異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
283 / 316
収穫祭と訪問客

思うところはあるが、できることをする:the Jealousy and the disappointment 2

しおりを挟む
 気を失ったルーシー様は彼女のメイドが様子を見ていた。ライン兄さんやオルたちにも席を外して貰い、俺はロイス父さんたちやエウから事情を聞いていた。

「それで、なんで大魔境からしか発生しない瘴気が、ルーシー様から現れたの?」
「……その前に将棋をする」
「ダメ。まず、事情を教えて」
「……ぶー」

 エウは頬を膨らませる。ロイス父さんとアテナ母さんが溜息を吐く。

「セオ。話すから、エウ様の相手をしてやってくれないか?」
「お願い」
「……はぁ」

 俺は“宝物袋”から将棋盤と将棋の駒を取り出し、駒を並べる。エウもうっきうっきとしながら、駒を並べる。

 先攻後攻を決め片手間でエウの相手をしながら、俺はロイス父さんに尋ねる。

「そもそも、ロイス父さんたちはこれを予想してたの?」
「……まぁね。こんなに早く起きるとは思っていなかったけど」

 ロイス父さんが苦笑いした。俺はジト目になる。

「で?」
「……何から話せばいいか」

 ロイス父さんが言葉に迷っている間に、アテナ母さんが口を開く。

「セオ。前に大魔境も瘴気も星の正常システムじゃない事は話したわよね?」
「うん。だからこそ、そのシステムを正すために瘴気と対になる神聖魔力があるんでしょ? そこまでは分かるよ。けど、なんで、人から瘴気が現れるの?」

 人から瘴気が現れるというのは、脅威だ。

 瘴気は他者の魔力を強制的に侵食し、暴走させる。魂魄を侵し、別物へと変える。何より、瘴気に侵された魔物は、通常の魔物とは比べ物にならないほど凶悪になる。

 今回はルーシー様だった。けど、もし他の人が、街中を歩く名も知らない人が瘴気を発した場合、どんな惨事になるやら。

 だから、俺の言葉は少し強くなる。それを察しているアテナ母さんは穏やかな口調で言った。

「セオ、大丈夫。本当に稀なのよ。あんなこと、十年に二度もある方が可笑しいのよ」
「待って。ルーシー様以外にもあったの?」
「……ええ、まぁ。けど、それは後にしましょう」

 アテナ母さんはロイス父さんを見やる。ロイス父さんは頷き、俺に説明する。

「セオ。人が妖精になることはあると思う?」
「ある。前にクラリスさんが想いとか祈りとかで、妖精になるって言ってた」
「そうだね。それは正常な方法なんだ」
「正常?」

 まるで、正常じゃない方法があるみたいな言い方をする。そんな俺の内心を読んだアテナ母さん口を開く。

「妖人族は、妖精と人が交わった種族だとは知っているわよね。その始まりはいつからだと思うかしら?」
「いつから? かなり前からだとは思うけど」
「そう。かなり前なの。だから、純血の人族はいない。誰かしら、遠い祖先に妖精や精霊を持っているの」

 アテナ母さんの言葉に俺はハッと気が付く。

「……もしかしてだけど、貴族が魔法の力強いのって」
「ええ。血が少しだけ濃くでているの。ほんのちょっとだけね」
「……じゃあ、たまにその血が強く出たりするんでしょ。ルーシー様みたいに」
「ええ」

 アテナ母さんは頷く。ロイス父さんも俺と将棋をしているエウも静かに頷いた。けど、まだ、疑問が残る。

「それでもおかしいよ。だったら、妖人族の人は皆、瘴気を生まれる可能性があるということでしょ? でも、アテナ母さんたちの言葉から察するに、それはない」

 ……いや、そもそも瘴気は正常ではないのだ。いわゆるバグみたいなもの。

「妖精や精霊の血の出方がおかしかった? 体全体にではなくて、一部。局所的にというか、無理やり力が授かったかのような……」
「……そう、それ」

 俺と将棋をしていたエウが、俺の呟きに同意する。

「……妖人族でも、魔力は視えない。聴けない。触れない。彼らはまだ、肉体に囚われてるから。非実体である魔力の世界は、非実体の存在しか許されない。セオはは能力スキルを使って、それを垣間見ているだけ」
「じゃあ、ルーシー様は魔力が視えるの?」
「……いや、聴こえるだけ。それに片耳だけだし、あまり聴力もない。それでも人の身にはあまる力。あってはならない力」
「だから、瘴気が生まれた?」

 いや、それも可笑しい。なら、生まれた時に瘴気が発生していないといけない。

「セオ。先日の稽古の時に言ったかもしれないけど、魔力は思念に影響されるんだよ」
「生まれた時はギリギリ、瘴気が生まれないの。けど、暗くて嫌な感情で魔力に澱みができて、その澱みがある一定以上溜まると……」
「瘴気が生まれる?」
「ええ」

 エウがパチンと将棋を打ち、「……王手」と言う。俺は少し熟考しながら、打ち返す。

 エウは「……む。やるね」と呟く。そんなエウにロイス父さんが尋ねた。

「エウ様。僕たちとしても、ルーシー様に溜まっている魔力の澱みからして、まだまだ余裕があると思っていたんだ。基本、アレは対処療法しかないし」
「……うん。けど、それだと悠長すぎる。あの子みたいに、クソ精霊につけ入られないとも限らない。だから、無理やり淀むを作って早めた」
「クソ精霊?」
「……自分の利のために赤子を生かす殺さずをしたクソ野郎。クラリスがもう少し遅く来てたら、どうなっていたかっ」

 エウの語気が荒くなる。ついでに持っていた駒を握りつぶしてしまった。

 ……よほど、酷い事があったのだろう。

 と、突然、エウが俺を見やった。

「……だから、アナタには期待してる。ロイスやアテナじゃだめ。人として生きているアナタだからこそ、彼女を助けて欲しい」
「……はぁ」

 俺は要領を得ない頷きをする。エウはそんな俺の態度に溜息を吐いた。

「……どっちにしろ、あの子はもう、大丈夫。身に余る力を馴染ませたから、ちょっと違和感をもつかもしれないけど、今後一切瘴気が現れる事はない」
「その違和感は僕たちでどうにかするよ」
「……ん」

 エウは急に立ち上がった。

「……将棋は明後日にする。今日はもう、寝る」
「えぇ、勝手な……」

 「……収穫祭終わったら、丸一日使って将棋をしようね」と言って、木の葉を散らしてエウは消えた。

 俺はロイス父さんとアテナ母さんを見やった。二人は苦笑した。

「セオ。ルーシー様には僕たちが話すから、今日はもう休んでていいよ。疲れたでしょ」
「分かった。夕食の時になったら呼んで」

 俺は自室へと戻る。ベッドに横たわる。

 アルたちによってジャングルとなった天井を見上げながら、溜息を吐いた。

「はぁ。魔力が聴こえているっていう感覚が分からないけど、あの時の反応を見るに、王都の時点で俺の魔術バレてたよな」

 まぁ、誰にも言っていないのだろうが。確信をもっていたわけではないだろうし。

 ……ルーシー様大丈夫かな。

「はぁ。義肢の調整するか」

 王都から帰ってきて、ずっとやっている義肢づくり。色々と思うことがあって、エウに直接助言を貰った義肢は、たぶん、凄くいいところまでいっている。

 まぁ、使っている素材が貴重過ぎて、量産はできないが。

 義肢をいじりながら、俺はポツリと呟く。

「………………魔力が視える、ね」

 心当たりがある。

 しかも、“研究室ラボ君”が言っていた精霊の厄子という言葉も、ある程度予測がつく。

 けど、ルーシー様はそうでなかった。

 違いは魔力量か、先祖返った力の大きさが問題か。あとは、エウが言っていたクソ野郎のせいか。

 エウにいわれるまでもなく、友人として助けにはなりたいと思っている。

 けど、魔力の澱みか。澱みが生まれるほど、哀しい思いがあったんだろうか。

「………………はぁ。やめよやめよ。色々と考えても意味ない。ともかく、彼女用の義肢だけさっさと完成させよ」

 義肢を弄る音だけが部屋に響いた。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...