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末妹
一度は頂点を取ったのに……:play money
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中盤に入り、皆が一巡したころ。
「次は私の番――」
「ユリシア様、少しお待ちください」
レモンがユリシア姉さんを止める。ユリシア姉さんがどうしたの? と首を傾げると、レモンが視線を下に降ろす。
「むにゅ……」
「おねむです」
レモンはモフモフ尻尾でウトウトとし始めたブラウを包み込み、揺りかごのように揺らし始める。
数十秒もすれば、ブラウはクークーと寝息を立てて、寝始めてた。
「ゆっくりお眠りください。……ユリシア様。お待たせして申し訳ありません」
「いいわよ。ブラウの面倒を見てくれてありがとうね」
「いえ、仕事ですから。それと、ブラウ様を起こさないよう、皆さま声の大きさには少し気を付けてください」
「分かってるわよ」
俺たちは頷く。
「じゃあ、振るわよ」
ユリシア姉さんがサイコロを振る。
「……輸送ギルドね」
「ということで、大銀貨一枚ちょうだい」
鉄道の代わりである輸送ギルドの権利書を四枚有している俺は、ユリシア姉さんにニッコリと笑う。
「……さっき、手に入れたばかりなのに」
「どうも」
ユリシア姉さんはグヌヌと顔をしかめながら、俺に大銀貨一枚分の価値がある橙色の紙幣を渡した。
にっこりと受け取れば、ユリシア姉さんはキッと俺を睨む。そしてハッと我に返り、
「……お金がもう、ないわ……け、けどまだ大丈夫。いっぱい土地持ってるし」
序盤、色々な土地を買いまくったユリシア姉さんは総資産は高いものの、現金はあまり有していない。先ほど最初のスタートのマスに戻ったことで手に入れた大銀貨一枚を失ったのも心にきているのだろう。
かなり焦っている。
俺はレモンに視線を送った。レモンは頷く。
そして皆がサイコロを振って一巡し、ユリシア姉さんの番になった。
「……お願い、四か六よ。最悪八でもいいわ。お願い。お願い」
四以外の出目がでると、ユリシア姉さんは現金が足りず、持っている土地の何かしらを抵当に入れなくてはならなくなる。
ぶっちゃけ、独占していない土地を抵当に入れるのはそこまで痛手ではない。場合によっては、有利な展開にもっていくためにかなり使える一手となる。
ただ、ルールを熟知していないユリシア姉さんは抵当に入れる事が損だと思っているのだろう。
こういう損得が絡む時ってユリシア姉さんの直感はあまり働かないんだよな。
「ユリシア様、交渉しませんか?」
「交渉?」
願いながらサイコロを振ろうとしたユリシア姉さんに、レモンが声を掛ける。
「はい。こちらが大銀貨三枚を支払いしますので、フェーダ領の権利書を頂けないでしょうか?」
「え、駄目よ!」
ユリシア姉さんは大きな声を出す。
「ユリシア様、静かに」
「あ、ごめん」
ブラウを見て、ユリシア姉さんはシュンと落ち込む。そこにレモンが優しい声音で語り掛ける。
「ユリシア様には何の損もありませんよ。フェーダ領は定価小銀貨二十三枚。それを大銀貨三枚で買い取るのですよ?」
「けど……ここってみんなが泊まりやすそうなところだし」
「しかし、ユリシア様は同じカラーカードをもっていないので、独占しにくいじゃないですか。……じゃあ、そうですね」
レモンはぽんっと手を叩く。
「私がもつ土地の内、どれか一つをユリシア様に差し上げましょう」
「えっ、どれでも?」
「はい。どれでも自由にです。ほら、ユリシア様が一番欲しいブルーカラーのヒューモストなんてどうでしょうか? これが手に入ればブルーカラーの土地全てを独占できますよ」
「ッ! なら――」
「あ、けどその代わりといいますが、フェーダ領の他にアトス領の権利書も所望します」
「え……」
輝いていたユリシア姉さんの顔が少し暗くなる。
「もちろん、ただとはいいません。更に大銀貨一枚をプラスしましょう。合計大銀貨四枚。私の全財産です。これでも駄目ですか?」
「……でも」
「大銀貨四枚もあれば、独占した土地で宿をたくさん建てられるかと思いますが」
「っ!」
ユリシア姉さんはバッと顔を上げた。
「駄目だよ、ユリ姉! セオとレモンが何か企んで――」
「ライン兄さんは黙ってて。交渉は一対一で行われるものだよ。他のプレイヤーは干渉したら駄目だって」
「もがっ」
俺たちの狙いは分かっていないようだけど、嫌な予感がするのかライン兄さんが止めようとするが、俺がそれをインターセプトする。
「いいわ。交換しましょ」
「ありがとうございます」
レモンは全財産とブルーカラー、つまりユリシア姉さんが手に入れたら独占できる土地を叩き、オレンジカラーのフェーダ領とレッドカラーのアトス領を手に入れた。
そしてレモンはそのまま俺を見やる。俺はニヤリと笑い、レモンに交渉を持ち掛ける。
「レモン、俺と交渉しない?」
俺はこの中で一番土地をもっていないが、オレンジカラーの土地だけはフェーダ領以外全て持っている。
そしてまた、ギルド関連しか買っていないため持ち金も多い。
「はい、いいでしょう」
俺とレモンは事前に決めていたかのように交渉を行い、俺はフェーダ領を手に入れ、レモンは大銀貨二枚を手に入れた。
「どうしたの?」
「……何でもないよ」
ライン兄さんは睨んでくるが、未だに俺たちの狙いが分かっていないようなので、強く出れないらしい。
まぁ、傍目から見ると俺たちは定価以上の値段で土地を手に入れただけだしね。
けど、これでいい。終盤までの戦況を自分たちの思い通りに動かすためにしているだけだから。
俺とレモンは協力して、ユリシア姉さんたちに色々な交渉を持ち掛ける。
もちろん、ライン兄さんもユリシア姉さんやユナと交渉し、時には俺たちとすらとも交渉して土地を独占しようと頑張る。
その頑張りに免じて俺とレモンは時折、隙を見せる。
で、結局、中盤展開も終わりに差し掛かったころ。
「やってらんないわよ!!」
土地だけ沢山有してお金を持っていなかったユリシア姉さんが徴収料を払えずに最初に破産した。
次に。
「私の、負け、ということでしょうか?」
交渉でライン兄さんに貪り取られたユナが破産した。
もちろん、二人が破産したのはそれだけではない。
サイコロの出目は操作できないが、確率論と統計で計算すると、プレイヤーが止まりやすいマス目というのが存在するのだ。
なので、独占という餌でユリシア姉さんとユナを釣って、確率的に止まりにくい土地を押し付け、俺とレモンで逆に確率的に止まりやすい土地を手に入れた。
ただ、今回はライン兄さんにお金の大切さを教える事が重要なのだ。
なので、俺たちは必要以上に土地を独占しなかった。また、ユリシア姉さんとユナが破産した際の土地に関しては、優先的にライン兄さんに回した。
結果。
「よっし!」
ライン兄さんが一位となった。二位はレモンで三位は俺だ。一位と二位の間にはかなりの差が開いていた。
ちなみに俺が三位なのはギルド関連の施設を持っているからだ。
終盤に入るまでは、一定収入を得られるギルド関連の施設はとても有用なのだが、終盤に入ると皆お金と土地を持ちまくっているため、資産価値が上がらないギルド関連の施設は価値が相対的に下がってしまうのだ。
「二人が何を企んでたかしらないけど、僕の勝ちで確定だね!」
土地は全部で二十二に分けられ、それを色ごとに分類すると八つのグループに分けられる。ギルド関連の施設を一つのグループとすると、計九つだ。
ライン兄さんはそのうち五つ全てを独占している。しかも、持ち金もかなり持っている。小金貨一枚ほど。日本円に換算すると250万円ほどだ。
だから、自分の勝ちを疑っていないのだろう。
俺とレモンは肩を竦め、淡々とプレイする。
確率的に止まりやすい土地を持っているとしても、それ以外の土地の殆どを持っているライン兄さん相手にはあまり意味はない。
ジリジリと俺とレモンの手持ち金額が消えていき、ライン兄さんとの差が開く一方。
「ねぇ、降参しないの? ねぇ、ねぇ?」
俺とレモンの二人分よりも多く、されどさきほどからあまり増えていないお金の山を見せて煽ってくる。
そう、さきほどからライン兄さんのお金はあまり増えていないのだ。
モノ〇リーにおいて、お金をたくさん増やすには、多くのマス目を有する事、そのマス目を独占すること、そしてそのマス目の価値を上げる必要がある。
そのマス目の価値を上げるには、宿のグレードを上げる必要があり、それは最大四グレードまでだ。
しかし、宿のグレードを上げることができる家型の駒の数には限りがあり、合計で三十二個。あらゆる全ての土地のグレードをマックスにすることはできない。
俺とレモンは合計で九個の土地を獲得しており、特にレモンは中盤で先んじて独占したこともあり、二つの土地をグレードマックスにし、一つの土地をグレード三にしてある。残りの土地はグレード一。
俺が持っている土地はオレンジカラーの土地であり合計で三つ。その土地全てのグレードを二つにしてある。
つまり、俺とレモン二人合わせて家の駒を十九個持っているのだ。
対してライン兄さんは五つも独占しているにも関わらず、家の駒は三つだけ。一つのカラーグループの土地をグレード一にすることしかできていない。
つまり、家止めという技である。
モ〇ポリーではよく一般的に使われる技であり、特定の存在がもつ土地の資産価値を上げないために行われる妨害技だ。
とくに終盤でよく使われる。
にしても、そろそろ飽きてきたし、終わらせるか。
刑務所で三回やり過ごして次のターンで出れるようになった俺は、レモンに交渉を持ち掛ける。
「レモン。ダークブルーの土地が欲しいんだけど、大銀貨二十五枚で交換しない?」
「えっ!?」
ライン兄さんが驚いた声を上げるが、無視する。レモンは少し悩む振りをする。
「う~ん。ちょっと無理ですかね?」
「じゃあ、三十枚じゃだめ? これ以上は俺がスッカラカンになっちゃうんだけど……」
「仕方ありませんね。いいですよ」
ということで、レモンはダークブルーの家の駒を売り払い、俺に渡す。俺はダークブルーの土地を貰ったら、有り金全て叩いて家の駒を購入してダークブルーの土地に建てて家止めを行う。
そして次のターンで俺はサイコロを振い。
「あ、どうしよう~~」
サイコロの出目が悪くレモンがもつレッドカラーで、しかもグレードが四のアトス領に止まってしまった。俺の持ち金では払えない。
「せ――」
「セオ様!」
ライン兄さんよりも速く、レモンが俺に声を掛けた。
「徴収料分を私が立て替えてあげますので、先ほど渡したダークブルーの土地と、ギルド関連の施設をください」
「もう一声!」
「……大銀貨三枚もお付けします」
「……しょうがないね。定価ギリギリだけど」
俺はダークブルーの土地をレモンに売り払う。
レモンは再びバンカーの役割も兼ねている俺に声を掛け、家止めを行いながら、他の土地に建てていた家の駒をダークブルーの土地に移す。
つまり、ダークブルーの土地がグレードマックスになった。ここにとまると、あらゆるマス目の中で最も高い金額を徴収される事となる。
結果。
「あ~、どうしよう。とまっちゃった~」
サイコロの出目の悪さか。運悪く俺がそこに止まってしまった。
途中でライン兄さんのマスに止まってお金を払ってしまった事もあり、持っている土地を抵当に入れてもレモンに徴収料を払いきれない。
つまり、破産である。
破産した俺が持っていた土地は競売に掛けられた。その結果、俺が持っていた全て権利はレモンが手に入れた。
それでもライン兄さんの方が総資産額では上回っていたのだが、その大多数を占めていたのは手持ちのお金。グレードを上げられない土地の価値は低い。
対して、レモンは持っている土地はライン兄さんよりも少ないものの、その全てのグレードが高い。土地の価値が高い。
結果、運悪くグレードマックスのマス目に二回も止まってしまったこともあり、ものの三十分もせずにライン兄さんは破産した。
「次は私の番――」
「ユリシア様、少しお待ちください」
レモンがユリシア姉さんを止める。ユリシア姉さんがどうしたの? と首を傾げると、レモンが視線を下に降ろす。
「むにゅ……」
「おねむです」
レモンはモフモフ尻尾でウトウトとし始めたブラウを包み込み、揺りかごのように揺らし始める。
数十秒もすれば、ブラウはクークーと寝息を立てて、寝始めてた。
「ゆっくりお眠りください。……ユリシア様。お待たせして申し訳ありません」
「いいわよ。ブラウの面倒を見てくれてありがとうね」
「いえ、仕事ですから。それと、ブラウ様を起こさないよう、皆さま声の大きさには少し気を付けてください」
「分かってるわよ」
俺たちは頷く。
「じゃあ、振るわよ」
ユリシア姉さんがサイコロを振る。
「……輸送ギルドね」
「ということで、大銀貨一枚ちょうだい」
鉄道の代わりである輸送ギルドの権利書を四枚有している俺は、ユリシア姉さんにニッコリと笑う。
「……さっき、手に入れたばかりなのに」
「どうも」
ユリシア姉さんはグヌヌと顔をしかめながら、俺に大銀貨一枚分の価値がある橙色の紙幣を渡した。
にっこりと受け取れば、ユリシア姉さんはキッと俺を睨む。そしてハッと我に返り、
「……お金がもう、ないわ……け、けどまだ大丈夫。いっぱい土地持ってるし」
序盤、色々な土地を買いまくったユリシア姉さんは総資産は高いものの、現金はあまり有していない。先ほど最初のスタートのマスに戻ったことで手に入れた大銀貨一枚を失ったのも心にきているのだろう。
かなり焦っている。
俺はレモンに視線を送った。レモンは頷く。
そして皆がサイコロを振って一巡し、ユリシア姉さんの番になった。
「……お願い、四か六よ。最悪八でもいいわ。お願い。お願い」
四以外の出目がでると、ユリシア姉さんは現金が足りず、持っている土地の何かしらを抵当に入れなくてはならなくなる。
ぶっちゃけ、独占していない土地を抵当に入れるのはそこまで痛手ではない。場合によっては、有利な展開にもっていくためにかなり使える一手となる。
ただ、ルールを熟知していないユリシア姉さんは抵当に入れる事が損だと思っているのだろう。
こういう損得が絡む時ってユリシア姉さんの直感はあまり働かないんだよな。
「ユリシア様、交渉しませんか?」
「交渉?」
願いながらサイコロを振ろうとしたユリシア姉さんに、レモンが声を掛ける。
「はい。こちらが大銀貨三枚を支払いしますので、フェーダ領の権利書を頂けないでしょうか?」
「え、駄目よ!」
ユリシア姉さんは大きな声を出す。
「ユリシア様、静かに」
「あ、ごめん」
ブラウを見て、ユリシア姉さんはシュンと落ち込む。そこにレモンが優しい声音で語り掛ける。
「ユリシア様には何の損もありませんよ。フェーダ領は定価小銀貨二十三枚。それを大銀貨三枚で買い取るのですよ?」
「けど……ここってみんなが泊まりやすそうなところだし」
「しかし、ユリシア様は同じカラーカードをもっていないので、独占しにくいじゃないですか。……じゃあ、そうですね」
レモンはぽんっと手を叩く。
「私がもつ土地の内、どれか一つをユリシア様に差し上げましょう」
「えっ、どれでも?」
「はい。どれでも自由にです。ほら、ユリシア様が一番欲しいブルーカラーのヒューモストなんてどうでしょうか? これが手に入ればブルーカラーの土地全てを独占できますよ」
「ッ! なら――」
「あ、けどその代わりといいますが、フェーダ領の他にアトス領の権利書も所望します」
「え……」
輝いていたユリシア姉さんの顔が少し暗くなる。
「もちろん、ただとはいいません。更に大銀貨一枚をプラスしましょう。合計大銀貨四枚。私の全財産です。これでも駄目ですか?」
「……でも」
「大銀貨四枚もあれば、独占した土地で宿をたくさん建てられるかと思いますが」
「っ!」
ユリシア姉さんはバッと顔を上げた。
「駄目だよ、ユリ姉! セオとレモンが何か企んで――」
「ライン兄さんは黙ってて。交渉は一対一で行われるものだよ。他のプレイヤーは干渉したら駄目だって」
「もがっ」
俺たちの狙いは分かっていないようだけど、嫌な予感がするのかライン兄さんが止めようとするが、俺がそれをインターセプトする。
「いいわ。交換しましょ」
「ありがとうございます」
レモンは全財産とブルーカラー、つまりユリシア姉さんが手に入れたら独占できる土地を叩き、オレンジカラーのフェーダ領とレッドカラーのアトス領を手に入れた。
そしてレモンはそのまま俺を見やる。俺はニヤリと笑い、レモンに交渉を持ち掛ける。
「レモン、俺と交渉しない?」
俺はこの中で一番土地をもっていないが、オレンジカラーの土地だけはフェーダ領以外全て持っている。
そしてまた、ギルド関連しか買っていないため持ち金も多い。
「はい、いいでしょう」
俺とレモンは事前に決めていたかのように交渉を行い、俺はフェーダ領を手に入れ、レモンは大銀貨二枚を手に入れた。
「どうしたの?」
「……何でもないよ」
ライン兄さんは睨んでくるが、未だに俺たちの狙いが分かっていないようなので、強く出れないらしい。
まぁ、傍目から見ると俺たちは定価以上の値段で土地を手に入れただけだしね。
けど、これでいい。終盤までの戦況を自分たちの思い通りに動かすためにしているだけだから。
俺とレモンは協力して、ユリシア姉さんたちに色々な交渉を持ち掛ける。
もちろん、ライン兄さんもユリシア姉さんやユナと交渉し、時には俺たちとすらとも交渉して土地を独占しようと頑張る。
その頑張りに免じて俺とレモンは時折、隙を見せる。
で、結局、中盤展開も終わりに差し掛かったころ。
「やってらんないわよ!!」
土地だけ沢山有してお金を持っていなかったユリシア姉さんが徴収料を払えずに最初に破産した。
次に。
「私の、負け、ということでしょうか?」
交渉でライン兄さんに貪り取られたユナが破産した。
もちろん、二人が破産したのはそれだけではない。
サイコロの出目は操作できないが、確率論と統計で計算すると、プレイヤーが止まりやすいマス目というのが存在するのだ。
なので、独占という餌でユリシア姉さんとユナを釣って、確率的に止まりにくい土地を押し付け、俺とレモンで逆に確率的に止まりやすい土地を手に入れた。
ただ、今回はライン兄さんにお金の大切さを教える事が重要なのだ。
なので、俺たちは必要以上に土地を独占しなかった。また、ユリシア姉さんとユナが破産した際の土地に関しては、優先的にライン兄さんに回した。
結果。
「よっし!」
ライン兄さんが一位となった。二位はレモンで三位は俺だ。一位と二位の間にはかなりの差が開いていた。
ちなみに俺が三位なのはギルド関連の施設を持っているからだ。
終盤に入るまでは、一定収入を得られるギルド関連の施設はとても有用なのだが、終盤に入ると皆お金と土地を持ちまくっているため、資産価値が上がらないギルド関連の施設は価値が相対的に下がってしまうのだ。
「二人が何を企んでたかしらないけど、僕の勝ちで確定だね!」
土地は全部で二十二に分けられ、それを色ごとに分類すると八つのグループに分けられる。ギルド関連の施設を一つのグループとすると、計九つだ。
ライン兄さんはそのうち五つ全てを独占している。しかも、持ち金もかなり持っている。小金貨一枚ほど。日本円に換算すると250万円ほどだ。
だから、自分の勝ちを疑っていないのだろう。
俺とレモンは肩を竦め、淡々とプレイする。
確率的に止まりやすい土地を持っているとしても、それ以外の土地の殆どを持っているライン兄さん相手にはあまり意味はない。
ジリジリと俺とレモンの手持ち金額が消えていき、ライン兄さんとの差が開く一方。
「ねぇ、降参しないの? ねぇ、ねぇ?」
俺とレモンの二人分よりも多く、されどさきほどからあまり増えていないお金の山を見せて煽ってくる。
そう、さきほどからライン兄さんのお金はあまり増えていないのだ。
モノ〇リーにおいて、お金をたくさん増やすには、多くのマス目を有する事、そのマス目を独占すること、そしてそのマス目の価値を上げる必要がある。
そのマス目の価値を上げるには、宿のグレードを上げる必要があり、それは最大四グレードまでだ。
しかし、宿のグレードを上げることができる家型の駒の数には限りがあり、合計で三十二個。あらゆる全ての土地のグレードをマックスにすることはできない。
俺とレモンは合計で九個の土地を獲得しており、特にレモンは中盤で先んじて独占したこともあり、二つの土地をグレードマックスにし、一つの土地をグレード三にしてある。残りの土地はグレード一。
俺が持っている土地はオレンジカラーの土地であり合計で三つ。その土地全てのグレードを二つにしてある。
つまり、俺とレモン二人合わせて家の駒を十九個持っているのだ。
対してライン兄さんは五つも独占しているにも関わらず、家の駒は三つだけ。一つのカラーグループの土地をグレード一にすることしかできていない。
つまり、家止めという技である。
モ〇ポリーではよく一般的に使われる技であり、特定の存在がもつ土地の資産価値を上げないために行われる妨害技だ。
とくに終盤でよく使われる。
にしても、そろそろ飽きてきたし、終わらせるか。
刑務所で三回やり過ごして次のターンで出れるようになった俺は、レモンに交渉を持ち掛ける。
「レモン。ダークブルーの土地が欲しいんだけど、大銀貨二十五枚で交換しない?」
「えっ!?」
ライン兄さんが驚いた声を上げるが、無視する。レモンは少し悩む振りをする。
「う~ん。ちょっと無理ですかね?」
「じゃあ、三十枚じゃだめ? これ以上は俺がスッカラカンになっちゃうんだけど……」
「仕方ありませんね。いいですよ」
ということで、レモンはダークブルーの家の駒を売り払い、俺に渡す。俺はダークブルーの土地を貰ったら、有り金全て叩いて家の駒を購入してダークブルーの土地に建てて家止めを行う。
そして次のターンで俺はサイコロを振い。
「あ、どうしよう~~」
サイコロの出目が悪くレモンがもつレッドカラーで、しかもグレードが四のアトス領に止まってしまった。俺の持ち金では払えない。
「せ――」
「セオ様!」
ライン兄さんよりも速く、レモンが俺に声を掛けた。
「徴収料分を私が立て替えてあげますので、先ほど渡したダークブルーの土地と、ギルド関連の施設をください」
「もう一声!」
「……大銀貨三枚もお付けします」
「……しょうがないね。定価ギリギリだけど」
俺はダークブルーの土地をレモンに売り払う。
レモンは再びバンカーの役割も兼ねている俺に声を掛け、家止めを行いながら、他の土地に建てていた家の駒をダークブルーの土地に移す。
つまり、ダークブルーの土地がグレードマックスになった。ここにとまると、あらゆるマス目の中で最も高い金額を徴収される事となる。
結果。
「あ~、どうしよう。とまっちゃった~」
サイコロの出目の悪さか。運悪く俺がそこに止まってしまった。
途中でライン兄さんのマスに止まってお金を払ってしまった事もあり、持っている土地を抵当に入れてもレモンに徴収料を払いきれない。
つまり、破産である。
破産した俺が持っていた土地は競売に掛けられた。その結果、俺が持っていた全て権利はレモンが手に入れた。
それでもライン兄さんの方が総資産額では上回っていたのだが、その大多数を占めていたのは手持ちのお金。グレードを上げられない土地の価値は低い。
対して、レモンは持っている土地はライン兄さんよりも少ないものの、その全てのグレードが高い。土地の価値が高い。
結果、運悪くグレードマックスのマス目に二回も止まってしまったこともあり、ものの三十分もせずにライン兄さんは破産した。
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