異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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収穫祭と訪問客

ガラスの靴ではないけど、一夜限りの魔法をささげる:セオ

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 沈む夕日にその艶めく白銀の長髪が美しく煌めく。秘境の奥にひっそりと在る泉の如く、澄んだ白銀の瞳は優しく輝く。

 妖精のように、儚く美しく、そして可愛らしい顔立ち。陶磁器の如く、美しく透き通った玉の肌。緊張しているのか、キュッと結ばれた小さな唇。

 華やかな装飾はなく一見簡素に見え、しかし縫い目や布の質から一級品だと伺えるワンピースを着て、右手首には細やかな意匠が施された鈍く光るブレスレットを身に着けていた。

 左手、右足はなく、質素な木製の車いすに座った彼女、アイラ様に頭を下げていた俺は、ゆっくりと顔をあげた。

 アイラ様は緊張した面持ちで俺を見つめ、何度か口をパクパクさせてようやく声を発した。

「お、お久しぶりです、セオドラー様。本日は私の我が儘に付き合ってくださりありがとうございます」
「気にしないで。それとお忍びで来てるんだし、堅苦しい言葉はなしにしようよ」

 アイラ様の後ろにいるリーナさんをチラリと見やて目線で確認を取りながら、アイラ様に言う。

「俺の事はセオって呼んで」
「セオ様……はい、セオ様」
「様はできればとって欲しいんだけど」
「こればっかりは癖で。お許しください」

 アイラ様は申し訳なさそうに目を伏せた。真面目な子だな、と俺は苦笑いしながら、アイラ様に微笑む。

「なら、せめて敬語はやめてほしいな」
「……分かったわ。なら、私の事をアイラと呼んで欲しい」
「うん、分かった。よろしくね、アイラ」
「はい!」

 アイラ様……アイラは嬉しそうに頷いた。

 と、先ほどからジッと俺を見つめて――睨んでいたエウが俺に近づき、デコピンしてきた。

「痛っ! 何するのっ! エウ!」
「……大爆笑しなかった。騙したお返し」
「騙された方が悪いよ! っというか、本当にあんなポーズで大爆笑すると思ったのっ?」
「……思った」
「エウって長く生きてるわりに純粋っていうか、物を知らないんだ」
「……ふん!」
「あ、ちょっ!」

 ムカついたのか、エウが俺に向かって木の葉を纏った風を放った。俺は慌てながら、〝無障〟で慌ててそれを防ぐ。

 ついでに“分身体”を召喚して、エウの背後を急襲させる。もちろん、エウの首元から突然生えたつるの鞭で防がれるが、隙はできたので魔力衝撃波をエウに向かって放とうとして、

「お主ら、やめぇ!」
「お」
「あ」

 クラリスさんに止められた。

 鬼の形相をしたクラリスさんが俺とエウに怒鳴る。

「お主ら、何やってるのだ!!」
「……だってセオが」
「だってエウが攻撃してきたから」
「だってもクソもあるか!」

 クラリスさんの怒気が恐ろしく、俺もエウも思わず正座してしまう。

「アイラたちの前で暴れよってからにっ! 二人とも怖がってしまっただろうてっ!!」
「……あ」
「やべ」

 アイラもリーナさんも非驚き戸惑った表情をしていた。アイラが恐る恐る口を開いた。

「その、セオ様とエウ様はその、仲が……」
「いいから! これ、いつものじゃれ合いみたいなものなんだよ!」
「……そう。だから、気にしないで」

 俺とエウは仲がいいアピールをする。互いに互いの頬を突きあった。

 それを見て安心したのか、アイラは微笑む。リーナさんは少し懐疑的な目をしていたが。

 ともかく、俺とエウはふぅ、と安堵の溜息を吐いた。クラリスさんが呆れた目を俺たちに向けながら、口を開く。

「それで、だ。セオ。これからどうするのだ? 案内はお主に一任しておるが」
「そうだね……」

 俺はリーナさんを見やった。

「リーナさん。お久しぶりです。今回の事で、いくつか確認したいのですが大丈夫ですか?」
「はい、もちろんです。それと、セオドラー様。私に敬語は不要です」
「分かった」

 俺は頷き、質問をする。

「今回、アイラがここに滞在できる時間は二時間まででいい?」
「はい。秘密裏に来ていますので、あまり長居はできません」
「ん。それで、アイラは街の人たちに顔を見られてはいけない」
「はい。収穫祭では、多くの商人が王都から来ていますし、貴族もそれなりに来訪しているます」
「まぁね」
「彼らはアイラ様のお顔を知っている可能性が高く、目撃されやすいかと思います。また、アイラ様は特徴がそれなりにハッキリとしていますので」
 
 俺はアイラが座っている車いすを見やる。

 この世界で車いすで出歩けるものは少ない。

 貴族街など、道がかなり整備されていれるところならば、足が悪い人が車いすに座って出歩く事もあるかもしれないが、大抵の道は車いすで移動するには不向きだ。

 また、屋外で使用できるほどの強度が高く、振動軽減が施された車いすは、とても高価なものなのだ。

 主に、屋内で使用されるのが常だ。

 それに、左手と右足がないことも、そしてその美しい容姿はとても大きな特徴になるだろう。

「ですので、街中に行くことはできません。今回の目的は、収穫祭最終日に行われるダンスを見ることです。どうか、街中に行かず、アイラ様がその光景を見ることはかないませんか?」
「……そうだね」

 リーナさんは少しだけ悔しそうに顔を歪めながら、俺に頭を下げた。俺はチラリとアイラを見やった。

 アイラは少しだけ哀しそうに目を伏せながら、俺に「気しないで」と微笑んだ。

 だから、俺も一人の職人としてやるべきことをやる必要があると思った。例え、俺の正体がバレたとしても。

 俺はアイラの前に立つ。

 俺は五歳。アイラは八歳。女の子の成長は早く、アイラは車いすに座っているのに、少しだけ見下ろすくらいの差しかない。

 俺は片膝をついて、アイラを見上げた。

 香水だろうか。優しいカモミールの匂いと、言葉にしにくい柔らかく幸せな匂いが俺の鼻をくすぐった。

 後者の匂いはなんだろう? 俗にいう女の子の匂いというやつなのだろうか?

 そんな事に考えながら、俺は口を開く。

「アイラ。街に行きたい?」
「……行けるなら」
「ッ」

 期待が少しだけ混じったアイラの言葉に、リーナさんが少しだけ驚いた表情した。アイラは賢い。ツクルとして、手紙のやり取りをしていたから、それは確かだ。

 だから、普段から、現実的じゃない事を望むことはしないし、口にすることもないのだろう。

 堅実に、必死に前を向いて生きているのだろう。

 俺は職人として、支えられればいいと思う。そもそも、彼女は俺の大切な研究の協力者でもあるし。

 俺は“宝物袋”を発動して、二つの魔導具、義肢を取り出した。

 それを見て、リーナさんは絶句し、アイラは大きく目を見開いた。クラリスさんとエウはやっぱり、といった表情をしていた。

「ツクル」
「ッ!」

 俺の口から発せられた名を聞いてアイラが大きく息を飲む。

「クラリスさんから聞いているかと思うけど、俺はツクルの研究に携わってるんだ。だから、研究の協力者である銀月の妖精……アイラとのやりとりも知っている。ごめんね」
「……いえ、必要なことなら。それよりも、ツクル様は私の事を知っているのね」

 小さく首を横に振ったアイラは、少しだけ悲しそうに目を伏せた。

 たぶん、知られたくなかったのだろう。

「生誕祭の時にアイラを見て、俺が気が付いたんだ。ごめん。けど、ツクルはアイラの事を知っても気にしてない。研究の大切な協力者として、アイラを信頼している。大切に思ってる」
「ッ! そ、そう……」

 アイラは頬を紅潮させ、右手で髪を弄った。何故か、その仕草がとても可愛らしく、温かい思いが心の奥で生まれた気がした。

 俺は義肢を二つ、アイラに見せた。左手の義手と右足の義足だ。

「これはツクルが作ったアイラのためだけの義肢なんだ」
「……私のためだけの?」
「ああ。アイラの魔力にだけ反応して、本物の手足のように扱える義肢。ただ、長時間扱うことはできない。長くても、三時間ほどしか無理なんだ」

 俺の魔導具師としての技術は、未熟だ。クラリスさんの手伝いがあっても、義肢は作れない。

 けど、それは誰でも使える技術、道具の話であって、たった一人のために、たった一人しか使えない、たった一人しか作れない、それ・・は違う。

 トリートエウの枝とか、死之行進デスマーチで貰った天災級の魔物の素材とか、色々な特別を使った。

 アテナ母さんに頼み込んで、教えてもらった伝説だったり禁忌だったりする魔法や、ユリシア姉さんが先日の稽古で使った〝魔力の手〟という使い過ぎると、本物の体となってしまう魔法なども使った。

 同じ物を作れともう一度言われたら、無理だ。

 ズルだ。巨人の肩に乗ることなく魔法で飛んで遠くを見るのは、先人が積み重ねた技術を無視して魔法で横着するのは、ズルだと思う。

 そんなズルをしても、俺は未熟なものしか作れなかった。

 その義肢は本物の手足として、扱える。流れる血の感触も、服の肌ざわりも、風の冷たさも、何かを掴む感触も、地面を蹴る力強さも感じられる。
 
 本当の手足として扱える。すぐに、一瞬にして体に馴染むだろう。

 だが、その代償として、三時間以上使うと、〝魔力の手〟と同様、体の一部となってしまう。それどころか、体の魔力を侵す可能性もある。

 ズルをしても、これなのだ。欠陥があるのだ。

 けれど、今日のアイラの望みを叶えるだけなら、十分だ。

「生誕祭の日、俺は作ると言った。翼無き竜の翼を」
「ッ」

 アイラは息を飲む。

「顔の方の細工の用意もできてる。街には、俺の協力者がいっぱいいる」

 今日の午後、ライン兄さんたちと一緒に街を回っていた分身体を使って、俺の知り合いに声を掛けた。全員理由を聞かず、協力してくれると言ってくれた。

「今日はお祭りだ。しかも、最終日。ちょっとくらいハメを外したって、誰もが許してくれる。誰もが気にしないでくれる」

 俺はアイラの右手を握った。

「一緒に、祭りに行かない? 見るだけじゃなくて、俺と一緒にダンスしてみない?」
「……はい!」

 アイラは万感の想いで頷いたのだった。
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