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末妹

クリスマス:閑話

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 ここ最近は豪雪が続いている。

「……年末って忙し」

 年明けまであと二週間。

 ロイス父さんやアテナ母さんたちが優秀であっても、年末進行というものは存在してしまう。

 特に王族に納める税関連の書類等々が膨大で、俺は自室でその仕事の手伝いをしていた。

 とはいえ、今日明日には片が付くだろう。

 タイプライターを叩きながら、俺はぼんやりと窓の外を見やる。

「未だにこんなに雪が降るのは慣れないんだよな」

 前世は関東住み。雪国への旅行も数えるほどしかない。だから、豪雪には馴染みがなく、雪山の嵐のように降る吹雪きには未だに慣れないのだ。

「……そういえば、地球だともうそろそろクリスマスの時期だったか」
「アルル?」

 天井を覆う枝と葉っぱの中からアルが飛び降りてきた。

「クリスマスっていうのは、ある聖人の降臨祭でね。元々はどっかの宗教の祭りを宗教対立にならないようにその聖人の宗教と合併させたのが始まりだったっけ? 3世紀か4世紀くらいに始まったんだよ」

 大学の教養科目でそんな話を聞いた記憶がある。

「まぁ、今や土着に根付いたせいか、色々な文化が産まれてたんだけど。ツリーに飾る飾りもバラバラだし、歌もバラバラだし、まぁごちゃまぜだね。特に日本にっぽんだとただ恋人とイチャコラするだけの祭りだし」

 なんか、思い出すとイライラしてきた。

「デスマーチを終えて帰路についてたら、イルミネーションの下でイチャコライチャコラ。俺の顔見て、避けてく奴も多いし。仕方ないでしょ。三日も寝てないで仕事してたんだから。君たちが使ってるシステムが正常に動いたのは俺たちのおかげなんだよ。いや、そもそもあのクソ上司が勝手に設計を変更――」
「アルル?」

 アルが心配そうな眼差しを向けてきた。

 俺は咳払いする。

「こほん。つまりごちそうが沢山食べれて、サンタクロースという赤の服を来た気まぐれおじさんからプレゼントを貰う日だよ」

 前世では何度もサンタ(仮)からプレゼントを貰ったが、全部俺が頼んだものではなかった。

 頼んだ物よりも豪華のプレゼントだったり、そこらへんのスーパーで売っているような玩具だったりした年もあった。

 気まぐれなのだ。サンタは。

 ……本当に気まぐれだった。あの人たちは。

「アル?」
「いや、何でもないよ」
「アルル!」

 アルは俺に頭を撫でられ、気持ちよさそうな声を出す。すると、葉っぱに包まって寝ていたであろうリュネとケンが俺の頭に飛び乗ってくる。

「リュネネ!」
「ケン!」
「はいはい。二人も撫でるから」

 俺はリュネとケンの頭も撫でる。

 ……そういえば、こっちにはクリスマスみたいな風習はないんだよな。新年祭はあるけど、プレゼントを貰うってわけじゃないし。

 前世でサンタから貰ったプレゼントはアレだったけど、プレゼントを貰うまでのワクワク感はとてもよかったものである。子供にはああいうワクワク感を味わってもらいたい。

 ……よし。俺がサンタになるか。

 分身もいるし、サンタよりもサンタできるのではなかろうか?


 Φ


 三日後。

「ねぇ、セオ。ソフィアから面白い話を聞いたんだけど、聞く?」
「何?」
「ここ数日、顔が分からない子供がエレガント王国中に現れているって話。妖精やお化けなんじゃないかって、冒険者ギルドや自由ギルドに沢山の捜査依頼が来てるんだって」
「へぇ」
「ここからは僕の予想だけどね、たぶん、雪関連の精霊だと思うんだよ。雪の精霊って悪戯好きが多いでしょ? ほら、彼らにまつわる民話とか童話とかそんな話多いし」
「基本精霊や妖精って悪戯好きじゃない?」
「いや、今年は寒冷なのか、エレガント王国の全土に積雪が訪れてるらしいし、雪の精霊の力がかなり増してるんだよ」

 暖炉の前で絵本製作のプロットを描いていたところ、ライン兄さんにそんな事を言われた。

「それよりもライン兄さんって欲しい物ある?」
「欲しい物? あ、もしかして、今描いてる絵本の話?」
「まぁ、そうかな」

 赤い服を着た恰幅の良いおじさんの絵を見やりながら、ライン兄さんは唸る。

「う~ん。欲しい物ね。シラユキオオクノ虫の好物の情報が欲しいっていうのは違うよね」
「当たり前でしょ」

 シラユキオオクノ虫。収穫祭の次の日にライン兄さんが捕まえてきたフワフワと浮く白毛玉の虫だ。まだ仮名だけど、ライン兄さんが付けた名前だ。

 ともかく、一匹しか捕まえられなかった事もあり、ライン兄さんはかなり慎重にシラユキ多くの虫の研究をしているのだが、未だに好物が分かっていないらしい。

 食べられる物自体は分かっているらしいのだが、特に好む物がまだ分かっていないようだ。

「普通に物として欲しいものだよ」
「う~ん。ちょっと分からない」
「じゃあ、明日までに考えておいて」
「分かった。あと、セオ。その絵本。なんで恰幅のいいおじいさんなの? 妖精にした方が良くない?」
「……まぁ、そっちの方がこっちの世界だと信じられやすいかな」
「なんの事?」
「何でもない。アドバイスありがとう。子供の姿をした妖精にしてみるよ」

 そんな会話を交わした。

 
 Φ


 三日後。

「セオ、ちょっと来なさい」
「え、何?」

 ロイス父さんに執務室に呼ばれた。ユリシア姉さんとライン兄さんが何かやらかしたの? と言わんばかりにニヤニヤと笑っていた。

 鬱陶しい。

「アランから聞いたんだけど、ポポルレルトを相当数買い取ったらしいね」

 ポポルレルトとは元は家畜の餌として使われていたジャガイモみたいな作物の事。去年か、一昨年かでライン兄さんと共同でその毒性や渋みをなくす研究を行い、成功。大きな利権を産んだ作物でもあり、マキーナルト領でも生産している。

 とはいえ、小麦が沢山とれるマキーナルト領では、ポポルレルトはそこまで料理に使われないので、主に輸出品となっている。

「ちょっと研究で使いたくなって」
「……国民半数の一食分を賄えるほどのポポルレルトを何に使うのさ?」
「そ、そんなに買ってないと思うよ」
「マキーナルト領以外でも買ってるでしょ」
「うぐ」

 どうやってそこまで調べたのか。俺は視線を逸らす。

「……はぁ。ともかく、何かするなら僕たちに相談してよ」
「わ、分かった。明後日には相談するよ」
「今してほしいんだけど」
「それはちょっと……」

 ロイス父さんは大きな溜息を吐いた。

「一つ確認だけど、マズい事をしてるわけではないんだよね」
「ま、まぁ。皆が少しだけ笑顔になれる事をしてるだけかな?」
「……明後日には相談してよ」
「へい」

 ロイス父さんから解放された。

 
 Φ


 そして二日後。つまり、クリスマスを思い出して一週間後の朝。

「せ、セオ! 起きて! 起きて!」
「ねむいからむり……」
「いいから起きてよ!」

 ライン兄さんが何度も俺の揺さぶってくる。

 寝たのが二時間前だったので、俺は滅茶苦茶眠いのだ。

 むり……

「セオ!」
「う、さむい」

 布団を剥がれた。俺はライン兄さんを睨む。

「なんだよぉ、もうぅ」
「何だよじゃないよ! 街中で話題になってるの!」
「なにが……?」
「夜中に何者かがいろんな家に侵入したんだって! しかも、この屋敷にもだよ! 今はそれで大騒ぎになってるんだよ!」
「……あっそ。ちなみに、ライン兄さんは枕元に何が置いてあったの?」

 ライン兄さんが驚いたように目を真ん丸にする。

「え、何でセオがそれを」
「だって、俺の枕元にもなんか、置いてあるし」

 俺は枕元に置かれたラッピングされた四角い箱を見やり、肩を竦める。

「真実は小説より奇なりだね。絵本の内容、先を越されちゃった」
「ッ! まさか、セオ――」

 ライン兄さんが何かに気が付いたように目を見開いた瞬間、

「セオ! ライン!! 今すぐアダド森林に行くわよ! なんかおいてあった魔導剣の試し切りをしにいくわ!! さぁ、早く!!」

 目をキラッキラさせたユリシア姉さんが飛び込んできて、無理やり俺を着替えさせてきたのだった。

 ……剣にするべきじゃなかったなぁ。


 Φ


「……騒々しいわね?」

 朝に弱いアイラはドタバタと騒がしい音に目を覚ました。重たい目をこすり、ベッドの脇についた手すりをつかって体を起き上がらせる。

 ふと、枕元に四角い箱がおいてあるのが目に入った。

「……この魔力、もしかして――」

 その四角い箱にうっすらと込められた魔力に見覚えがあった。

 扉が開き、リーナが飛び込んできた。

「アイラ様! 大変です! 王城に侵入者が現れました!」
「……もしかして、その侵入者ってこれを置いてった?」
「ッ! アイラ様! 危険です、触ってはいけません!」

 慌てるリーナに、アイラは面白おかしくなってしまい、大笑いしてしまう。

「アハハ、アハハハハ」
「あ、アイラ様? 大丈夫ですか?」
「え、ええっ。大丈夫よ、フフ」

 笑いをこらえながら、アイラはリーナに指示を出した。

「クラリスさまを呼びなさい。きっと、これは妖精の仕業だわ」
「え、あ、はい。分かりました!」

 リーナは慌てて出ていった。

「さて、妖精さんはいつ手紙をくれるのかしら」

 アイラは嬉しそうに笑ったのだった。


 Φ

 
 年始早々、ドルック商会からある絵本が発売された。

 それは子供たちの幸せから産まれた妖精が、自分を産んでくれた子供たちにささやかなプレゼントを送り、食べ物がなくお腹を空かせた子には、追加でその日満腹になれるだけのポポルレルトとお肉を送るという話だ。 
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