異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
249 / 316
収穫祭と訪問客

何でも上手と思わせるのは小さい子の特権だろう:painting

しおりを挟む
「で、どうするのよ」
「まぁ、読むしかないんじゃない?」
「けど、今、読みたくはないよね」
「うん」

 俺とライン兄さん、ユリシア姉さんは現実逃避の表情で頷きあう。今、読みたくはない。ちょっと、嫌だ。

 もうちょっと、心の準備ができてから読んだ方がいいだろう。

 なので、手紙を読むのは後回しにすることにした。ブラウはそんな俺たちを見て首をかしげていた。

「そういえば、セオ。父さんが来る前のアレ、何なのよ。スマートボールとか言っていたけれども」
「そういえば、ずっとトンカントンカン、してたけど……」
「ああ」

 俺は頷き、“宝物袋”から完成したスマートボールを取り出す。

「収穫祭、今回は色々な人が楽しめるようにするでしょ?」
「それもセオのアイデアだって聞いたけど」
「まぁ、ポロリと夏祭りとか言っちゃったからね。去年よりも、たぶん、俺が知っている祭り感が増すと思うんだけど……」

 祭りというと、前世では多くの人は屋台が立ち並ぶのを思い浮かべるだろうが、こっちの世界で祭りといえば、まつりとかそっから来るもので、つまり感謝を称えるとかそっちに近い。

 大きな出し物を皆で行うって感じだ。ねぷた祭りとかそんな感じだろう。多少、屋台とかはあったものの、去年の収穫祭はそれに近かった。

「まぁ、そんなことはいいわ。それで、何なのよ、これは」
「ええっと、ちょっと待っててね」

 ブラウを抱きかかえ、スマートボールを睨むユリシア姉さんをなだめながら、俺は“宝物袋”から軽い金属で作った球体を取り出す。

 それをスマートボールの発射台のところに入れ、俺お手製のコイルバネが仕込んであるレバーを引いた。

「見ててね」
「ええ」
「うん」
「あい!」

 そして引いたレバーを離した瞬間、

「む」
「おお!」
「あうあぁ!」

 圧縮されたコイルバネが解放され、金属球をね上げる。

 金属球はスマートボールの上部分にぶつかって跳ね返り、盤上に打ち込んだ釘や板などに当たって軌道を変えながら、一つの穴に落ちた。

「まぁ、こんな感じ。それで、落ちた穴によって得点が決まってて、高い方が勝ちって感じかな?」
「凄いわ、これ。面白そう!」
「これ、セオが考えたの?」
「あ~う、あ~う」
「あ、いや……ブラウ。ちょっと待って。まだやすりを掛けてないから、危ない」
「う~!!」

 ユリシア姉さんが奪うように遊び始めたスマートボールに興味津々のブラウをどうとかなだめながら、俺はライン兄さんの言葉に首を横に振った。

「前世にあった遊戯の一つだよ。俺が考えたわけじゃない」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、やっぱり、セオって凄いね!」
「うん?」

 俺は首を傾げた。ライン兄さんが楽しそうに言う。

「だって、知っていても実際、作るのって大変じゃん。ぶっちゃけ、一から自分流で生み出した方が、簡単だし」

 ライン兄さんの様子を見れば、本心でそれを言っていて、俺を褒めているのだろうと分かる。

 しかし、実際のところ、一から物を作ることが多いライン兄さんだからこそ、そう言えるのだろうとは思う。

 ライン兄さんをよく知らない人が聞けば、嫌味だと思ってしまう可能性が高いかもしれない。
 
 なので、それを忠告するべきなんだろうけど……

「ありがと、ライン兄さん」

 忠告することはない。

 大学時代そうやって忠告されて、委縮してしまった人たちをよく見てきた。実際、子供のころ、そう言われて自分が嫌になったって話をよく聞いたから。

 それよりは、そういうことを理解できる方がいい。

 それに、ライン兄さんは聡い。自ずと気が付くだろう。

「どういたしまして。それより、僕も遊んでいい?」
「いいよ」

 ユリシア姉さんが独占するスマートボールを、次はライン兄さんが奪うように取り、遊び始める。

「あ、ちょっと、ライン! 今、ちょうどいいところだったのに!」
「いいじゃん、僕にだって遊ばせてよ!」
「良くないわよ!」

 まぁ、一台しかないので喧嘩になるのは当然。

 なので、

「はい。これ」
「もう一個あったの? なら、さっさと出しなさいよ!」
「あ、アハハ」

 喧嘩になりそうだったから、分身体に速攻で作ってもらったんだが……

 まぁ、いいか。

 ユリシア姉さんは“宝物袋”から取り出したもう一個のスマートボール奪い取り、楽しそうにボールを打つ。

 ……まぁ、二人とも楽しそうで良かった。なんというか、自分が作ったもので楽しんで遊んでもらっているのを見るのは、嬉しいものである。

「うぅ~」

 と、モニョモニョする心に浸っていたら、ブラウが俺を睨んできた。ユリシア姉さんの懐からハイハイで抜けだしてきて、俺をポカポカと殴り始める。

 あ、そういえば、制止したばかりだったな。

 でも、ユリシア姉さんとライン兄さんが遊んでいるスマートボールはやすりを掛けてないし、楽しそうに遊んでいる二人を静止して、やすりを掛けられそうもない。邪魔にしたら凄い怒られそう。

 そもそも、ブラウはスマートボールのレバーを引く力もあんまり……

 あ、そうだ。

「ブラウ。絵を描いてみる?」
「え~おあう?」
「そうだよ」

 ブラウを膝に乗せた俺はスマートボールの盤上に使った板と、他、色々を“宝物袋”から取り出す。召喚した分身体に急いで盤上の板をやすりを掛けてもらう。

 掛け終わった。

 その間に、バケツに水魔術で水を溜め、パレットに絵具の元となる塗料を出す。

 ……ブラウが塗料を舐める可能性もあるから、使う塗料は金属や毒性のある植物を原料としないやつだけを出す。

 そのため、使える色はかなり限られるが、まぁいいだろう。

 とはいえ、安全性はあるけど、塗料は塗料。ブラウが舐めないように気を付けて見ておかないとな。

 そう思いながら、俺はブラウの前にやすりを掛けた板を差し出す。それから、水で筆先を少し濡らし、緑の塗料をつけた筆をブラウに見せる。

 ブラウはじっとその筆を見る。

 俺はそれを確認してから、絵具を付けた筆を板に降ろす。絵を描く。

「ブラウ、こうやるんだよ」
「う~~、あ! あっぱ!」
「はっぱだね」

 ブラウがキャッキャと笑う。

 なので、俺は筆をブラウに握らせる。もちろん、その上から軽く俺の手を添えてる。口元に運んだり、振り回さないようしなければならないし。

「ブラウ、ここにこうやって」
「おうやって?」
「そう、そうだよ。上手い、上手いよ。ブラウ」
「あ、キャキャ! あ~だ~ぶ!」

 添えた俺の手の誘導も相まって、ブラウは板に絵を描いていく。

 まぁ、線はぐちゃぐちゃだけど、ブラウは楽しそうにしているし、兄バカというか、普通に上手いように感じる。

 俺はブラウの前にパレットを差し出す。

「じゃあ、色を変えてみようか?」
「いお?」
「そうそう、色。今は、緑。みどりいろ」
「いどりいお!」

 ブラウがキャッキャと笑う。ああ、癒されるし、楽しい。嬉しい。

「それでこれが、黄色だよ。き・い・ろ」
「いいろ!」
「そうそう、黄色。合わせてみようね」
「あ~う!」

 さりげなく誘導しながら、パレット上で緑色と黄色を混ぜ合わせていく。

 すれば、黄緑色が出来上がる。本来、緑は絵の世界においては青と黄色、一対一で作るものであるが、そこに更に黄色を一加えると黄緑色になる。

「おっとあっぱ! あうのいお!」
「そうだね。もっと葉っぱだね。アルの葉っぱの色だね」

 ブラウがウキャキャとはしゃぐ。

 それから、板に思い思いに筆を走らせていく。

 くりくりした青の瞳は真剣な様子で板を睨み、途中途中でむ~と唸りながら悩み、突如として筆を走らせる。

 気ままな芸術家のようだ。

 そして、ブラウが板を一面、好き勝手に緑と黄緑色で埋め尽くしたころ、

「面白そうなことしているじゃない」
「僕にもやらせてよ」

 ユリシア姉さんとライン兄さんがこっちに興味を示してきた。

しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...