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収穫祭と訪問客

ベビーシッターとかの仕事をしたら、たぶん凄く成功する:the Jealousy and the disappointment 2

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 そこは家の中でも一番大きな部屋で、大広間らしい。そこに長机や椅子が並んでいた。

 イベント開始十分前から、子供たちが続々やってくる。

 どうやら前半組と後半組の二組で分けるらしく、前半は住宅街の東区と北区の子供たち、だいたい五十人くらい。あと、赤子の付き添いの人が十人近く。

 というか、ベビーラッシュもあり、三歳くらいまでの子が二十近くいる。マキーナルト領は六、七歳の子を境に数の差がかなりあるんだよな。

 ちょうど、領地が興ってから五、六年程度経った頃から、子供が増え始めたって感じだ。

 まぁ、どっちにしろ……

「いっぱいだ~~!! いっぱいだ~~!!」
「ねぇ、あれやってよ! アレ! 宙に浮いて!」
「叩いて消えてよ! ほら、間抜けな音出して!」
「アハハハハハハ!!!」
「キャハハハハハハ!!!」
「ギャハハハハハ! 痛いだって痛いだって! もっと引っ張れぇ~~!!」
「わ~~~ん!! 帰りたいよぉ~~~!! ママ~~~」
「うるさいわね! 黙ってなさいよ!」
「そうよ! ナヨナヨしてなさけないわね!」
「や~い。女に泣かされてやんの~~!!」
「アンタら騒がしいのよ!! せっかく泣き止んだアネモネがまた泣いちゃったじゃない!!」
「お前ら、黙れ!! ほら、落ち着けや!!」

 八歳の女の子、ニーヴと九歳の男の子、ライナスが騒ぐ子供たちを必死に落ち着かせている。

 それでも騒ぐ子供たちを落ち着かせるのは至難の技であり、分身体数十体を召喚して、俺も子供たちを落ち着かせる。

 魔法を見たがる子供に関しては、〝描光〟などの無属性魔法で興味を引き、椅子に座らせる。

 また、走りまくっている子供たちは〝浮遊〟で無理やり椅子に座らせる。それでも元気いっぱいで暴れ出しそうだったので、つい最近習得した指定した対象に対しての重力を増加させる〝楔地せつじ〟でいい感じに体力を消耗させて落ち着かせる。

 負けん気の強い女の子たちと泣き虫の男の子たちの間に入り、それぞれを離れた席に座らせる。

 そして泣く赤子に関しては、ブラウのお守で鍛えたセオ式二十三のあやし術で、確実に泣き止ませる。落ち着かせ過ぎて寝てしまう子もいるが、それはご愛敬。

 ヴォフォリクたちはもちろん、手伝い係の女性陣たちも驚きの目を俺に向けた。

「俺たちの今までの苦労は何だったんだ……」
「セオ様が居れば全て解決するんじゃね?」
「厄介ごとをばら撒く問題児だが、味方になるとこんなにも頼もしいとは……」
うちの息子に爪を煎じて飲ませたいわね」
「一家に一人欲しいほどだわ」
「そういえば、アテナ様が言うには、家事の一通りもできるらしいわね。というか、美味しい料理をいっぱい作ってたし! 何よりお菓子作りが得意!」
「猶更、喉から手が出るほど欲しいわ!」
「そうだ! 娘の嫁にっ!」
「いいわねっ! セオ様、貴族社会に興味なさそうだし、引きこもってやるとか宣言してたわよね!」
「腰を落ち着かせてくれたら、ロイス様達も安心するんじゃない!」
「いや、セオ君ってまだ五歳だよ!? おばさまたち何言ってるのっ!? ってか、嫁でいいのっ!?」
「大丈夫、家の娘も五歳よ!」
「いやっ、そういわけないでしょ! だいたい、その年齢の子たちってセオ様なんかよりも、エドガー様に夢中じゃん!」
「マキーナルト領の七不思議にすらなっているセオ様はそう面で人気ないわよ!」
「私の妹も、セオ様を頭のおかしな変な人としか認識してないわ! 大人っぽいエドガー様やライン様に夢中よ! そもそもあの子たちくらい時は、結局顔よ!」

 おばさまとお婆さんたちの言葉に、若い娘さんたちが驚き言い返す。ただ、その言い返した内容に俺は膝をついた。

 人気がない……

 い、いや、エドガー兄さんは面倒見が良かったから、そりゃあね。いろんな女の子たちに好かれてるよ。

 あと、俺、好き勝手やってるだけだから、女の子たちとあまり接点ないし。

 というか、俺、大人だから。見た目、子供だけど大人だから。子供には興味ないから。ロリコンとかではないし。

 でも、結局顔とか言われると、その傷つくな……

 俺は深く項垂れた。

 すると、誰かが優しく俺の背中を叩いた。振り返ると、涙を流したおっさん三人がいた。

「セオ坊、元気出せ。確かにお前の顔は趣き深い感じだが、まだ子供。成長すれば立派な美形になる。うん、ほら、お前さんの両親を見よ」
「それに、男は肉体だ。頼りがいだ。魔物をギッタンバッタン倒す奴がこの街では人気だぞ」
「子供たちはまだ、幼いからアレだが、大人たちの価値観では十分魅力的だぞ。落ち込むな」

 励ましてくれるおっさんたち。が、おっさんたちが普通に励ましてくれるわけでもなく。

「なぁ、ヴォフォリク。ふと思ったんだが、大人たちの価値観って、大抵結婚しているやつの考えだよな」
「確かにそうだな。結婚して、色々と達観するんだよな。うちの嫁も……すると、なんだ? セオ様は未婚者から好まれないのか?」
「というか、家事スキルとか領主の息子とかそこらへんを見るとかなりの好条件だが、結局問題児筆頭だからな。遠くから見ている分には楽しいが、一緒にいるのは普通に苦労するだろ」
「とすると、結局奇特な娘さんを探さないといけないのか」
「ってか、かなり頑固で面倒くさい性格してるからな。見合いするしかないんじゃないか?」
「そうだな。うむ、今度いい見合い相手を探そうではないか!」
「そうだな! 気が強いしっかりした女性が手綱を握ってくれそうだな!」

 ……なんか、余計に心を抉られた気がするんだけど。

 ま、まぁ、前世の頃から面倒な性格とは言われてたし、おっさんたちの言い分でフラれた事も多い……

 うっ。嫌な記憶がっ!!

「お~い。セオ! 大丈夫か?」
「兄ちゃんが倒れた! ぬぼっとした兄ちゃんが倒れた!」
「ぶんぶんが消えた! ぶんぶんがいっぱい消えちゃったよ!」
「う、う、うえぇ~~~~~~ん!!」

 と、前世の嫌な記憶がフラッシュバックしたせいで、分身体を消してしまったらしい。落ち着いた子供たちが再び騒ぎ出す。

 俺は慌てて分身体を再召喚して、再び子供たちを落ち着かせる。そしておっさんたち主導で、耳飾りとお守り作りが始まる。

 手伝いは分身体に任せ、本体の俺はすみっこで少し休んでる。

「はぁ、疲れた」

 俺はぼやきながら、子供たちの作業の様子を見やる。分身体の情報共有で分かってはいるが、本体の俺が直接目にして情報を得るというのも重要だ。

 耳飾りとお守りは基本、その年にたおした魔物の素材を使う。特に、強い魔物の素材だ。

 つまるところ、強い魔物の素材を身に着ける事によって、それよりも弱い魔物が寄って来なくなる。そういう意味がある。

 だから、材料集めこそ大人たちの腕の見せどころであり、今日、ここに来ていない大人たちが一丸となってアダド森林にいる凶悪な魔物を斃したのだ。

 放浪兵団の副団長のルルネネさんがここにいたのはその素材の管理と運搬をしにきたからだそうだ。

 魔物の素材、主に骨を耳飾りやお守りの大きさに切り分け、研磨しておく。子供たちはその骨に穴を開けてたり、小さな宝石や塗料などで模様をつけたりとするのだ。

 中には骨に彫刻を掘ったりする子もいる。

 昔からこの地を守ってきたエウを象った紋章さえ入れれば、後は子供たちの自由なのだ。

 が、向こう一年身に着けるものである。幼い子供たちが大好きな下ネタ方面の模様など、黒歴史になりそうなものをやめさせるのが俺たちの勤めだったりする。

 小学一年生に入る前に剣の模様が入ったカッコいいランドセルを選んだ事を、高学年になって後悔するなんて事はさせたくないからだ。

 ホント、前世での姉たちがそれで苦労してたし。

 ともかく、分身体の俺や女性人たち、あとルーシー様とクシフォスさんたちは、破天荒で突拍子もないことをしまくる子供たちに苦労していた。

 そしてようやく、前半組の耳飾り作りが終わったのだった。
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