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収穫祭と訪問客

演技かどうかはおいておいても、みんな可愛いしデレデレはする:Harvest festival

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 ルーシー様たちが自分たちの部屋に荷物を入れ終え、ロイス父さんが軽く屋敷を案内していたころ。

 俺たちはリビングで待機していた。

「ねぇ、そういえばブラウはどうするの? ほら、なんか、貴族って三歳になるまでは正式に発表しないんでしょ?」
「どうなんだろ? さっきはブラウが寝てたから部屋でユナさんに面倒を見てもらってたけど……」

 俺とエドガー兄さんが首を傾げた。

 すると、少しお手洗いに消えていたユリシア姉さんがブラウを抱っこしながら、リビングに帰ってきた。

「あい!」
「あ、ブラウ。危ないわよ!」
「あうぅ!!」

 ここ最近のブラウは動きたがりというか、抱っこされるのが窮屈になったらしい。ユリシア姉さんの腕から降りようと暴れていた。

 ユリシア姉さんは仕方なさそうにブラウを床に降ろす。

「エオ! だ~だば!」
「え、どうしたの?」
「あう! いね! エン! う~きぃ!! い~ち!!! あ~だだぶ!!」

 解放されたブラウが俺に飛び込んできて、何か必死に訴えた。ユリシア姉さんが困ったように眉を八の字にした。

「さっきから、そればかりなのよ。突然目を覚ましたと思ったら、そればかり言って、ユナが困ってたのよ」
「それでユリ姉が?」
「ええ、泣き声が聞こえたから。セオなら何か分かるんじゃないかって」

 ユリシア姉さんが俺を見る。俺はブラウを見やった。

「あう! いね! エン! う~きぃ!! い~ち!!! あ~だだぶ!!」
「……ええっと、アルとリュネとケンとユキ、ミズチ? がどうしたの?」
「だ~だ!! あ~いぅあ!!」
「う~ん」

 俺はライン兄さんの方を見る。ライン兄さんが首を横に振る。

「ミズチ達のことを言っているんだと思うんだけど、僕も分からないよ」
「まだブラウ、名前しか言えないしね」

 う~ん、と俺とライン兄さんが首を捻った。

 と、

「あれ、そいうえば、ユキたちはどこよ?」
「そういえば……」
「みんなで俺の部屋で遊んでたから、そのままにしていたんだけど……」

 俺は“気配感知”でアルたちの気配を探る。

 そして、青ざめた。

「やべ」
「え、どうしたのよっ?」
「どうもなにも――」

 俺がブラウを抱きかかえながら、慌てて立ち上がろうとしたとき。

「――――――――!!!!!!」

 悲鳴が屋敷に響いた。

 ルーシー様の悲鳴だった。


 Φ


 結局の所、何があったのかといえば、

「アルル……」
「リュネ……」
「ケン……」
「シュー……」
「ヌーヌ……」

 アルたちがルーシー様に飛びついたらしい。本人たちは体当たりのつもりだったらしいが。

 そう体当たりなのだ。

 そしてその体当たりを受けたルーシー様が、

「あ、落ち込まないで! アナタたちは悪くないわ! だから、ね?」

 アルたちの可愛さに悲鳴を上げたということらしい。

 今も、落ち込んでいるアルたちに頬をデレデレさせながら、ワタワタしていた。

 俺とライン兄さん、あと、オルドナンツや他の面々。つまるところ、ユリシア姉さん以外は皆、驚いたようにその様子を見ていた。ぶっちゃけ、色々と驚き過ぎて声が出ない。

 いや、だって、冷徹って言葉がよく似合うルーシー様からそんな表情がでるとは思わなかったし。

 特にオルドナンツの引き具合が半端ない。引いているというか、滅茶苦茶怯えている。

「セ、セオ。ババアが、いつも暴力ばかり俺に振るうあいつの頭がおかしくっ! なぁ、おい、どうすればいいんだ!」
「いや、知らないよ。っつか、ルーシー様をババア呼ばわりするのやめた方がいいよ」
「そんなこと言っている場合か! マジで、俺、死ぬのか!? なぁ!」
「そんなに騒げるなら死なないよ」

 俺の肩を揺さぶって、オルドナンツはガクガクと震える。

 俺は困ったようにロイス父さんとアテナ母さんを見やる。二人も困ったような表情をしていた。

 と、

「あ~だぶ!」
「あ、ちょっと、ブラウ!」

 ヨタヨタと歩いたブラウが落ち込むアルたちの前に立ちふさがり、アルたちを守るようにルーシー様に両手を広げた。
 
 ルーシー様を強く睨みつける。

「あ~だ!!」
「ッッッッッ!!!!」

 ルーシー様が声にならない悲鳴を上げた。

 そして、一転。凜とした表情で、ロイス父さんとアテナ母さんにとても美しいカーテシーをした。

「ロイス様、アテナ様。ご息女を我がバールク公爵の養子にすることを許してくださいませんでしょうか?」
「無理です」
「無理よ」

 ロイス父さんたちは即答。っというか、ヂェエルやヴィジット、クシフォスさんが慌て始める。

 色々とまずい発言だからな。

「ルーシー嬢――」

 だからか、ヴィジットがを止めようとして、その前にルーシー様が少し頬を赤く染めて咳払いした。

「こほん」

 先ほどと同じ、美しいカーテシーをロイス父さんたちにした。

「……大変お見苦しいところをお見せしました」
「いえ」

 ロイス父さんが困った表情をした。

 が、次の瞬間。

「失礼を承知でお願いします。何も・・見なかったことにしてもらえませんでしょうか?」
「……分かりました」

 ロイス父さんは少し納得したような表情で頷いた。

 ……つまり、アルたちがルーシー様に体当たりしたこととかを不問にするということか?

 と思ったら、ライン兄さんが首を横に振って、こしょっと俺に教えてる。

「いや、たぶんだけど、アルたちの事とか、ブラウに関しても見なかったことにするんじゃない?」
「そういうことか」

 なるほど。

 ルーシー様のあのデレデレも落としどころをつけるための演技だったのか。

 まぁ、それにしては他にもやりようがあったと思うが……

 しかし、ロイス父さんたちが納得しているようだったので、まぁいいか。

 それから、ロイス父さんが収穫祭の予定などをルーシー様たちに話していた。


 Φ


『セオ。ちょっといいかしら?』

 ルーシー様たちはどうやら、収穫祭でいくつか王家の代理として色々と出席することがあるらしく、ロイス父さんと予定の最終確認をしていた。

 俺はその話についていけなくなったオルドナンツの絡みをいなしていたのだが、

『どうしたの、アテナ母さん?』

 〝念話〟でアテナ母さんにこっそりと呼ばれた。

「おい、セオ。どうしたんだ!」
「トイレだよ。トイレ」

 そういってリビングを出た俺は廊下の奥にいたアテナ母さんに首を傾げた。

「それで、どうしたの?」
「お願いがあるのよ」
「お願い?」

 やけに真剣な表情をしているアテナ母さんに俺は不審に思う。

「ルーシー様を見張っていてほしいのよ」
「見張る?」
「……いえ、言い方が悪かったわ。守ってほしいのよ」

 どういうことだ?

「軽く話したのだけれども、ルーシー様たち、お忍びで収穫祭に参加したいらしいの」
「まぁ、それは事前に分かってたよ。だから、オルドナンツのこともあるし、収穫祭の案内くらいは――」
「そういうことではないわ」
「……どういうこと?」

 不穏な空気を感じて、俺は首をかしげる。

「街には、使役されている魔物もいる。共存している精霊や妖精もいるわ」
「まぁ。といっても精霊たちは一定の人以外会わないけど」
「収穫祭の時だけか、かなり動きが活発になるのよ」
「それで?」

 アテナ母さんが声音を低くして、言った。

「こちらも気を付けるように周知させるけど、彼らがルーシー様を襲わないように守ってほしいのよ。もちろん、ユリシアやラインにも頼むわ」
「……精霊たちがルーシー様を襲う理由は? 確証があるんでしょ?」
「……言えないわ。キチンとした確認が取れてないのよ。私たちもさっき、アルたちの行動で気づいたばかりだもの」

 ……つまり、アルたちが体当たりしたのには明確な理由があるのか。

「それに、あくまで念のためによ。そこまで深刻なものではないわ」
「……分かったよ。気を付けておくよ」
「悪いわね」

 アテナ母さんは申し訳なさそうに頭を下げた。
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