異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
294 / 316
末妹

言ったのはセオです。煽りました。:末妹の冬

しおりを挟む
 季節はすっかり冬となり、マキーナルト領の大地は鈍い灰色の雲によって雪化粧が施された。

 とはいえ、まだまだ人が出歩けるくらいにしか積もってはいない。あと数週間もすれば、豪雪が訪れ、一メートルほどの高さまで雪が積もってしまうだろう。

 なので、ちょうどよく雪の積もっている時期はそう長くない。

「せお! てーて! つべた!」
「なんで嬉しそうなの……」

 屋敷の屋根の上で、僕とブラウは遊んでいた。もちろん、屋根には落下防止用の魔法がかかっているし、分身体十人も使って一瞬の隙もない監視体制を作っているのでブラウが屋根の上から落ちることはない。

 ブラウの歳は一年と三か月近く。歩けるようになってはいるが、まだまだ長く歩けるわけでもない。よく転ぶ。

 それでもブラウは全身を目一杯使って動き回るようになった。

 そして外で遊べるようになって初めての冬で、雪だ。ブラウは目を輝かせながら、キャッキャッと笑う。

 ただ、ブラウはかなりヤンチャだ。悪戯もよくするし、突拍子もないこともする。今も身につけさせていた手袋を自ら放り投げ、素手で雪を握っている。

 相当冷たいのだろうに、ブラウはそれを嬉しそうに報告してくるのだ。

 俺は呆れながら、手袋を拾いブラウの手に嵌めさせる。

「はい。手袋外しちゃ駄目だよ?」
「てふくお?」
「そうそう、手袋。ブラウも冷たいのは嫌でしょ?」
「ちあう! すい!!」
「そっか、好きかぁ。でも、着けないと風邪を引いちゃおうよ。大きくへっくちゅんだよ?」
「へっくちゅん? つあい?」
「そうそう。先週、辛かったでしょ?」
「……うん」

 ブラウは気温に対して鈍い傾向がある。冷たいのは分かっているのだが、楽しさがそれを上回ってどうでもよくなってしまうのだろう。

 だから、元気に動き回るわりには風邪ひきだったりもする。

 それにしてもブラウってやっぱり賢いよな。俺の言葉だってキチンと理解しているっぽいし。流石俺の妹。

 ブラウを膝の上に座らせ、手のひらサイズの雪だるまを一緒に作る。

 ……………………はぁ。そろそろ現実逃避を止めるか。

 俺は家の前で喧嘩しているアテナ母さんとロイス父さんを見やる。ライン兄さんとユリシア姉さんも喧嘩している。

 ドンパチと魔法と斬撃が飛び交っていた。

「ロイスのあんぽんたん!! 昔からそうなのよ!」
「アテナの分からず屋! どうして昔から無駄な自信があるんだ!」
「ユリ姉はほったらかしてるし、違うじゃん! 僕がお世話してるの!」
「なによ! 妹は姉が好きなのよ!!」

 ……きっかけは些細な事だった。

 俺とライン兄さんが運営しているドルック商会で販売している絵本。俺は毎日のようにブラウに読み聞かせていた。

 だから今日も、昼食が終わった後俺がブラウに絵本を読み聞かせていたのだが、その話がお姫様と王子様との結婚の話だった。

 結婚の意味が分からなかったブラウはその絵本を通して結婚の意味を知った。

 そして言ってくれた。『せおとけっおんする!』と

 まぁ、当然だ。ブラウの世話は俺が一番している。一緒に遊んでいるし、絵本も読んであげているし、当然だろう。お兄ちゃんとして一番好かれている。

 どうか大きくなってもその気持ちを忘れないで欲しい。絶対に他の男なんかに妹はやらん!!

 ………………こほん。

 ブラウのその発言を聞いたロイス父さんたちが慌てて、ブラウに理由を尋ねた。

 すると、ブラウは『せおがすいだから』と答えた。

 うん、当然だ。ブラウの世話は俺が一番している。一緒に遊んで――以下略。

 ともかく、ロイス父さんたちはブラウに尋ねた。自分たちは好きなのかと。

 もちろんブラウは優しくていい子だ。『みんなすい!』と答えた。

 そこまでは良かった。

 誰が言ったのだろう。ブラウが一番好きなのは誰なのか? と。

 そこからは、自分が一番だと張り合う者たちの醜い争いが始まった。アテナ母さんとロイス父さん、ユリシア姉さんとライン兄さんの争いが始まった。

 ちなみに、レモンやアランたちなど使用人メンバーも家の中で自分が一番だと争っている。

「ば~ん!! ずご~ん! つおい!」
「そうだね、凄いね」

 手のひらサイズの雪だるまを作り終え、俺とブラウは魔法と斬撃が飛び交う喧嘩を観戦する。

「ぱぱ、とう! まま、ばしゅ!!」
「剣、カッコいいよね。魔法も凄いし」
「ゆりね、らいん、うばば!!」
「うばば?」
「うばば! うばば!!」
 
 ……うん? 分からんぞ。

 たぶん、今の揉みあいながら雪の上を転がり続けているユリシア姉さんとライン兄さんの事を言っているのだろうが、どうして『うばば』となるのだろうか?

 皆目見当もつかない。

「みんなすおい! たのし!!」

 俺の困惑をよそに、ブラウはキャッキャと楽しそうに笑う。俺の膝の上から立ち上がり、手を叩いてヨタヨタと踊りだす。

 ブラウは楽しいことがあると踊るのだ。たぶんアルたちが嬉しいことがあると毎回、疑似的な太陽光を発する“陽光球”の周りで踊っているのをまねているのだろう。

 真似っこ大好きだしな。

「ても、せお。どーてばばんちーて?」
「どうして喧嘩してるって?」
「う~~ぶ」

 ブラウは首を縦に大きく振って頷く。同時に前にぽてっと倒れてしまう。まだまだ上手く立ち続けるのが難しいのだ。

 俺は目端に涙を溜めているブラウを起き上がらせて膝の上に座らせ、治癒魔術をブラウのおでこにかける。

「いたいいたいとんでけ」
「う~」

 ブラウはあまり泣かない。痛い事があってもかなり我慢する子なのだ。

 俺はブラウの頭を撫でながら、先ほどの質問に答える。

「ロイス父さんたちが喧嘩しているのはね、ブラウの一番になりたいからなんだよ」
「いちあん?」
「そう、一番好きになりたいんだ。あほだよね」

 そんなの無理なのに。

「だってブラウは俺が一番好きだもんね」
「う?」
「え?」

 あれ?

 俺が一番じゃないの? 結婚するって言ってなかった? あれ?

「え、ちょっとまって。ブラウは誰が一番好きなの?」
「………………み~な?」
「お、俺では?」
「せお、すい。ぱぱ、すい。まま、すい。ゆりね、すい。らいん、すい。れも、すい。あ~ら、すい。ばと、すい。まり、すい。ゆな、すい。あるもるねもえ~もゆいもみっちもすい」

 大きく息を吸って、息継ぎなしで言い切ったブラウは、コテンと可愛らしく首を傾げ。

「み~ん、すいだよ?」
「ガハッ」

 その蒼い瞳はとても無垢で、俺の心を貫く。

 そ、そうだよね。みんな好きだよね。

 ……けど、俺の名前が一番最初にあったし、実質俺が一番好きだって事でいいのでは? 

 うん、そうだな。なら、やっぱり、俺はあんなアホみたいな醜い争いをしている人たちとは違う。

 頂点にいるのだ。

 そう納得していると、ブラウが手のひらサイズの雪だるまを指さす。

「せお! おおいいの、つうる! お~んなおおいいの!」

 ブラウが屋敷を指さす。え、屋敷ほどの大きさ?

「そんなに大きいの作れる?」
「つうるの!」
「はいはい」

 俺はブラウを抱っこし、浮遊魔術を使いながら地面に降りる。そして喧嘩しているロイス父さんたちの横を抜け、裏庭へと周り、ブラウと一緒に雪だるまを作り始めた。

 そうしてしばらくすると、雪まみれのユリシア姉さんとライン兄さんがやってきて、雪だるま作りを手伝い始めた。

 またしばらくすると、レモンたちがやってきて、手伝い始める。

 そして最後に妙にラブラブした雰囲気を醸し出すロイス父さんとアテナ母さんが現れた。

 ……あれだな。喧嘩している内に楽しくなってイチャついてたな、この二人。

 俺の呆れた視線に気にすることなく、ロイス父さんたちは雪だるま作りを手伝い始めた。

 そして夕方になるころには、屋敷ほどの高さになる雪だるまが完成したのだった。

 …………ブラウはめっちゃ喜んでたけど、大きすぎない、これ。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。 ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。 そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。 始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め… ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。 誤字脱字お許しください。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...