったこと。
私が嫌だったら後々解消してもいいが、十六歳になるまでは許嫁でいて欲しいと言われたこと。
許嫁は私の八歳上だということ。
それを聞いてやはりぽかんとする私だったが、人のいい両親はとても切羽詰まってるようだったから了承してしまったと続け申し訳なさそうにした。
私のそんな大事なことを勝手に決められてしまったのは腹立たしいが、人のいい両親の血をきっちり受け継いでいる私はまあいっか、で済ませた。そんなこともあるんだなあ、と。別に金銭を受け取っているとかではなかった。
これまで許嫁やその周りの人が一度も接触して来なかったこと、それから十六歳になれば解消してもいいということが大きかった。
しかし、私が十五歳になる誕生日の一週間前、その人から電話が来た。
菖蒲さんと会わせてほしい、と。
電話に出たのは母で、あれよあれよという間に誕生日である土曜日に私は十一年来の許嫁と初めて会うことが決まった。
名前を加賀美慧。今二十二歳で大学院生。私の持っている情報はこの程度である。
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