異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
261 / 316
収穫祭と訪問客

弟子以外は、嘘は言っていない気もしなくもない:アイラ

しおりを挟む
 コンコン。

 夜中。アイラの部屋の扉が叩かれる。

「どうぞ、入ってください」
「失礼するぞ」

 寝間着姿のクラリスが現れた。ネグリジェを纏うアイラが座るベッドの前へと移動する。

「今日はどうだった?」
「特別変わりはなかったですよ」
「……そうか」

 アイラがシュークリームを食べた翌日。

 クラリスは再び転移でマキーナルト領から王城へと来ていた。

 理由は、

「ほれ。ククリ飴だ」

 クラリスが収穫祭で気に入ったお菓子や食べ物をアイラに渡すためだ。昨夜、アイラがクラリスに驚かされたお詫びも兼ねて、持ってくるように頼んだのだ。

「ククリ……というと、果物のククリですか?」
「うむ。そのククリに飴が纏っているというかの。まぁ、食べてみればわかると思うぞ」
「はい」

 アイラは、りんごにも似たククリ飴を受け取る。ククリ飴に刺さった木の棒を手に持ち、少し戸惑う。

「あの、クラリス様。どこから食べれば……」
「どこもでもよいらしい」
「どこでも……?」
「うむ。それと、少し固いから驚かんように」
「分かりました」

 頷いたアイラはゆっくりとククリ飴にその小さな唇をつける。

「ッ!」

 舌で感じられるほのかな甘みとフルーティーな香りに目を見開きつつ、恐る恐るククリ飴に歯を突き立てる。

 目を瞑りながら、思いっきり噛む。

「ん!」

 パリッと割れた飴が少し歯にくっつく。それと同時に、シャリシャリとククリを噛む音に響く。

 僅かな酸っぱさとフルーティーな甘さ。それに噛むたびに歯については溶けていく飴の甘さ。それが絶妙に口の中で混ざりあい、アイラは大きく目を見開く。

「気に入ったようだの」
「はい!」

 アイラは、口の周りが飴でベトベトになる事さえ新鮮なのか、頬を紅潮させる。

 う~ん! と唸ったり、少しジタバタしたり。

 嬉しそうに、それでいて大事そうに、じっくりゆっくりとククリ飴を食べ進めるアイラ。

 と、

「失礼します」

 三回ノックがされたかと思うと、リーナが強引に部屋に入ってきた。

 ククリ飴を食べていたアイラはビクッと肩を震わせた。実は、クラリスにお菓子をもってくるように頼んだことを伝えていなかったのだ。

 アイラは怒られるっと思ったが、しかしリーナはアイラに微笑む。

「アイラ様。美味しいですか?」
「……ええ、美味しいわよ」
「それは良かったです」

 リーナはアイラの返答に「よかったのぅ」と頬を緩ませていたクラリスを見やり、そして、

いたたたッ! ちょ、リーナ! 耳を引っ張らんでッ!」
「うるさいですよ。クラリス様」

 リーナがクラリスの長い耳を引っ張ったのだ。

 アイラが慌てる。

「り、リーナ!」
「アイラ様は気にしないで、そのお菓子を食べていてください。私はクラリス様をお話がありますので」
「わ、分かったわ」

 柔らかでありながら、どこか恐ろしい声音にアイラは焦ったように頷き、それから無心でククリ飴を食べ始める。

 そしてリーナは更にクラリスの長い耳を引っ張る。

「クラリス様。私の言いたいことは分かりますよね?」
「こ、この時間しかなかったのだ!」
「なら、猶更困ります。今日もですが、アイラ様は昼間、とても眠そうにしておられました。それは作業が手につかないほど」
「うっ」

 無心でククリ飴を食べていたアイラは、冷や汗を流す。が、リーナがこちらを見ない以上、余計な口を挟むとこじれると思い、必死にククリ飴を食べる。

「……分かった! 分かった! 明日からはもう少し早い時間に来る!」
「アイラ様がいつも寝る時間までには来てください。昨日や今日のようにこんな遅い時間でなければ、多少の夜更かしは大丈夫ですので。それと、夕方には〝念話〟か何かで私にどれくらいのお菓子やらを持ってくるか伝えてください。それにより、夕飯の量や栄養を変えますので」
「う、うむ! 分かったから、耳を引っ張らんでおくれ!」
「分かりました」

 リーナは淡々とクラリスの耳から手を離す。クラリスは赤くなった耳を抑えた。

 その様子に一瞬だけ、申し訳なさそうに顔を歪めたリーナは、チラリとアイラを見やる。

「アイラ様。そのように急がなくても大丈夫ですから」
「……でも」
「私は怒っていません。アイラ様のお付きのメイドとして、言わなければならないことを言ったまでです。アイラ様を責めているわけでもないです」

 むしろ……とリーナは続ける。

「普段、アイラ様は我がままを仰らないので、安心しているのです。そこは分かってください」
「……分かったわ」

 アイラは少し恐れながら、それでいて嬉しさを隠せない表情で頷き、急いで食べていたククリ飴を、再びゆっくりと食べ始めた。

 リーナは頬を緩めた。

「ところでクラリス様。アイラ様が食べているそれ。私は見たことないのですが」
「ああ、せ……ツクルが作ったものだ」
「ツクル様がですか?」

 リーナが首を傾げた。

「うむ。ほれ、ツクルは料理のレシピも作っておるだろ」
「そういえば、確かに」
「今回の収穫祭。ツクルも料理やお菓子で大きく関わっておっての。今回のために色々なレシピを作ったのだ」
「なるほど……」

 リーナは納得したように頷いた。

 と、逆にアイラが怪訝な表情になる

「あの、クラリス様。昨日食べたあのシュークリームは……?」
「む?」

 クラリスは一瞬、何の事だ? と首を傾げ、昨日の自分の発言を思い出す。

「それか。つまり、だの。シュークリームはツクルが作ったものだ。曲げわっぱはセオが作ったものだがの」
「でも、セオドラー様に作ってもらったと……」
「そ、その事だがの……」

 クラリスはやべっと焦る。ついでに、リーナが何やってるんですか!? とクラリスを睨む。

 アイラはそれに気が付かない。

 それにほっとしながら、クラリスはようやく平静を取り戻す。

「……ほれ。ツクルはレシピを作るだけなのだ。シュークリーム自体を作りはせん。それで、セオドラーは手先が器用での。お菓子作りも得意なのだ」
「ご自分でお菓子を作るのですか?」

 アイラは驚いたように目を見開く。貴族の息子なのにお菓子を作るということに驚いているのだ。

「うむ。趣味なのだ」
「……そうなのですか」

 趣味。

 そういえば、モノづくりをしていると行ってたし、そういうのがお好きなのね。とアイラは心の中で納得した。

 クラリスはアイラに気が付かれないよう、内心で安堵の溜息を吐いた。

 そのせいか、少々クラリスの口が緩む。

「それにの。ここだけの話、ツクルは儂のような存在なのだ」
「クラリス様のような存在……?」

 アイラはその魔力を見通す瞳でクラリスを見やる。

 尋常でないほどの量と密度、神聖さを持つ、いわば妖精や精霊に近いクラリスの魔力。人ならざる魔力。

 アイラは納得する。

「だからの、あやつは表舞台にはあまり上がってこんのだ」
「そうなの……ですか」

 アイラは少し寂しそうに、頷いた。

 クラリスが慌てる。

「だ、だがの! あやつもそれでは困ると思ったのか、自分によく似た魔力の持ち主を弟子にしたのだ」
「……もしかしてそれがセオドラー様ですか?」
「うむ。だから、セオはレシピ開発に携わっているから、料理ができたりするのだ」
「そうなのですね」

 アイラは心から納得したように頷く。

 今まで感じていたセオドラーの魔力の違和感や、セオドラーの雰囲気が手紙のツクルと少し似ていることなど。全てに納得がいったのだ。

 そんなアイラの様子に、これでよかったかのぅ? とクラリスは若干首を捻ったのだった。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...