異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
314 / 342
旅行

混迷を極めてきて、面倒がひたひたと歩み寄る:spring break

しおりを挟む
 ユリシア姉さんの言葉に困惑する一同。アイラが恐る恐る口を開いた。

「ゆ、ユリシア様はその、ハティアお姉さまとエドガー様が恋愛関係にあると考えているのですか?」
「さぁ。少なくとも三年前くらいまではエドもはらぐ……ハティア殿下もお互いにそんな感情は抱いてなかったと思うわよ。まぁ、けど学園で一緒にいたのでしょう? はらぐ……ハティア殿下はともかく、エドはボケナスだから、ちょろいハニトラにでも引っ掛かったと思ったのよ。あいつ、胸の大きなのに弱いし。レモンとかよく見てたし」

 双子の姉からの言葉は辛らつだ。ボロクソ言われてて、ちょっと居たたまれない。というか、レモンの胸をよく見てたの?

 俺もライン兄さんも顔を見合わせてちょっと苦笑いするしかない。

「だいたい、あの二人って婚約しているのでしょ?」
「「「えっ!?」」」
「「はぁっ!?」」

 初耳なんですけどっ!

 ……あ、いや。

「例の人っ!」

 そういえば、去年、エドガー兄さんからそんな話を聞いた記憶がある。俺の言葉を聞いて、ライン兄さんも思い出したのか、ポンッと手を叩いた。

「そういえば、そうだった。僕の生誕祭の時に二人でそんな話をしてた! 婚約とかどうとか」
「そんな話じゃないでしょ。なんで忘れてるの」
「いや~。エド兄からその後の進捗聞いてなかったし、破談になったのかなぁって。そもそもそんなに興味なかったし」
「興味もとうよ。兄のことじゃん」
「まぁ、そうなんだけど」

 頬をかくライン兄さん。どうせ植物とか魔物とか、絵本のこととかで頭が一杯だったのだろうけど。

「あ、でも、ユリ姉。あれって婚約まで進んでなかったんじゃなかったけ? 将来を考えて、そういう道もあるよって話じゃなかった?」
「あら、そうだったかしら?」
 
 ルーシー様が首を傾げる。

「ラインヴァント様。将来とは?」
「マキーナルト領と王家の関係だったと思います。確かハティア王女殿下がエド兄に嫁ぐことでマキーナルト領を王家と深いかかわりのある地にして、貴族の不満を抑えたいとか。ハティア王女があけすけなくそういって、エド兄が顔をしかめていたのを覚えています」
「……なるほどね」
「ハティアお姉さまがそんなことを。じゃあ、あの時の私への言葉は……」

 ルーシー様もアイラも神妙な面持ちで考え込み始める。

 どうやら心当たりがあるのだろう。

 と、今まで驚愕と困惑で状況についていけなかったヂュエルさんが手をあげて口を開いた。

「……非常に言いだし難いことなのですが、学園の様子から見て、あのハティア殿下とアイツがそんな関係にあるとは。仲はいいですが、それはライバルという側面の方が強く」
「ふんっ。アンタの目が節穴なだけじゃないの?」
「さ、流石に半年以上も一緒にいたのだ。そう見間違うこともない」
「どうだか。男は鈍感な奴が多いのよっ。アンタは特に鈍いわね」

 キッとヂュエルさんを睨みつけるユリシア姉さん。

 ……他意があるのかないのか。俺も鈍い方なので、ユリシア姉さんの言葉の裏がよくわからん。

 顎に手をあてて考え込んでいたルーシー様が口を開いた。

「一先ず、整理を。ヂュエル様の考えによれば、エドガー様は武功を立てるために旅立ったということでよろしいかしら?」
「それが一番可能性が高いかと。それ以外に失踪する理由も思いつかないしな」
「で、次に問題なのが、何故ハティア殿下まで失踪してしまったのかという理由。残された手紙によれば、エドガー様を追いかけにいったということだけれども。それに、ハティア殿下に同行する商人二人も気になりますわ」

 そう言い切って、ルーシー様は続ける。

「ただ、今為すべきことは、ハティア殿下を少しでも早く秘密裏に保護すること。国境付近にいたということは、既に国外に出ている可能性が高い。手続きを踏んでもいない王族が国外にいることは、多くの問題がありますわ」
「つまり、エドガー兄さんのことは後回しになるかもって事か」

 もしかしたら、ロイス父さんたちもハティア殿下の捜索に参加することになるのではなかろうか。

 ……もしかして、これがハティア殿下の狙い?

 エドガー兄さんと協力関係にあるかはおいておいて、エドガー兄さんが追跡を妨害、更にいえばエドガー兄さんの失踪を問題ないようにするため?

 けど、そうすると『エドガー兄さんを追いかける』なんて置手紙は残さないだろうしなぁ。別々の事件に見せかけた方がお互い都合がいいはずだし……

 う~ん。悩んでも仕方ないか。
 
 というか、俺には関係のない話だし。

 俺がそう考えていると、ヂュエルさんがアイラたちに尋ねる。

「そういえば、その商人の名前とかは分かっているのですか?」
「二人の内一人は分かっていますわ。バインという名の男で、以前王都の市で露店を開いていた男ですわ。何をしたのか、アカサ・サリアス商会に目をつけられ、店を畳んだようですけれど」
「「……バイン。え、バインッ!?」」

 俺とライン兄さんが同時に驚く。

「ご存じですの?」
「あ、はい。ちょっと知り合いで……」

 バインって、去年の生誕祭で王都に行ったときに会った商人じゃん。俺らの代わりにドルック商会の運営をしてほしいなと思ってスカウトしたのに、その後全く音沙汰がなかった。

 けど、一介の商人であるバインが何故ハティア殿下に?

 う~ん。色々と混迷してきたぞ。

 首を傾げて悩んでいると、コンコンコンッと扉が叩かれた。リーナさんが出てきた。

「アイラ様。陛下がお呼びに……マキーナルト家の皆さまもおられましたか。皆さまからも陛下からお呼び出しがかかっております」

 ということで、ロイス父さんや国王様がいる会議室に。

 ただ、特段俺らに用はなかったようで、国王様的には俺らとアイラを正式な場で顔つなぎしておきたかっただけらしい。親交を深めていますよアピールだそうだ。

 ともかくロイス父さんたちの話し合いも終わり、俺らは王都の仮屋敷に帰ることとなったのだが。

「ラインヴァント様、セオドラー様。明日、少しお時間よろしいかしら?」
「え、あ、はい」
「分かりました」

 ルーシー様に呼び出されてしまった。お茶会をしたいとのこと。

 ユリシア姉さんが言うには、「アンタたちを他の令嬢に会わせたいじゃない?」とのことだ。いわば顔合わせ。将来のために少しばかり顔を繋いでおきたいとか。

 俺たちはロイス父さんに助けを求める目を向けたが、首を横に振られた。ユリシア姉さんは頑張れ~と手を振っていた。

 そして翌日。

 バールク公爵家の屋敷に馬車で行く。レモンがつきそいで来てくれた。

「……ライン兄さん、今日は全部任せる。俺はずっと黙ってるから。無口な子ってことにして」
「え、ヤだよっ!」
「お願い」

 沢山の貴族の子どもたちが集まっている。しかも、みんな色々な思惑がある。面倒だと思ったので、ライン兄さんに押し付けようと思ったのだが。

「あれ? ルーシー様だけ?」
「はい」

 他の子どもたちはいなかった。

 その広く美しい庭にはルーシー様と忠義そうなメイド一人いるだけだった。

 俺たちは庭の中央のガゼボに案内される。ガゼボの机には美味しそうなケーキやらお菓子やらが並んでいた。

 そしてルーシー様は俺たちに軽く頭を下げた。

「遅くなりましたが、ラインヴァント様、セオドラー様。以前のご無礼をここに謝罪いたします」
「以前の」
「ご無礼?」

 俺たちは首を傾げる。

 そして思い出した。

「あ、生誕祭の時の」
「もう気にしてなかったのに」

 収穫祭の時にそれとなく謝罪の品も渡されたし、ライン兄さんの言う通り気にしていなかったのだが。

 とはいえ、思っていたほど面倒なことじゃなくてよかった。

 俺たちは謝罪を受け取り、ルーシー様の勧めもあって綺麗な庭を眺めながらゆっくりとお茶をすることになった。

 まだ、春も半ば。少し肌寒くもあるが、色とりどりに花が咲き誇る庭を見れば、その寒さも心なしか和らぐものである。

 俺はホッと温かな紅茶を口に含んだ。

 その時。

「時にツクル様、ガンサク様。お二人が主導していらっしゃる代筆屋と郵便の事業に関してなのですけれども」

 ルーシー様がそう口にした。

「ブフゥー!」
「ごほっごほっ」
 
 俺たちは思わず咳き込んでしまった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

処理中です...