異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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収穫祭と訪問客

男の子に手を添えられたのはこれが初めて。緊張する:セオ

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「入ったわ!!」

 アイラは最初、輪投げを何度も外した。

 直感的に動かせるとはいえ、まだまだ義手の扱いには慣れていなかったからだ。

 いや、それだけでない。たぶん、アイラは物を投げるという経験をあまりしたことが無いのだ。

 だから、最初は本当に輪っかがあらぬ方向へと飛んでいっていた。

 けど、最後の一投。ようやく、アイラは輪っかを一番手前の棒に投げ入れた。

 アイラは嬉しそうに飛び跳ねたあと、パァーーと無邪気に顔を輝かせ、俺の方を見た。

「セオ様、入ったわ! 見てたっ!?」
「見てたよ」

 微笑ましい気持ちになる。実際、俺の顔は酷く緩み、目は生暖かくなっているだろう。

 と、喜びのエフェクトが見えるのではと思うほど、表情を輝かせていたアイラは、突然顔を伏せた。

 美しい銀の髪――他の人からは黒に見えているだろう――から覗く両耳は真っ赤になっていた。

「アイラ、どうかした?」
「…………いえ、その、あんなにはしゃいでしまって、とてもお恥ずかしいところをお見せしました」

 思わず敬語に戻ってしまうほど、アイラは恥ずかしかったらしい。穴があったら入りたいと言わんばかりに両手で顔を覆った。

 仮にも王女様だしな。はしゃぐのがはしたないとか思ってそうだよな。勝手な偏見だけど。

 俺はアイラに微笑む。

「とても可愛かったし、恥ずかしがらないで。それに、今日はそういう恥ずかしさを捨てて、目一杯楽しんで欲しいし」

 あれだな。普段、手紙でやり取りしているのもあって、こう、アイラには素直に自分の感情を認められるな。

 ユリシア姉さんとかライン兄さんとか、家族を相手するみたいに、心が動く。

 そう思って、自分の感情を素直に口にしたのだが、アイラは少しだけむくれた表情をした。

「……その可愛いは、微笑ましいとか、そういった可愛いよね」

 ……まぁ、そうだけど。なんか、それを肯定してはいけない気がする。

「いや、違うけど」
「嘘よ。私、人の感情が分かるの」
「あら、まぁ」

 初めて知った。魔力が見えるだけじゃないんだ。

 ……ああ、そういえば、魔力は思念や意識に強く影響されるんだったけ? 感情によって多少魔力の波長とかが変わったりするんだろう。

 あとで、“研究室ラボ君”にそこら辺を解析してもらうか。

「じゃあ、さっきのは訂正。とても可愛くて、微笑ましいと思った。なので、お兄さん、アイラがもっとはしゃいでくれるように頑張るよ」
「…………年下のくせに」

 俺の冗談にアイラは更にむくれ、手袋を嵌めた義手の指で、俺の頬を突いた。俺は甘んじてそれを受け入れる。
 
 ユリシア姉さんやライン兄さんによく頬を突かれるから、慣れてるし。

「こほんっ!」

 と、輪投げ屋台の中年の女性が大きく咳ばらいをした。

「終わったなら、そこどいてくれないかしら。後ろ、待ってるのよ」
「ッッ!?」

 輪投げ屋台には、三組ほど人が並んでおり、それに気が付いたアイラは顔を真っ赤にした。

「すみません、すみません!」
 
 居たたまれない様子で頭を下げ、俺の手を掴んだ。

「セオ様! 次、案内して!」
「え、輪投げ。もう一回しなくていいの?」
「いいです!」

 俺たちは逃げるように、その場から離れた。


 Φ


 とても楽しんでもらっていると思う。

 射的やパチンコなど、名立たる祭りの屋台の遊びはもちろん、何故か家で食べるよりも美味しい簡単屋台料理や、家で作るのが面倒な綿菓子やククリりんご飴など、攻略しまくった。

 色々と満喫してもらった。

 クレープを頬張り、笑みを溢すアイラに、俺は頬を緩めていた。

 それから、骨董品や工芸品、アクセサリなどがいたるところで売っている露店エリアで、俺たちに行った。

「セオ様、これは何? 木材で四角いようだけど、何に使うのでしょうか? 作りが甘いのか、板が少しだけ動くけど……」
「ああ、それは凝った小箱……からくり箱だね」
「からくり箱?」
「うん。ちょっと貸して」

 俺はアイラから小箱を受け取る。そして、側面の板をちょっとずつ順番にスライドさせる。

 すると、側面の板にひっかかって開かなかった上面の板が横に大きくスライドして、開いた。

「はい」
「ッ! セオ様、もう一回! もう一回見せて! 箱の魔力があまりはっきりしなくて!」

 そうか。魔力が濃密じゃないと、物体をハッキリと視認できないのか。

 じゃあ、俺が魔力を込めて、もう一度実演する? いや、それよりも……

「一緒に開けてみる?」
「はえ?」

 俺はからくり箱をもう一度元に戻し、アイラの手に収める。そして、アイラの両手に俺の手を添え、誘導していく。

「まずは、ここを下に限界までスライドする」
「……はい」
「で、次に、下面をこっちスライドして、次にここと、ここを同時にスライド」
「……はい」

 添えた俺の手の動きに合わせて、アイラは板をスライドさせていく。集中しているのか、アイラの返事は小さかった。

「それで、最初にスライド下部分を元に戻して、最後にここの側面をスライドさせると」
「ッ! 上が開いたわ! 凄く、カッコいい!」

 アイラは興奮した声音で喜ぶ。分かる。こういう、カラクリ箱を開けると、物凄く興奮して、カッコイイ!! って気持ちになる。

 にしても、アイラはこのカッコよさが分かるのか。女の子は分からないと思っていたが、偏見だったな。恥じよう。

 アイラはキラキラと目を輝かせながら、仕掛けを解いたからくり箱をもう一度もとに戻し、今度は自力で開き始めた。

 気に入ったようだな。

 なら、その間に……

「おじさん。これ、いくら?」

 俺は露店のおじさんに小声で尋ねる。

「本当は小銀貨十枚だが、お嬢様の笑顔にまけてやる。小銀貨六枚でどうだ?」

 約六千円ってところか。子供相手てでも、容赦ないな。このおじさん。

 あ、でも、この人。お嬢様って使ったし、アイラがそれなりにお金を持っていると思ったんだろう。外から来た商人っぽいし、俺の顔は知らないだろうし。

 まぁ、いいや。

「はい、これでどう?」
「……確かに」
「あと、そこのと、そこのも頂戴。あと、それも」
「……小銀貨十四枚だ」
「分かった。はい。大銀貨一枚で」
「……毎度」

 おじさんは少し驚きながら、淡々とおつりの小銀貨一枚を俺に渡してきた。

「セオ様! 見て! 自分でできたわ!」
「おお、凄い!」

 箱に込められた魔力が薄いため、少し苦戦していたようだが、自力で開けられたらしい。凄く喜んでる。

 それから、俺はおっさんから買った商品などを“宝物袋”にしまい、アイラの手を引いて移動する。

 そしてたまたま、街にいくつかあるちょっとした広場にたどり着いた。

「セオ様。あっちの騒がしいのはなに?」

 アイラが広場の中央を指さした。

「おお!! また、リッカスが勝ったぞ!」
「だれが、カスですかっ! 私の名前はリッカレストオレンドという立派な名前があるんですよ!」
なげぇよ!!」
「俺たち子供相手に本気になってるエルフ爺なんて、カスで十分だ!」
「そうだ、そうだ! 大人げねぇぞ、クソ爺!」
「ひっこめ~~!!」
「ってか、フェルンの独楽を返して!」
「うるさいですよ! これは神聖な勝負の場! 手加減などしてはならぬのです! あと、フェルンの小僧! 最初に敗者は勝者に独楽を差し出さなければならないと、忠告しましたよね! あの宣誓は絶対です! 返しません!」

 おっさんと少年たちがやいのやいのと騒ぎ囲んでいた。

 ……ってか、リッカスのやつ、クズいことしてるな。子供から、独楽を巻き上げるとか。

 くずから生まれたんじゃないだろうな? いや、まぁ、あの葛は薬用にもなる植物だけど……

 どっちにしろ、カスの名に恥じないクズっぷりだな。

 俺は呆れながら、アイラに説明する。

「あれは、独楽こまで遊んでるんだよ」
「独楽?」
「ええっと、独楽っていうのは――」

 アイラの疑問に答えようとして、

「はい、次! 次に私に挑む者はいませんか! いないのであれば、このクラリス様お手製の独楽は私が頂きますよ!!」
「クソ、イキリやがってクソ爺!」
「でも、どうする! オルフェンがリッカスに勝てそうなやつを何人か呼びにいったが、まだ、時間がかかるぞ! 時間稼ぎは誰がするんだ!?」
「俺たちの独楽は全部、あいつに巻き上げられたし」
「っつか、誰だよ。あのエルフ爺を誘ったの!?」
「そりゃあ、お前だろ! どうにかしろよ!」
「うるせぇよ! あの爺、独楽を沢山持ってて、しかもセオ様が作った魔導具の独楽まで持ってるんだぞ! 偶然、手に入ったくせに、自慢しまくっててウザかったんだよ!」
「それは分かる!! 俺たちが遊んでる時も、なんか、急に自慢してきてクソウザかった!! 大人のくせして、子供自慢とか、性根が腐ってると思った。な!!」
「分かる!僕の独楽を見て、鼻で笑ってたし! 一生懸命作ったのに!」

 ……子供のを鼻で笑うとか、それは駄目だろ、リッカス。

 会話を聞いていたのだろう。アイラは少しだけ、哀しい表情をして尋ねてくる。優しい子だ。

「あの、セオ様。あれは、揉めているのでしょうか?」
「揉めてると言えば揉めてるけど……まぁ、ちょうどいいか。実際に遊んで説明した方がいいかもしれないし」
「遊ぶ?」

 俺はアイラの手を引き、

「これが最後の通告ですよ!! 本当に私に挑む者は――」
「はい! リッカス! 俺とこの子が次の相手をするよ!!」

 そしてリッカスに大声でそう言ったのだった。
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