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収穫祭と訪問客
楽しいことは分け合えば、いずれ数倍にもなって返ってくる……かも?:painting
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「それで何で板に絵を描いているのよ?」
ユリシア姉さんがブラウが描いた絵を見やる。
「ほら、スマートボールの盤。あのままじゃ殺風景でしょ?」
「だから、絵を描くの?」
「うん」
俺はライン兄さんに頷く。
「それで、例えばボールが落ちる穴も動物の口とかにして、かっこいい動物の口の中にボールを落とせたら得点が高いとか、さ。ほら、色々楽しみができるじゃん。高い得点を狙わなくても、子供たちがそういうのに夢中になれたらいいなって」
「なるほど。面白そうだよ!」
「それはいいわね! 魔物を倒すとか楽しそうだわ!」
「そ、そうだね」
何故、直ぐにそういうことが思いつくのか。発想力は凄いのだが、少しだけユリシア姉さんが心配になる。
そう思いながら、俺はユリシア姉さんとライン兄さんの板とパレット、絵具を取り出す。二人に渡す。
「はい」
「ありがとう、セオ」
「ありがと、セオ!」
ライン兄さんとユリシア姉さんは早速受け取った板に絵を描いていこうとする。
「あ、ちょっと待って!」
「何よ?」
「何?」
「いや、ライン兄さんは心配してないんだけどさ。ユリシア姉さん」
「何よ! 私は描いちゃダメって言うの!?」
「いや、違うよ」
プリプリと怒るユリシア姉さんを宥める。
「ライン兄さんは分かっていると思うけど、二人に渡した絵具は危険なやつもあるからさ」
「危険?」
「うん。流石に手についただけで発疹がでるものはないけど、絵具が手に着いたまま目をこすったり、あとは舐めたりも駄目だから。最悪、失明したり、倒れることもあるから!」
「わ、分かったわよ。ラインにそこらへんはキチンと聞くわ」
「僕も気を付けておくよ」
「うん。それだけ気を付けてれば、あとは自由に描いていいよ」
そして、ユリシア姉さんとライン兄さんは頷き、それぞれ板に絵を描き始めた。俺は構ってもらえなくて少しふてくされていたブラウの機嫌を取りながら、もう一枚、一緒に描いた。
Φ
「できたわ!」
「僕もできたよ」
「おぉ」
「おお!」
黙々と描き始めて数十分。ユリシア姉さんとライン兄さんがそう言って、俺に板に描いた絵をみせてきた。
俺はその二つを見て、感嘆の声を上げる。ブラウも嬉しそうに、笑った。
「ユリシア姉さんのは……何、これ?」
「何って、セオがいつも稽古で放ってくる魔法よ! ボールがこの魔法を撃ち落とすのよ!」
ユリシア姉さんの絵はお世辞にも上手と言えないが……なるほど。宙に浮かんでいる大きな丸い赤色とか水色とか、確かに魔法に見えなくもない。
それにしても絵はともかくとして、打ち出したボールで魔法を撃ち落とすって発想は面白いな。俺だと考えつかない。
「ユリシア姉さん、面白いよ、これ」
「うん。僕も面白いと思う」
「そうでしょ、そうでしょ!」
ユリシア姉さんはふふんっとドヤ顔をした。可愛いな。
「それで、ライン兄さんのは……おお、凄い」
ライン兄さんは相変わらず絵が上手い。普段使わない板というキャンパスなのにも関わらず、繊細なタッチや躍動感のある絵。
描かれているのは夏の入道雲と青空を背に飛ぶ鳥たちの絵なのだが、ちょっと見つめているだけで鳥たちが羽ばたき、鳴いている姿がありありと目の裏に浮かぶほどだった。
ただ、気になったのは数羽の鳥の大きさがとても大きいこと。
そんな俺の疑問を読み取ったのか、ライン兄さんが鼻息を荒くしながら、言う。
「ここに穴を開けるんだよ!」
「え!? いや、だって、こんなに羽の隅まで丁寧に描いている――」
「そりゃあ、当り前じゃん。そう描かないと、全てが駄目になるもん!」
「いや、え? どういうこと?」
わけも分からず、俺は首をかしげた。すると、ライン兄さんではなくユリシア姉さんが俺の疑問に答えた。
「ほら、セオ、あれよ! 父さんだっていつも剣の稽古で残身を残せって言っているでしょ! あれと同じよ」
「あ、そう。それ! もともとあった鳥をくりぬいて、そこにボールが落ちる! その瞬間に再び鳥が蘇るんだよ!」
……ライン兄さんはユリシア姉さんの言葉のどこに頷いたんだ?
余計混乱してくる。
しかし、二人が言わんとするニュアンスはなんとなくだけど、分かった気がする。
そして、二人の絵を見て思った。
「ねぇ、自分で作ってみる?」
「自分でって、そのスマートボールってやつ?」
「そうそう。ほら、どうやって穴を開けるか自分で考えたんだし、だったら自分で作った方がいいかなって。釘の打ち方とか、どうやったらボールが入りにくくなるとかは教えるからさ」
「それはいいわね! やりたいわ!」
「うん。僕も正直自分でやりたいと思ってた」
だろうね。
絵を描いておしまいってのも寂しいものだし、自分で最後まで作りたいのはとても分かる。自分だけのものだと思うし。
そう思ったとき、
「そうだわ。なら、セオ! 皆でするわよ!」
「え、皆? 無理だと思うけど」
ユリシア姉さんが突拍子もないことを言った。皆って、アテナ母さんたちとかは仕事で忙しいと思うんだけど。
「違うわよ、セオ! 母さんたちじゃないわ!」
「え、誰?」
「ベレッタたちよ! 今、収穫祭の準備で忙しくて、暇してるのよ!」
言葉が物凄く足らない。
ええっと、ベレッタって確かユリシア姉さんと同じ年の女の子だっけ?
つまり、
「街の子供たちと一緒に作ろうってこと?」
「そうよ! だって、これ、皆のための遊びなんでしょ?」
「まぁ、子供が一番楽しめる出し物を考えたけど……」
「だったら、自分たちで好きに作って、友達のを遊んだほうが楽しいじゃない!」
「……確かに」
何の邪気もない笑顔でそういうユリシア姉さんに俺は唸る。
いや、うん、物凄くいいアイデアだよ。ホント。
大人たちだって、子供が創ったもので遊べるなら、それはそれでとても面白いだろうし、魔黒狩りくらいしか、収穫祭は子供たちで遊べるのがなかったんだ。
自分たちで何か作って、それを大人たちに披露するっていうのは、とてもいい! 文化祭らしくて面白い気がする!
俺は興奮する。ライン兄さんも感心したような様子だった。
「凄いよ、ユリシア姉さん。天才だよ!」
「ホント、ユリ姉ってそういうことに関しては凄いよ!」
「すおいよ!」
「そうでしょ、そうでしょ!」
俺らの雰囲気に当てられキャッキャと笑うブラウを抱き上げながら、ユリシア姉さんはドヤ顔をする。絵を褒めたよりもドヤ顔だ。
高笑いすら聞こえそうだった。
「あ、でも、それって今からだよね」
「ええ! 何、駄目なの?」
「いや、そのアイデア自体は駄目じゃないと思うし、材料とかも道具とかも直ぐに揃えられるけど……」
そう言いながら、俺はブラウを見やる。
「ブラウはどうしようか、って。分身体を残してもいいけど、流石に可哀そうじゃない?」
そう、ブラウはまだ家の敷地外を出ることができない。
マキーナルト領の古くから続く慣習で、産まれた子供は一定の年齢になるまで敷地外に出せないのだ。
魔物がそこらじゅうを跋扈していた昔、幼子が勝手に家を出て魔物に襲われて亡くなるケースが多かったからだ。
だから、必ず一人は幼子を家の中で見ている必要がある。
そうやって続き、やがてそれは慣習となった。
今は五歳。一応、特例でマキーナルト家の子供は三歳となっているが、それまでは外に出ちゃダメなのだ。
と、思ったとき。
「ただいま」
「ただいま帰りました」
「あ、母さんとレモンが帰ってきたわ」
玄関の方から、アテナ母さんとレモンの声が響いた。
そして、二人は手を洗った後、迷わずリビングに来た。
「あなたたち、それ、どうしたのよ?」
「素敵な絵ですね?」
アテナ母さんとレモンはコリントゲームと板に描かれた絵に目をやった。
ユリシア姉さんが二人に駆け寄る。
「母さん! レモン! このあと大丈夫!?」
「どうしたのよ?」
アテナ母さんが首を傾げた。
「ええっと、こういうことで――」
俺が事情を説明した。
「……なるほどね」
俺の説明を聞いて、アテナ母さんは頷いた。それから微笑む。
「それなら大丈夫よ」
「大丈夫?」
「ええ。今日は街で会議があってね。その中にその慣習についての議題もあったのよ」
アテナ母さんはブラウの頭を優しくなでながら、続けた。
「ここ最近は出生率が増えてきたでしょ? それで、面倒を見れる人が足りなくなって、特にお母さんたちが仕事に出れなくなったのよ。昔は赤子の数が少なかったから、みんなで見れていたんだけどね」
なるほど。確かに。
そういう問題は起こるよな。特に他のところは違うが、マキーナルト領では男女ともに働く人が多い。
魔物という災害に常にさらされていたからこそ、男も女も関係なく仕事をしなくてはならなかったのだ。
どちらにしろ、幼子を家で面倒を見てくれる人が足りなくなって、お母さんたちが仕事に復帰できなくなっていたのか。
「だから、ほら、以前セオが保育園とか言っていたでしょ?」
「そういえば、ブラウについて話していた時にそんな話をしたかも」
「それで、子供を集める施設を作るのは今は無理だけど、子育ての技術があって、子供の気配を常に感知できる人を限定に、その人がいれば赤子であっても敷地外を出ていいっていう規則というか、資格みたいなのは作れたのよ」
「ベビーシッターさんってこと?」
「まぁ、そういうことね」
そう言いながら、アテナ母さんはレモンを見やった。
「私はまだ仕事だけど、レモンは暇よ。そしてレモンはその資格を持ってるわ。今日、決まったのだけれども、まぁ周知の面では私たちが一番に実践するのがいいでしょう」
「つまり、レモンがいればブラウも一緒に外に出れるってこと?」
「そういうこと。楽しんでらっしゃい」
俺たちはアテナ母さんの許可もあり、ブラウとレモンと一緒に街に繰り出した。
そして、街で集められる限りの子供たちを集めて、スマートボールを作った。
ユリシア姉さんがブラウが描いた絵を見やる。
「ほら、スマートボールの盤。あのままじゃ殺風景でしょ?」
「だから、絵を描くの?」
「うん」
俺はライン兄さんに頷く。
「それで、例えばボールが落ちる穴も動物の口とかにして、かっこいい動物の口の中にボールを落とせたら得点が高いとか、さ。ほら、色々楽しみができるじゃん。高い得点を狙わなくても、子供たちがそういうのに夢中になれたらいいなって」
「なるほど。面白そうだよ!」
「それはいいわね! 魔物を倒すとか楽しそうだわ!」
「そ、そうだね」
何故、直ぐにそういうことが思いつくのか。発想力は凄いのだが、少しだけユリシア姉さんが心配になる。
そう思いながら、俺はユリシア姉さんとライン兄さんの板とパレット、絵具を取り出す。二人に渡す。
「はい」
「ありがとう、セオ」
「ありがと、セオ!」
ライン兄さんとユリシア姉さんは早速受け取った板に絵を描いていこうとする。
「あ、ちょっと待って!」
「何よ?」
「何?」
「いや、ライン兄さんは心配してないんだけどさ。ユリシア姉さん」
「何よ! 私は描いちゃダメって言うの!?」
「いや、違うよ」
プリプリと怒るユリシア姉さんを宥める。
「ライン兄さんは分かっていると思うけど、二人に渡した絵具は危険なやつもあるからさ」
「危険?」
「うん。流石に手についただけで発疹がでるものはないけど、絵具が手に着いたまま目をこすったり、あとは舐めたりも駄目だから。最悪、失明したり、倒れることもあるから!」
「わ、分かったわよ。ラインにそこらへんはキチンと聞くわ」
「僕も気を付けておくよ」
「うん。それだけ気を付けてれば、あとは自由に描いていいよ」
そして、ユリシア姉さんとライン兄さんは頷き、それぞれ板に絵を描き始めた。俺は構ってもらえなくて少しふてくされていたブラウの機嫌を取りながら、もう一枚、一緒に描いた。
Φ
「できたわ!」
「僕もできたよ」
「おぉ」
「おお!」
黙々と描き始めて数十分。ユリシア姉さんとライン兄さんがそう言って、俺に板に描いた絵をみせてきた。
俺はその二つを見て、感嘆の声を上げる。ブラウも嬉しそうに、笑った。
「ユリシア姉さんのは……何、これ?」
「何って、セオがいつも稽古で放ってくる魔法よ! ボールがこの魔法を撃ち落とすのよ!」
ユリシア姉さんの絵はお世辞にも上手と言えないが……なるほど。宙に浮かんでいる大きな丸い赤色とか水色とか、確かに魔法に見えなくもない。
それにしても絵はともかくとして、打ち出したボールで魔法を撃ち落とすって発想は面白いな。俺だと考えつかない。
「ユリシア姉さん、面白いよ、これ」
「うん。僕も面白いと思う」
「そうでしょ、そうでしょ!」
ユリシア姉さんはふふんっとドヤ顔をした。可愛いな。
「それで、ライン兄さんのは……おお、凄い」
ライン兄さんは相変わらず絵が上手い。普段使わない板というキャンパスなのにも関わらず、繊細なタッチや躍動感のある絵。
描かれているのは夏の入道雲と青空を背に飛ぶ鳥たちの絵なのだが、ちょっと見つめているだけで鳥たちが羽ばたき、鳴いている姿がありありと目の裏に浮かぶほどだった。
ただ、気になったのは数羽の鳥の大きさがとても大きいこと。
そんな俺の疑問を読み取ったのか、ライン兄さんが鼻息を荒くしながら、言う。
「ここに穴を開けるんだよ!」
「え!? いや、だって、こんなに羽の隅まで丁寧に描いている――」
「そりゃあ、当り前じゃん。そう描かないと、全てが駄目になるもん!」
「いや、え? どういうこと?」
わけも分からず、俺は首をかしげた。すると、ライン兄さんではなくユリシア姉さんが俺の疑問に答えた。
「ほら、セオ、あれよ! 父さんだっていつも剣の稽古で残身を残せって言っているでしょ! あれと同じよ」
「あ、そう。それ! もともとあった鳥をくりぬいて、そこにボールが落ちる! その瞬間に再び鳥が蘇るんだよ!」
……ライン兄さんはユリシア姉さんの言葉のどこに頷いたんだ?
余計混乱してくる。
しかし、二人が言わんとするニュアンスはなんとなくだけど、分かった気がする。
そして、二人の絵を見て思った。
「ねぇ、自分で作ってみる?」
「自分でって、そのスマートボールってやつ?」
「そうそう。ほら、どうやって穴を開けるか自分で考えたんだし、だったら自分で作った方がいいかなって。釘の打ち方とか、どうやったらボールが入りにくくなるとかは教えるからさ」
「それはいいわね! やりたいわ!」
「うん。僕も正直自分でやりたいと思ってた」
だろうね。
絵を描いておしまいってのも寂しいものだし、自分で最後まで作りたいのはとても分かる。自分だけのものだと思うし。
そう思ったとき、
「そうだわ。なら、セオ! 皆でするわよ!」
「え、皆? 無理だと思うけど」
ユリシア姉さんが突拍子もないことを言った。皆って、アテナ母さんたちとかは仕事で忙しいと思うんだけど。
「違うわよ、セオ! 母さんたちじゃないわ!」
「え、誰?」
「ベレッタたちよ! 今、収穫祭の準備で忙しくて、暇してるのよ!」
言葉が物凄く足らない。
ええっと、ベレッタって確かユリシア姉さんと同じ年の女の子だっけ?
つまり、
「街の子供たちと一緒に作ろうってこと?」
「そうよ! だって、これ、皆のための遊びなんでしょ?」
「まぁ、子供が一番楽しめる出し物を考えたけど……」
「だったら、自分たちで好きに作って、友達のを遊んだほうが楽しいじゃない!」
「……確かに」
何の邪気もない笑顔でそういうユリシア姉さんに俺は唸る。
いや、うん、物凄くいいアイデアだよ。ホント。
大人たちだって、子供が創ったもので遊べるなら、それはそれでとても面白いだろうし、魔黒狩りくらいしか、収穫祭は子供たちで遊べるのがなかったんだ。
自分たちで何か作って、それを大人たちに披露するっていうのは、とてもいい! 文化祭らしくて面白い気がする!
俺は興奮する。ライン兄さんも感心したような様子だった。
「凄いよ、ユリシア姉さん。天才だよ!」
「ホント、ユリ姉ってそういうことに関しては凄いよ!」
「すおいよ!」
「そうでしょ、そうでしょ!」
俺らの雰囲気に当てられキャッキャと笑うブラウを抱き上げながら、ユリシア姉さんはドヤ顔をする。絵を褒めたよりもドヤ顔だ。
高笑いすら聞こえそうだった。
「あ、でも、それって今からだよね」
「ええ! 何、駄目なの?」
「いや、そのアイデア自体は駄目じゃないと思うし、材料とかも道具とかも直ぐに揃えられるけど……」
そう言いながら、俺はブラウを見やる。
「ブラウはどうしようか、って。分身体を残してもいいけど、流石に可哀そうじゃない?」
そう、ブラウはまだ家の敷地外を出ることができない。
マキーナルト領の古くから続く慣習で、産まれた子供は一定の年齢になるまで敷地外に出せないのだ。
魔物がそこらじゅうを跋扈していた昔、幼子が勝手に家を出て魔物に襲われて亡くなるケースが多かったからだ。
だから、必ず一人は幼子を家の中で見ている必要がある。
そうやって続き、やがてそれは慣習となった。
今は五歳。一応、特例でマキーナルト家の子供は三歳となっているが、それまでは外に出ちゃダメなのだ。
と、思ったとき。
「ただいま」
「ただいま帰りました」
「あ、母さんとレモンが帰ってきたわ」
玄関の方から、アテナ母さんとレモンの声が響いた。
そして、二人は手を洗った後、迷わずリビングに来た。
「あなたたち、それ、どうしたのよ?」
「素敵な絵ですね?」
アテナ母さんとレモンはコリントゲームと板に描かれた絵に目をやった。
ユリシア姉さんが二人に駆け寄る。
「母さん! レモン! このあと大丈夫!?」
「どうしたのよ?」
アテナ母さんが首を傾げた。
「ええっと、こういうことで――」
俺が事情を説明した。
「……なるほどね」
俺の説明を聞いて、アテナ母さんは頷いた。それから微笑む。
「それなら大丈夫よ」
「大丈夫?」
「ええ。今日は街で会議があってね。その中にその慣習についての議題もあったのよ」
アテナ母さんはブラウの頭を優しくなでながら、続けた。
「ここ最近は出生率が増えてきたでしょ? それで、面倒を見れる人が足りなくなって、特にお母さんたちが仕事に出れなくなったのよ。昔は赤子の数が少なかったから、みんなで見れていたんだけどね」
なるほど。確かに。
そういう問題は起こるよな。特に他のところは違うが、マキーナルト領では男女ともに働く人が多い。
魔物という災害に常にさらされていたからこそ、男も女も関係なく仕事をしなくてはならなかったのだ。
どちらにしろ、幼子を家で面倒を見てくれる人が足りなくなって、お母さんたちが仕事に復帰できなくなっていたのか。
「だから、ほら、以前セオが保育園とか言っていたでしょ?」
「そういえば、ブラウについて話していた時にそんな話をしたかも」
「それで、子供を集める施設を作るのは今は無理だけど、子育ての技術があって、子供の気配を常に感知できる人を限定に、その人がいれば赤子であっても敷地外を出ていいっていう規則というか、資格みたいなのは作れたのよ」
「ベビーシッターさんってこと?」
「まぁ、そういうことね」
そう言いながら、アテナ母さんはレモンを見やった。
「私はまだ仕事だけど、レモンは暇よ。そしてレモンはその資格を持ってるわ。今日、決まったのだけれども、まぁ周知の面では私たちが一番に実践するのがいいでしょう」
「つまり、レモンがいればブラウも一緒に外に出れるってこと?」
「そういうこと。楽しんでらっしゃい」
俺たちはアテナ母さんの許可もあり、ブラウとレモンと一緒に街に繰り出した。
そして、街で集められる限りの子供たちを集めて、スマートボールを作った。
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