異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
308 / 316
末妹

ブラウの一日。後篇:gift of magic

しおりを挟む
「うぃ~あ~ざれ~。と~うれ~り~あと」

 セオと手を繋ぎ、丘を下るブラウは歌を歌う。ピクニックバスケットを片手に持ったレモンが聞き覚えがない歌に首を傾げた。

「セオ様が教えた歌ですか?」
「いや。これは教えてないよ。というか、知らない言葉なんだけど」
「私もです。ということは造語歌でしょう」

 セオが少し不安そうに言う。

「ブラウって造語を言うことが多いでしょ? 大丈夫なの?」
「幼い子供にはよくあることですから大丈夫ですよ。ライン様も小さい頃は身の回りの物を自分の言葉で命名してましたし」

 レモンがブラウの頭を撫でてくる。

「それに私たちの言葉を理解しています。ですよね?」
「う? うらら!」
「はい、そうですね。嬉しいですね。お友達と遊ぶんですものね」
「う! ゆんちゃ! うぃんでちゃ!」

 その蒼い瞳がキラキラと輝き、これからの事を想像して興奮している。

「ぴょー! こんちは!」
「こんにちは、ブラウお嬢様」

 ラート町の城壁の門を守護しているピョートルに元気いっぱいの挨拶をする。

「レモンさん、メイドの仕事、お疲れ様です。頑張ってください」
「ありがとうございます。ピョートル様もお仕事頑張ってください」

 セオがピョートルにジト目を向ける。

「ねぇ、俺には? 一番に声かけるべきなんじゃないの? 挨拶ちょうだい」
「誰があげますか。セオ様がいつも門から町に入らないせいで私が何度怒られたか。壁を乗り越えて町に入るアホに敬う言葉ありません」
「あ、アホって言った! アホって言った!」

 セオが怒る。

「あほ~! せお、あほ~!」
「あ、こら! ブラウ! そんな言葉を覚えたらいけません! ピョートル! お前のせいでブラウが悪い言葉を覚えたじゃん! どうしてくれるの!」

 レモンは、ぷんすかと地団太を踏むセオを見て「あほ~あほ~」と大笑いするブラウの手を握る。

「ブラウ様。アホのお兄さんは捨ておいて、ユイナ様とウィンディ様を迎えに行きましょうね」
「う!」
「あ、二人とも。待って!」

 慌てて追いかけてくるセオが面白くて楽しくて笑ってしまう。そんなブラウにセオはもう、と微笑み、手を繋いだ。

 町を歩く。すれ違う町人はブラウを見て少し驚くものの、隣にいるレモンを見て、正確にはその胸元につけられたブローチを見て、安堵する。

 領主様と議会に認められた保母がいるなら問題ないと。

 公園に行く前に、住宅街に寄る。

「ゆんちゃ~~!! うんででば~!!」

 ある家の前で大声で叫ぶ。レモンは苦笑しながら、ノッカーで扉を叩く。数秒もすれば、若い人族の女性が出てきた。

「レモンちゃん、ごめんね! ちょっと着替えに手間取ってて! 少し待っててくれる!!」
「はい、問題ありませんよ」

 若い女性はドタバタと慌てたように扉をしめた。どっしゃんがっしゃんと家から面白い音が響く。「ユイナ! それは食べちゃだめ~~!!」という絶叫も聞こえてくる。

 それを聞いてブラウはワクワクする。だって、このあとには絶対。

「ぶらう! うんででば~!!」

 ユイナちゃんゆんちゃが扉から飛び出してくるから。

 二歳ほどの可愛らしい茶髪の可愛らしい女の子、ゆんちゃがブラウに抱きつく。

「ゆんちゃ! うんででば~! しょ!」
「しょ!」

 二人は笑い合った。

「レモンちゃん、うちの子をお願いね」
「しっかりと見ておきますので安心してください。ごゆっくりお茶会を楽しんできてください」
「本当にっ、ありがとうね!」

 若い女性、ユイナの母親はレモンに感謝する。今日はママ友のお茶会があるのだ。こういう時に娘を預けられる存在がいると、本当に助かるのだ。

 そんな母親の気も知らず、娘であユイナはブラウから離れ、セオに飛びつく。

「せお!」
「痛い痛い! あ~やめっ! ちょ、髪を引っ張るな!」

 素早い動きでセオの背後に回わりセオの体をよじ登ったユイナは髪の毛を引っ張る。ブラウも同じようなことをする。

 セオが叫ぶ。二人はそれを聞いてキャッキャと腹を抱えて笑う。いつものことである。

「では、十六の鐘前には帰りますので」
「はい」

 ブラウたちはげっそりとしたセオに手を繋がれながら、ユイナの母親に手を振る。

 少し歩き、またある家の前でレモンがノッカーを叩く。

 二歳半ほどの、紺青色の髪と瞳の女の子が出てきた。

「ぶらう! うんででば!」
「うぃんでちゃ! うんででば!」

 ウィンディちゃんうぃんでちゃである。

「ではお預かりさせていただきます」
「よろしくお願いします」

 彼女の母親に少し挨拶したあと、更にげっそりしたセオと共に公園に向かう。

 町の外れにある公園はとても広い。外から見るとそれほど大きくないのだが、空間魔法を使い、無理やりその土地だけ領域を広げているので広く感じるのだ。

 最近建てられた遊具エリアはもとより、花畑エリアや小さな森もあったりする。小さな川なども流れている。小動物や虫、魚もいる。

 町の大人たちが自然を身近に感じられるようにと作った公園だ。あらゆる魔法や能力スキルの粋を集められて作られた。たぶん、見る目があるものが見れば腰を抜かすほどには色々と詰め込まれている。

 ともかく、公園では幼い子供たちや少年少女、暇を持てあましているおっさんなどが遊んでいる。

 ……おっさんはそれでいいのか、と思うが、彼らは保父だ。近くには五歳未満の小さな子供たちがいて、彼らが危ないことをしないように見張っているのだ。

 ニート(仕事はしている)でも役に立つのだ、と以前セオが言っていた。

 なので、いつも通り挨拶する。

「「「にーと!! こんちは!」」」
「あ、やめ――」
「「「だれがニートじゃ、ごらぁっ!」」」

 おっさんたちが怒る。ブラウたちはその反応を見て楽しそうに笑う。ブラウ達だけなく、近くにいた他の子供たちもだ。

「セオ様! いい加減、その呼び方をやめさせろよ!」
「俺らは働いてるんだぞ! 休暇期間でもこうして子供たちの面倒を見てるのに」
「っつうか、セオ様が一番ニートだろ!」
「ぐうたら好き勝手してやがって!」
「俺、子供ですしぃ! ぐうたら好き勝手は子供の特権ですしぃ!」
「子供はそんな事言わねぇんだよ!」
 
 いつも通り喧嘩を始めるセオとおっさんたち。レモンは溜息を吐く。

 そしてブラウ達は。

「ゆいちゃ、うぃんでちゃ。いまちょ!」
「ひみちゅのちーくれあそび!」
「ごーごーごー! おーるぐりー!」

 大人たちの目を盗んで、森へと向かって走る。

 秘密のシークレット遊びは大人にバレてはいけないのだ。大人たちがいないところで遊ぶからこそ、秘密のシークレット遊びになるのだ。セオが言っていた。

 まぁ、彼女たちが気が付いていないだけで、大人たちはあらゆる能力スキルや魔法を用いて子供たちを常に見守っているのだが。
 
 森へ入ったブラウたちは顔を付き合わせて、秘密のシークレットの内容を遊びを決める。

「んちょちょ」
「あたちはあっち~!」
「わたしはおちろづくり!」

 三人の意見が異なった。頷きあう。

「「「ちゃ~んけん!」」」

 それぞれ拳を突き出し、じゃんけんをする。

「わたしのかち!!」
「やうかれぇ……」
「まちぇた……」

 ウィンディが勝った。ブラウとユイナは膝をつく。二人とも涙目で少し泣きそうになる。

「なくな。おんなはなくな。おひめなかない」

 ウィンディがふすんと鼻息を荒くしながら、強く言う。

 ブラウもユイナも思い出す。最近母が読んでくれた、お姫様は泣かない、という絵本を。

 二人は頷きあう。

「おひめ! のんびーびー!」
「なちゃない!」

 ということで、ウィンディ希望のお城作りを始める。

 お城は、雪で作る。だいぶ溶けたとはいえ、森の中には幾分か雪が残っている。

「ぶらう! きちとこおらせ!」
「ぶんらじゃ~!」

 それに足らなければ、ウィンディが川の水を魔法で操って空中に浮かせ、ブラウがそれを凍らせて雪にすればいい。

「ぶらう! そっち、ちぃ~! もっとまりゅく! うぃんでぃ! ねねばばんとちいさ!」

 おしゃれ好きのユイナが指示をだして、絵本にでてくるようなお城を作っていく。

「ブラウ様! ユイナ様! ウィンディ様! お昼ですよ~!」

 遠くからレモンの声が聞こえてきた。お城はまだ作り途中である。

「かくちぇ! かくちぇ!」
「つちちゃ、ふんばば!」

 ユイナが魔法で地面の土を操ってドームを作り、雪のお城を覆い隠す。こんもりと、盛り上がった土が彼女たちの後ろにできる。レモンとセオが来た。

「三人ともお昼の時間ですので、サンドウィッチを食べましょう」
「ちゃんど!」
「うぃっち!」
「おひるごはん!」

 三人とも興奮する。

「ところで、後ろのは何?」
「おちろだ――」
「あたちたちつく――」

 サンドウィッチに興奮したブラウとユイナが秘密のシークレット遊びを忘れ、セオに話そうとする。

 慌ててウィンディが二人の口を塞ぎ、セオに言う。

「ちがうの! なんにもないの! ゆきのおしろじゃないの!」
「……そうなんだね」

 苦笑するセオに気が付かず、ウィンディはふぃいとやり遂げたように安堵の溜息をする。ブラウとユイナに「しーでしょ!」と忠告する。二人はハッと思い出してコクコクと頷く。

 花畑エリアでお昼ご飯にする。春も近づいてるので、早咲きの花が咲いている。

「うんまま!」
「おいち!」
「おいしい!」

 サンドウィッチに舌鼓をうつブラウ達。すると、ちょっと席を立っていたセオがお花のかんむりをもって帰ってくる。

「女の子はこういうのが好きでしょ。はい、ブラウ」
「う? ううぅ!!」

 お花のかんむりを被せられたブラウは、目を輝かせる。お姫様みたい!

「せお! ゆいちゃも! ゆいちゃも!」
「わたしも! てぃあらつくれ!」
「二人の分もあるって」

 セオがユイナとウィンディにお花のかんむりを被せる。

「皆さん、可愛らしいですよ」

 レモンが微笑む。

「で、私にはないのですか? セオ様」
「え。いるの?」
「……どうせ私は女の子ではありませんよ」

 溜息を吐くレモンを見て、ブラウ達は両目を吊り上げる。

「せお! れもんかわいそ! やーやまん!」
「ちどい! ちゅってちょい!」
「まおう! あくま! つくれ!」
「そこまで言わないでよ! いいよ、作ってくる」

 セオが半泣きになりながら、お花のかんむりを作りに行こうとする。

「まち! ぶらう、つくう!」
「あたちが!」
「わたしがつくりたい!」
「えぇ、どっちなの」
「いいじゃないですか。この機に教えてみては?」

 ブラウ達はセオにお花のかんむりの作り方を教しえてもらい、お姫様ごっこに夢中になった。

 ……雪のお城は忘れ去られた。

 そして太陽が西に傾き、あと一時間もすれば夕暮れが訪れる頃合いになると、ブラウ達はお眠になってしまった。

「寝ちゃったね」
「ですね」

 レモンとセオは微笑みあい、彼女たちをおぶって家へと連れ帰った。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...